作品タイトル不明
ロランの友人
衝撃に目を見開く。
ロランに断りなく謝罪を受け入れるなどあり得ない行為に言葉が出ない。
(お父様は一体何を考えているんだ!?)
一気に怒りが湧き上がったが、その姿を見せるわけにはいかない。
上手くいっていない一族との関係をあからさまにすることは危険だ。
「左様ですか。ジュベール公爵が謝罪を受け入れたと。けれど、先ほど申し上げた通り、ジュベールは関係ありません。大魔法使いでありジゼルの夫である私は謝罪を受け入れません」
ドミニク王はロランの態度が癪に障ったようで顔を歪めたが、それ以上何も言わなかった。
それがまた薄気味悪いとロランは警戒を強める。
「ところでロラン、提案をしたい。シャルロットをロランの結婚が終わる時まで軟禁し一切の活動を許さない。この提案はどうかな」
(ジゼルとの結婚期間が終わる? 終わるつもりはないが、ジゼルに手を出させないと言う意味なのか?)
ロランはその言葉に耳を疑った。先ほどからのドミニク王の対応は予想と大きく違う。決別も仕方がないと腹を決めここに来たがこの状況に戸惑い始める。
(数ヶ月活動をさせない……)
シャルロットはドミニク王の三女だ。兄の王子は次期王として政務をし、姉は他国に嫁いだ。残るシャルロットはその美貌から求婚者も多い。
ロランもそれを知っていたからこそジゼルと結婚が決まった時にシャルロットのために別れようと言ったのだ。シャルロットの活動が停止すると言うことは、結婚外交が止まると言うこと。
確かに、今の状況は結婚どころではないだろうが、ロランにとって悪くない提案であることも事実。
(この先、シャルロットの軟禁が解除されても私の制約魔法が解けジゼルと向き合える。悪くない提案だ)
それにロランがシャルロットの罪を訴えた場合、公平な裁判により罪を暴かれたシャルロットのプライドはへし折れ、ジゼルの名誉が公的に挽回できる。
だが、実際、それをしなくとも今ジゼルの人気は高く、シャルロットが軟禁されれば心配もなくなる。
だが、ドミニク王の提案は言い換えればシャルロットを人目に晒さず守るという側面もある。
ロランはドミニク王の言葉の真意がわからない。
わからないだけに今は答えない方が良いと判断する。
「陛下、そのご提案は保留にさせてください。しばし考えたい」
ドミニク王はロランの返答に表情が緩む。
「ロラン、シャルロットは反省している。決してジゼルに手を出そうなど思わないはずだ。信じてほしい」
ロランは唇を結び頭を下げた。
(返事はしない方がいい。油断はできない)
そう判断し、その場から立ち去った。
どこか釈然としないモヤモヤした気持ちを抱えならがロランは城の執務室に入った。
「ロラン!! お前、すごいことしでかしたな!!」
グレアムが嬉々とした表情を浮かべロランの執務室に入って来る。
グレアムはロランの友人でありロランの次に魔力が高い同じ黒魔法使いの男。
ロランはノックもしない友人に呆れつつも返事をする。
「グレアム、妻を守るためだ」
その言葉にグレアムは信じられないという表情を浮かべ、グリーンの瞳を丸くし笑い出す。
「ロラン、お前、ほんと不器用な奴だな。もっと違う方法あるだろ? まさかダークネスドラゴンまで召喚するとは!!」
「グレアム、それほどのことだ」
ロランはムッとし、答える。
グレアムはその言葉にとびきりの笑顔を浮かべロランの肩に手を置き言った。
「今度愛する妻を紹介してくれ」
ロランはグレアムの言葉を無視し、話を変える。
「ところで、グレアム、お前魔法使いじゃなかったらどこに行きたい?」
ロランはジゼルのことを考えながら質問をした。
「何だ突然? あ、ジゼル様のことか、お前、主語を言えよ。ジゼル様をどこかに連れて行きたいって?」
察しの良いグレアムはロランを揶揄うようにニヤリと笑う。その笑いにロランは弱みを握られたような感覚に陥るが、他に相談する人間もいない。グッと堪えグレアムを見る。
「ロラン、令嬢達は素敵なレストランや、ジュエリーショップが喜ぶぞ?」
その言葉を聞いたロランはヤニックの言葉を思い出す。ジゼルはそんなことに喜ぶ人間ではない。
聞いた相手が悪かった。ロランはため息を吐きグレアムに言った。
「……もう良い。忘れてくれ」
ロランはそのままグレアムを部屋から追い出そうと背中を押しドアを開ける。
「お、おい、何だよ一体、そういうことじゃないなら、あ、う、海、海とかどうだ? ジゼル様は内陸の出身だろ? 海を見たことないじゃないのか?」
ロランはその言葉にハッとする。ジゼルの前世、カミーユを海に連れて行ったことを思い出したのだ。
「グレアム、良いアイデアだ。採用する」
「そうか! それは……あ、お、おい!!」
ロランはそう言ってグレアムを執務室から追い出し窓から外を眺めた。
ジゼルがカミーユだった頃、初めて見る海に輝くような笑顔を見せてくれた。
ドラゴンのバジルも喜んで何度も海に飛び込みその水飛沫を浴び濡れた二人は顔を見合わせ笑った。
切なくて、苦しくて、忘れたくなくて、でも忘れなければ生きて行けなかったカミーユとの時間。
「でも、神は再び彼女に会わせてくれた。今度こそ、絶対に守る」
ロランはランスロットを呼び、ドミニクの真意を探るよう命令した。