軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

逃がさない

「ハァハァ、ロラン様、も、申し訳、ございません!」

ジゼルは息を弾ませロランに向かって頭を下げる。

ロランは勢いよく部屋に飛び込んで来たジゼルを見て驚いた。

生き生きとしたジゼルの姿は悲しみに俯いていた面影はない。

ジゼルはロランの驚いた表情を見て、慌てて両手で髪を撫で付け、外套を脱ぎ頭を下げる。

その時、一枚の葉がひらひらとジゼルの髪から落ちた。

(ん?)

ロランはその葉に違和感を感じたが、ジゼルが素早くその葉を拾い上げた。その瞬間に違和感は消える。

「あ、改めまして、おかえりなさいませ……お出迎え出来ず申し訳ありません」

ジゼルは顔を赤くし頭を下げ上目使いにロランを見つめた。

ロランは握られた葉に目をやりながらも、以前と違うジゼルのしっかりとした瞳に釘付けになる。

「どこかに行っていたのか?」

「いえ……庭園におりました」

それはみたらわかる。どのような心境の変化がこの行動に結びついたか、なぜ庭園にいたのか、ジゼルの心の動きが聴きたいのだ。

「何をしていたんだ?」

ロランはできる限り優しく、威圧感を与えないよう細心の周囲を払うが、その質問にジゼルが緊張した。

「木登り、を、その木の上で眠っておりました」

しかしジゼルは緊張しながらも突拍子のないことを言う。一瞬ロランの思考は停止した。

(ジゼルが木登りをし、そこで眠る?)

意味のわからない行動に何か起きたのだと緊張が走った。

「……木登り? 私がいない間に何か大変なことでもあったのか?」

ロランは穏やかな口調を崩さず聞く。

(あのジゼルが木をのぼる、など、誰が想像できようか?)

「いえ……」

できる限り優しく聞いたが、それでもジゼルは俯いてしまった。ただ、今までと違い信念があるような俯き。悲しみに暮れるそれでないことにロランはジゼルの成長を垣間見た。

「あの、ロラン様……」

ジゼルは顔をあげ、声を詰まらせながら話し始めた。ただ、緊張しているのか両手は強く握られている。

「あと一月半でここを出てゆきますから……その為の練習をしています。ちゃんと約束守りますから……」

真っ直ぐとロランを見て話し出すその様子に、ロランは心底驚いた。

ジゼルの瞳は確固たる決意の光が見え、不安定に揺れることはない。

そこに至るまでの苦しみ、葛藤はどれほどだったのか。

自分を変える唯一の方法は、徹底的に自分と向き合うしかない。その辛い作業を繰り返し、乗り越え、はじめて見える世界が変わるのだ。ロランも例外なくそれと向き合い苦しんでいる。

そんな覚悟をさせてしまっている現状に心苦しく思いながらも、三度目の契りで愛を伝えあった今、ジゼルの出てゆくという言葉はロランを動揺させた。

「出て、どこにいく?」

ロランは語気を強めジゼルを見た。

その言葉には伝えられない気持ちと、出てゆくと平気な顔をし言ったジゼルに説明できない感情の揺らぎが含まれる。

ただ、ロラン自身もジゼルに何も伝えられていない現実がその後押しをしていることはわかっている。だが、全てを打ち明けジゼルにここにいて欲しいと言う勇気がない。状況が整わない中、全てを打ち明け、それでも、と、選んでもらえる自信がないのが本音だろう。その不器用さにロラン自身も気がついていない。

「どこか……遠くに行きます。ロラン様のお邪魔にならないように……遠くへ」

「私の邪魔?」

ロランはその言葉を聞き眉間に皺を寄せジゼルを睨むように言った。

(邪魔だと思ったことはない)

なぜそんな言葉が出てくるのかロランは全くわからない。あの日の契りで言葉にしなくとも気持ちは通じ合えた、と、思っていただけに噛み合わない感覚が鮮明になり始める。

「はい、あの……ロラン様はシャルロット様と一緒になられるから、形だけだったとしても元妻が王国にいるのは、きっとあ、そんな気になさらないほど私はなんでもない人間ですが、そんな存在居ないほうが良いと思いますから……遠くに……」

「……ハァ」

ロランはため息を吐きながら首を左右に振り、黙ってジゼルを見る。

ジゼルは瞼を閉じ何かに耐えているように唇を結んだ。

一体何がジゼルをそうさせるのか、ロランは別邸を長くなはれていたことを後悔する。

ジゼルはゆっくりと瞼を開け手の中の葉を見つめた。木の葉はジゼルの手から落ちる。その葉にうっすらと魔力の痕跡があった。

魔法で管理していないはずの庭園に魔法の痕跡があるなど違和感がある。

ロランは黙ってその様子を見ている。外部の人間が魔力を使えばヤニックがそれを見逃すはずがない。

(オーブリーがジゼルのために魔法で枝を払い木の上で過ごせるよう調整したのだろうか? それなら納得するが……)

「あの、ロラン様、急ぎ戻ってまいりましたので汚れた格好で……その、申し訳ありません、急ぎ着替えて参りますから、あの、少しお待ち下さいませ」

ジゼルは頭を下げロランを見た。

少し潤んだ瞳、でもその瞳から意思の光は消えていない。それどころか高揚した頬はピンクに染まり、ボロボロのワンピースを纏うジゼルがより美しく見えた。

出て行こうと決意し言葉にしたジゼルに伝えなければならない。

(もう私から逃げられないことを)

ロランはソファーから立ち上がった。