軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

待ち受ける苦難

ドミニク王との謁見から一週間が経った。

ロランの命を受け、公爵家の影ランスロットがドミニク王の真意を探っている中、ロランを取り戻したいジュベール公爵家と、シャルロット、そしてドミニク王の動向が意外な人物により暴露された。

その人物とは、次期国王のガブリエル王子。シャルロットの兄だ。

ガブリエル王子はシャルロットと違い華やかさはない。

分厚いメガネをかけ、地味で存在感も薄い。ドミニク王の実子とは思えないと陰で噂されているが、誠実で真面目な人間性にロランは信頼を寄せている。

それに、ガブリエル王子は歴史を研究していたこともあり、聖女と大魔法使い、そしてジュベール公爵家を歴史家としてリスペクトしている。

その姿勢に邪な思いは感じない。

王家唯一の良心だとロランは思っている。

「ロラン、他国の文献を照らし合わせてみると、このカパネル、いやカバネル王国はジュベール公爵家のものだった。私は、王としての資質がない。だからジュベールに譲ってもいいと考えているんだ」

人懐っこい笑顔を見せながらガブリエル王子は紅茶を口に含み、ロランに笑いかける。だが、メガネの奥には静謐な賢さが見える。

周りからの評価が低いガブリエル王子だが、ロランは内に秘めた聡明さに気がついている。

「ガブリエル様がそのようなことをおっしゃってはなりません。カパネルはガブリエル様が即位し治めるべきところ」

ロランの言葉にガブリエル王子は眉を顰める。

「だが、正直に言えば、わかっているだろ? 今の王室は民から支持されず、ジュベール公爵家に見放されたら崩れる」

「ガブリエル様、ジュベールは私を次期当主として認めていません。私としても妻を認めない家門に未練はございません。それに、ドミニク王がその言葉を聞いたらショックで寝込みます」

ガブリエル王子はロランの言葉に複雑な表情を浮かべた。

「……陛下は冷たい人だ。シャルロットの愚行で支持も下がっている、いや、民を大切にしない陛下は元々支持されていない」

ロランは肩を落としため息を吐くガブリエル王子を見つめる。城の執務室に突然訪ねてきたガブリエル王子は話をしながらも他のことを考えているようにどこか落ち着きがない。

「ところで、ガブリエル様、話があるのではないでしょうか? 突然の訪問の理由をそろそろ教えていただけませんか?」

単刀直入に問いかけるロランに対し、ガブリエル王子は一瞬ハッとしたような表情を浮かべたが、そのまま視線を落とし言葉を探すように黙り込んだ。

その様子に只事ではない気配を感じロランは気を引き締める。

「……ロラン」

ガブリエル王子は視線を落としたまま本題を切り出した。

「ブルレック王国のマチアス王が、国境に兵士を派遣しようとしている。ジュベールの防御壁があるが、おそらく山を越えてくる」

(ジゼルを狙う男マチアス!!)

ロランの表情が険しく変わる。

「それで?」

「おそらくその戦いにロランは行かされるだろう。ただし、孤立無縁になる」

「……孤立無援。私一人で戦うことになるという意味でしょうか?」

ロランは怪訝な表情を浮かべ目を細めるが、次第にその視線は鋭いものに変わる。

「ロランは国境を守るニコラ伯爵を殺した。ただ、ニコラは国を裏切っていた。だからその行動を陛下は咎めなかった。だが、今辺境を守る人間がいない。その中でブルレックの進撃となれば陛下はその責任をロランに問う。そして……」

ガブリエルは一瞬の沈黙を置き、再び話し出した。

「……そして、その状況であってもジュベール公爵は公爵家を出てゆこうとするロランを助けない。ロランが要求を呑むのならジュベール一族はロランをサポートするだろう。最悪なことだが、陛下はシャルロットを介しジュベール公爵家と結託したのだ。五ヶ月が過ぎたらロランとシャルロットを結婚させたい。それが王家と公爵家の望み。私には……止める権利もなかった。すまない…………」

ガブリエルは無力な自分を責めるように唇を結び、短く侘びた。

「王家とジュベール公爵家が結託した……」

呟くように言葉を吐き出す。

予想のつかない方向に進む現実に気が遠くなる。

シャルロットは軟禁される前に手を打ったのだ。

ドミニク王とジュベール公爵家を結託させ、マチアスの進撃を利用し、ロランが身動きできないよう外堀を固めた。

ドミニク王は人気が地に落ちたシャルロットを他国に嫁がせることよりも公爵家に送り込んだ方が遥に利益があるとこの話に飛びついた。

ジュベール一族は平民に近い身分のジゼルよりもシャルロットを公爵家夫人に据えたい。それに、あれだけのことをしでかしても積み上げた偽りの信頼関係を信じきっているジュベール公爵夫婦とその一族。挨拶に来ないと言ってジゼルを毛嫌いするほどシャルロットに惑わされ心酔しているのだ。

三者の思惑が合致した。

ジゼルとの結婚を解消させた後、次期公爵家当主ロランとカパネル王国の姫シャルロットを結婚させる。

それを拒否するならば、孤立無縁で戦えとロランを脅迫しているのだ。

大魔法使いと雖も無敵ではない。ダークネスドラゴンを召喚し、大規模な破壊力を引き出そうとすれば魔力の消耗が激しい。それを補うには相応の時間も必要になる。

大群が押し寄せる中で一族のサポートなしの戦いなど、現実的に不可能だ。

ロランは言葉にならない衝動を手の中に閉じ込める。

リカルドのシナリオがなくともシャルロット自身が考えた新たなシナリオが進行している。

この狂気じみた現実、深淵を覗き込むような寒気のする強い執着。

愛する人を手に入れるために愛する人を窮地に追い込む。

シャルロットのこの手法はロランの想像を遥かに超えていた。

「こ……ここまで、するのか…………」

喉元まで出かかった爆発しそうな感情を堪え、絞り出すように言葉を繋ぐ。

ロランは五百年前、婚約者の凄まじい執着により カミーユ(ジゼル) を失った。

あの悲劇の記憶を思い出し頭の中が真っ白になる。

(今、その危険な思考は私に向けられているが、シャルロットの本当のターゲットはジゼルだ)

ロランの静かなる怒りが室内に溢れ出す。

(シャルロット!!……なんと卑怯な女!!)

空気は震え、目の前のカップがその圧に屈するように砕け散る。

ガブリエル王子はロランを助けられない無力感に苛まれながら瞼を閉じ唇を結んだ。