作品タイトル不明
シャルロットとロラン
城に戻ったロランは使用人達が上空のドラゴンを見上げながら話をしている姿を見た。
耳を澄まし聞くと、その内容はまさしく影達が流した噂話。先ほど流した噂があっという間に城の中でも噂され始めた現状に驚きながらも順調に進んでいることに安堵する。
ロランはもう一つ、重要な用事を済まそうと城の奥へと歩き出した。
ロランの傍には魔法使いに変装したランスロットの姿がある。
ロランは軟禁されているシャルロットに会いに行った。
*
ロランの来訪にシャルロットは喜びの瞳を潤ませる。しかしロランはシャルロットをチラッと見ただけで表情を変えず勧められたソファに腰掛け目の前にいるシャルロットの両手を見つめた。
シャルロットの両手は小刻みに震えていたが、ロランを見つめる眼差しは意外にも自信に満ち溢れていた。そのチグハグな様子にシャルロットがドラゴンの卵に手を出したと、直感的にわかった。
ただ、この部屋にドラゴンの卵が無いこともわかった。
なぜならいつもそばにいるはずのシャルロットの侍女マリアンヌが居ない。どんな時もマリアンヌはシャルロットの側にいる。居ないとなれば、それが何を意味するか今のロランは気がついてる。
だがロランはそれを口にすることはしない。シャルロットの真意がわからないからだ。ただし、釘を刺す一言だけ伝えようと決めている。
シャルロットは久しぶりにロランに会えた喜びを包み隠さず話し始めた。
「ロラン、まさかロランから会いに来てくれるとは思っていなかったわ。先ほどドラゴンが現れたと聞いて恐ろしくて……」
そう言いながら涙を拭う。以前ならその姿に多少心を痛めた。けれど今はそんな気持ちになっていた過去の自分すら忘れたい。涙の裏でジゼルを貶めていた目の前の、真の悪女に心を痛めるロランは居ないのだ。
ロランは冷めた眼差しを向けシャルロットを見つめる。シャルロットはそんなロランの眼差しを気にせず話を続ける。シャルロットは以前からそうだった。
「ロランが一人で戦うと聞いて、すぐに駆け付けたかったわ。けれど軟禁されてしまいそれも叶わなかった。だから唯一許された神殿での礼拝でロランの無事を祈り続けたの」
そう言いながら涙を拭う。
ロランは心底呆れていた。大勢の貴族の前でシャルロットを愛していないと示したにもかかわらず目の前のシャルロットはそんなことすらなかったかのようにロランに話しかける。それにロランを追い詰めた張本人が言う言葉か? と、図々しいを通り越し、その自分勝手さに拍手を送りたくなった。
「ロラン、お義父様とお義母様もロランの心配をなさっているの、どうか話を聞いてあげて」
シャルロットの言葉にロランの眉間に皺が寄る。
「意味がわからない。一体誰の話をしている?」
ロランの言葉にハッとしたような表情を浮かべシャルロットは恥ずかしそうな笑顔をこぼす。
「あ、ごめんなさい、つい。ジュベール公爵夫妻よ」
その言葉を聞きロランの頭に血がのぼる。ロランはさも当たり前のように話をするシャルロットに、それを受け入れている両親に吐き気がするほどの嫌悪感を抱いた。
だが、怒りをぶつけるのは今ではない。ドラゴンの卵の行方がわからぬ今感情をあらわにする危険を犯したくない。
ロランはシャルロットの戯言をあからさまに無視し、口を開いた。
「マチアスは元気か?」
ロランの言葉にシャルロットの笑顔が消える。明らかな動揺が見えた。
ロランはそれだけを言ってソファから立ち上がり部屋を出ようとした。シャルロットは立ち上がり背を向けているロランの服を両手で掴み背中に顔を埋める。
ロランは瞬時にシャルロットを払いのけ、倒れたシャルロットは立ち去ろうとするロランの足を掴み泣き出した。
「ロラン、違うの、マチアスは、マチアスの事は……誤解なのよ!! ああっ」
シャルロットは嗚咽を漏らしながら、ロランの足を抱きしめ言い訳を始める。
「マチアスのことは誤解なの、ロランに話そうと……」
ロランは腰を屈め足にすがりつくシャルロットの両手を優しく握り締めた。
シャルロットはロランの態度に安心したように笑顔を向け立ちあがろうとした。
「……私は何も言っていない。私が 何(・) を(・) 知(・) っ(・) て(・) い(・) る(・) の(・) か(・) を……」
シャルロットはその言葉に目を見開き、ロランはシャルロットの手を冷たく払いのけた。
「ロラン! 話を、話をしましょう!!」
シャルロットは立ち上がりロランを追いかける。だがロランはシャルロットの言葉を無視し、そのまま部屋から出ていった。
*
執務室に戻ったロランは洋服に付いた薔薇の香りと、シャルロットの口紅に顔を顰めた。こんな洋服を着てジゼルの元に戻れない。ランスロットに今日は馬車で戻ると伝え、仕方なしに馬車を呼び、別邸に戻る前にブティックに寄った。そこで既製品の新しい洋服に着替えそのまま帰宅した。
別邸に到着するとジゼルが出迎える。嬉しそうな、ホッとしたような笑顔をロランに向けた。
馬車を降りジゼルを見つめ笑顔を浮かべる。ジゼルは一瞬戸惑ったような表情を浮かべたが目線を下げロランに挨拶をした。少し元気がないようなジゼルを見て心配になり見つめると、ジセルはいつもの笑顔をロランに向けた。
寂しい思いをさせてしまったと、ロランは反省する。せっかくの休みをたった四日で終わらせてしまった原因はシャルロットにある。ますますシャルロットを嫌いになる要素が増えたとロランは内心思いながらも、一緒にいる時間はジゼルの為に使おうと部屋に向かった。
食事の時、ジゼルはいつものようにロランに温かいスープを出す。この幸せで穏やかな日常がずっと続くことをロランは願わずにいられない。
魔力が落ちた今、不安だらけだ。シャルロットに対抗できる魔力すらない。
だがその姿をシャルロットにも王家にもジュベール夫妻にも、そしてジゼルにも見せるわけにいかない。
堂々とした大魔法使いロランであり続けることがジゼルを守ることになるからだ。
食事を終えたロランは執務室に行った。先ほどヤニックから話があると耳打ちされたからだ。
部屋に入るとすぐにヤニックが現れた。
「ロラン様、少し気になることがございまして」
「ジゼルのことか?」
ロランは椅子に腰掛けながらヤニックの顔を見る。
ヤニックは頭を下げ話し出した。
「実はジゼル様宛に、郵便物が届いているようです。ジゼル様がオーブリーから受け取っている姿を見てオーブリーに聞いたところ、差出人がない郵便物だったと、もしかしてジゼル様の一族、メルシエ家がジゼル様の名誉が回復なさったことを良いことに言い寄っているのではないかと…………」
ロランは唇を結ぶ。メルシエ家。ジゼルの実家。
結婚準備金をジゼルに渡すことなく、ジゼルの故郷オラールからジゼルを徒歩でここまで来させた一族。ボロボロのドレスにボロボロのカバン、わずかな金を持たせ追い出したメルシエ一族。
ロランはあの日ヤニックが見たジゼルを想像し両手を握りしめた。それと同時に浅はかだった自分自身も思い出す。だが、今はメルシエ家のことを考える時。
「ヤニック、メルシエ家に使いを出せ。ジゼルに関わるなと、私の名前でメッセージを送ってくれ。その約束を守ればいずれ会いにゆくと」
「ロラン様、ジゼル様に相談しなくて大丈夫でしょうか?」
ヤニックはジゼルの立場も考え助言する。
「……ヤニック、ジゼルが本当のことを話すと思うか? 実家から手紙が来たと私に話すだろうか? ジゼルはおそらく黙っているだろう。私に迷惑をかけると思うのがジゼルだ。だからこそ、私が処理したいんだ」
ロランの言葉にヤニックも納得する。
「わかりました。では早速そのようにいたします」