作品タイトル不明
四ヶ月と十五日目の夜
ロランは五日間目を覚まさなかった。
倒れた原因は急激な魔力の減少だ。ロランもそれを想定していたのか、五日間眠っていたと聞いた時もさほど驚かず、それよりも眠っていた間に起きたことをグレアムに聞いた。
*
ロランが破壊消滅魔法を放って以来、敵国ブルレック王国は混乱していた。マチアス王の生死は不明。
混乱に乗じブルレック王国を叩き潰すこともできたが、ドミニクが王でいる限りブルレック王国を手に入れても厄介なだけだとロラン派貴族が判断し進撃しなかった。
当のドミニク王はずっと沈黙を守りロランを労う言葉もなければ、ロランを助けようと王命に背き駆けつけた魔法使いや貴族を責める言葉も無く、ブルレックに進撃せよ、とも言わなかった。まるで、ロランに恐れをなし関わらないようにしている印象だ。
だが、辺境の民や噂を聞いた国民はこのおかしな戦い方に違和感を持っていた。大魔法使いを一人で戦わせた国王に不信感が募り、何も発表しない王に対しさまざまな噂が飛び交うようになった。そして、王族派とロラン派に分断されつつある国の行く末を案じていた。
そこで調整役としてジュベール夫妻が任命され再びロランを訪ね来た。ロランは「話す価値もない」と、二人を追い返す。それでも二人はロランを訪ね続けた。
たった一人の息子ロランを心配する親心と、王国を守るジュベール公爵家として王族と、ロラン派貴族の不和の調整を担っている。その責任は重い。
ジュベール公爵家は長い歴史の中で王国の平和と安定を担っていた立場だ。ロランもそれはわかっている。だが、このような状況を作り出した原因は王家と公爵夫妻にある。
ロランがジゼルの潔白を証明し、シャルロットの悪行を白日の元に晒し裁判を行うはずだった。ただ、
ドミニク王は裁判を避けたいがためロランに取引を提案し、シャルロットを軟禁した。
ロラン自身もそれを受け入れていいと思っていたため、これで一見落着するかと思われた最中、ロランとシャルロットの結婚が浮上した。それも実の両親からだ。両親はロランに断りもなくシャルロットの謝罪を公式に受け入れ、その上ロランとの結婚まで提案している。さらにジゼルを愛人に、と、言ったのだ。
ロランの気持ちを一切無視したその提案はロランがジュベール公爵家を除籍する決意をさせ、一人敵国ブルレックと戦う決意をさせ、一時的ではあるが、大魔法使いの魔力を消失させた。
そんな両親をロランが受け入れるはずがない。
話は平行線、だが、ロランの気持ちを一切無視したこの対応はロランの心をより一層冷やした。
そんな中、リカルドが新たに大魔法使いと聖女の悲恋を題材にした物語を発行し爆発的な人気を博した。
あの頃悪女だったジゼルは今や聖女として国民に慕われ、ジゼルにとって全てが良い方向に進み始めていた。しかし本人はその事実を知らない。
ロランの置かれている状況が安定しない限りジゼルを巻き込みたくないというロランの配慮だ。
だが、その配慮は裏切りより二人の別れに繋がる。
ロランとジュベール公爵家の話し合いはそれからも一切の進展はなく、ロランが頑なに取り合わない状況の中、彼らが次にどのような行動を取るか推測していたロランはその対策を講じた。
*
程なくし、状況が落ち着いた頃、ジュベール公爵家の分家がこの領地に滞在することとなり、ロラン派は王都に戻った。
ブルレック王マチアスの安否はわからぬままだったが、ジゼルと結婚して四ヶ月と十五日目の夜、ロランは別邸に戻った。
部屋に戻ったロランはジゼルがいないことに気が付き部屋を飛び出た。何かがあったかもしれないとヤニックを呼ぶ。
「ヤニック!! ジゼルはどこに行った!?」
ロランの声を聞いたエミリーは慌てて部屋に飛び込み窓を開け叫んだ。
「ジゼル様!! ロラン様がお戻りです!……ロラン様、お帰りなさいませ。あの、ジゼル様はお元気です」
エミリーはバツの悪そうな表情を浮かべロランを見る。
「エミリー、何かあったか? なぜジゼルはここにいない?」
ロランは怪訝な表橋を浮かべ聞いた。一瞬何か事件が起きたのかと思ったが、エミリーの様子を見ると落ち着いている。ジゼルが自主的に何かをしたのだとわかり、ロランは言った。
「……いや、良い、ジゼルに直接聞く。エミリー下がって良いぞ」
エミリーはロランに頭を下げ出ようとした。
「あ、まて、エミリー、ジゼルはあれ以来泣いていないか?」
「はい、ロラン様、ジゼル様が泣いていた理由は未だにわかりませんが、今は使用人達に生活の知恵を学んでいらっしゃって、明るく笑うことが多くなってまいりました」
その言葉を聞き、ロランは安堵する。明るく笑うジゼルを想像するだけで疲れた心に日差しが届いたような温かい気持ちになる。
「ところで、この部屋の花は誰が? いつも執務室に飾られる花とは何か違う気がする」
「あ、お気づきになられましたか? ロラン様の執務室はジゼル様が摘んだお花を飾っております。疲れを癒すようなお花を自ら選ばれてます。寝室はオーブリーです。毎朝ジゼル様のために届けに来ています」
「オーブリーがここに?」
「はい、そうです。あ、ジゼル様がいらっしゃったようですので、私はこれで」
下がったエミリーと入れ替わりジゼルが部屋に飛び込んで来た。