軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ロランの覚悟

ロランは鎮痛な面持ちのガブリエル王子を見て、我に返り頭を下げる。

「ガブリエル様、巻き込んでしまい申し訳ありません。これは私の問題ですのでどうか心痛めぬように……」

ガブリエル王子は力になれなかった現実を詫びるようゆっくりと首を振り言った。

「ロラン、私はロランの気持ちはわかっている。だが、現実的に一人で戦うことは不可能だ。難しくとも話し合いで解決を試みてほしい」

その言葉にロランは両手を握りしめる。

窮地に追い込み折れるのを待っているドミニク王とジュベール一族、そしてシャルロット。

話を尽くし解決できる相手ならばこんなことにはならない。

(解決と言えば聞こえはいいが、理不尽な要求を呑む以外の選択肢は与えられないことくらいわかる。それならば一人で戦い死んだとしても悔いはない!)

しかし、そう思いながらも冷静になる。

(死んでも後悔はしないが、ジゼルを一人置いて逝けない。衝動的になればジゼルを危険に晒す。冷静にならなければ……)

ロランは動揺する心を落ち着かせるよう深呼吸した。

要求を拒否したい。

王家とジュベールが結託し窮地に追い込む形でシャルロットとの結婚を要求している中、シャルロットの裁判などしても意味がない。

この、脅迫されている状況を世間に公表すれば聖女と大魔法使いの仲を引き裂く王家とジュベールに憎しみの目が向けられるだろう。だが、ロランを助けようと民は辺境に殺到し、多くの犠牲者が出る。そしてその事実をジゼルが知ったら背負う必要のない罪の意識を持ち、この世界から出ていってしまう可能性がある。

やはり、答えは一つ。

一人で戦い、勝つしか方法はない。勝てば誰も何も言わない。

ジゼルに負担をかけない最善の方法。

「ガブリエル様。私は大魔法使いです。私の存在意義は魔力のない娘を守るためだけに存在します。たとえ一人になったとしても妻が生きている限り負けるつもりはありません」

ロランの瞳に静かな決意の炎が宿る。その灯りにダークネスドラゴン、バジルが覚醒しロランに話しかける。

『ロラン、覚悟するんだ。大魔法使いと言えども魔力が枯渇すればロランは死ぬ。良いか、ジゼルを守りたければその事忘れるでない』

ロランは頷く。

徹底的に二人を引き裂こうとする王家とジュベール公爵家。

孤立無援の戦いが始まる。

数日後、ガブリエル王子が言った通り、ドミニク王はロランに辺境の戦争が勃発したらその責任を負い戦えと言った。ただ、あからさまに一人で戦えとは言わなかったが、なんだかんだと理由をつけ、最低限の兵士しか与えなかった。

そして、申し合わせたようにジュベール公爵家もロランが折れない限りこの件は手助けをしないと言った。

理不尽な要求。

ロランは全てを捨て戦いを放棄しジゼルと共に逃げることもできる。

しかしその為にはジゼルに全てを打ち明けなくてはならない。

ジゼルはロランの窮地を知れば間違いなく自分を責め去るだろう。

それは出来ない。

だが裏を返せばドミニク王もジュベール公爵家も、ロランが圧倒的不利な状況で戦うとは思っていない。

ロランが必ず折れると信じ疑っていない。だからこそ、そんな危険な賭けに出たのだ。

だがロランの返事はその予想を覆した。

「……仰せの通り、私は辺境に向かいます」

ロランの答えにドミニク王は目を見開き王座から立ち上がった。

「ロラン、本気か!? いくら大魔法使いと雖もそれは圧倒的に不利だ。それにジュベール公爵の気持ちも考えてくれ。そしてシャルロットは心からロランを愛しているんだ。皆、ロランが戦いで傷つくことを望んではいない。私も、こんな要求はしたくない。ブルレックの出兵までまだ時間があるだろう。数日考えるがいい」

「考えるまでもありません。その王命お受けいたします」

ロランは迷うそぶりも見せずハッキリと言い切った。

ドミニク王はまさかロランが迷いなく返事するとは思っていなかっただけに慌てふためく。

「ま、待て! ロラン! よく考えるんだ」

引き止めようとするドミニク王に頭を下げ、ロランはその場から去っていった。

その後、別邸に戻り、ヤニックにことの顛末を話す。

「な、なんと!! ロラン様!!」

ヤニックはこの状況に悔し涙を流す。

少数の兵でブルレック軍を迎え撃つなどあり得ない話だ。

ジュベール公爵もまさかロランがその選択をするなど思ってもいなかっただろう、今頃思い悩んでいるはずだと、ヤニックは本家に乗り込み公爵夫妻を説得しようと顔を上げる。

しかしロランはヤニックを止めた。

「ヤニック、その気持ちは嬉しいが、私は負ける戦いをするつもりはない。大魔法使いは全てを破壊する力がある。だがそれは、この世界に誰も生き残らないという意味だ」

「ロラン様、それはなりません。どうか、どうかジゼル様のためにもそんなことをしないで下さい」

「……それほどの覚悟があると言いたかっただけだ。心配するな」

「ロラン様、本当にジュベール公爵家をお出になるのでしょうか?」

「ああ、私はたとえ死んだとしてもシャルロットと一緒にはなりたくない。私の妻はジゼル。彼女だけが永遠に私のたった一人の妻だ。ヤニック、この先なにがあろうともこの言葉を覚えておいてくれ」

「ロラン様、そんな不吉なことをおっしゃらないで下さい!!」

「そんなに怒るな。ただ、一番近くにいるヤニックにだけはこの思いを知っておいて欲しかっただけだ」

ヤニックはその言葉に涙を拭った。

だが、ロランのその言葉が、後のジゼルの生き方を大きく変えることになるとはロラン自身も想像していなかった。

こうしてロランはジゼルに何も告げず、自らの意志を貫くため、一人戦う決意をした。