軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

29.クッキーは魅惑の味

変装したウィル様と手を繋いだまま街中を歩く。

男性と手を繋ぐなんて、何年も前に父兄としたのが最後ではないだろうか。なんとも落ち着かない。離してはダメだろうか。そう思い、少し引いてみたがしっかりと掴まれたままだった。

「ウィル様、あの…」

「手は離さないよ?デートだからね。それから今日は僕の事はリーと呼んで」

「………はい、リーさん…」

返事はしたものの納得がいかない。いや、偽名を使うのは当然の事なのだけど、なぜこんなデートごっこを私としようとしているのだろうか。

王子ならばどんな令嬢も選び放題だろう。どう見ても乗り気じゃない私に散策を強いる理由が分からない。

握られた手に視線を落とす。

―――もしや先日の愚行を本当は許しておらず、この外出中に不慮の事故に見せかけて…!?

……いや、さすがにそれは無いな。クリスの本を探す為にいろんなジャンルに手を出したせいで、思考回路が毒されている様だ。

「あそこを覗いてみよう」

その言葉に顔を上げると、彼の指は小さな露店を示していた。

ニコニコとした初老のご婦人が、女性向けのアクセサリーや雑貨を販売している様だった。

「いらっしゃい。まぁ、可愛らしい2人だ。デートかい?」

「えぇ、見ていっていいですか?」

「どうぞどうぞ」

どうやら店主は王子だと気づいていない様だ。私もウィル様に続いて商品を覗き込む。

「…わぁ」

庶民向けの商品なので全体的に価格は安く抑えられているのだけれど、非常に丁寧に作り込まれた物ばかりだった。それに色使いのセンスが抜群に良い。

思わず感嘆の声を漏らすと、ウィル様は少し目を瞬かせたあと小さく笑った。

何か自分用に購入しようか。あぁ、それから姉や母にも。こんな素敵な物ならきっと喜ぶだろう。

曲がりなりにも貴族なので露店のアクセサリーは使えないけれど、綺麗な栞などはどうだろうか。ミニキャンドルも良いかもしれない。

「気に入ったものがあればプレゼントするよ」

「いえ、頂く理由がありませんので自分で払います」

商品を見ながらあれこれ考えている時に話しかけられたので、つい軽くあしらってしまった。

「あら脈無しだね、お兄さん」

「……いえ、まだこれからなので」

恐ろしい会話をしないでほしい。チラリとウィル様に目を向けると、彼も隣にしゃがみ込み真剣な眼差しで商品を確認し始めた。

―――

「また来てね~」という店主の明るい声に見送られ、商品が入った紙袋を抱えながら露店を後にする。

荷物が増えたがこれくらいなら従者を呼ばなくていいだろう。私が買った商品はどれも小さな物だったので、紙袋を折りたためばショルダーバッグへと収納出来た。

その横でウィル様も買ったブレスレットをズボンのポケットへと入れている。

女性物なので誰かへのお土産だろうか?もしかしてエリーゼ様?彼女なら大喜びだろう。

それにしても王子が露店で買い物をするなんて珍しい姿を見てしまった。

「ステラ」

声を掛けられ、ハッと顔を上げる。当たり前の様に差し出される手を前に少し考えた。

――確認をしていなかったけれど、今日は何時まで拘束されるのだろうか?

10時30分に合流をして、もう12時近い。さすがに今すぐに解散とはならないだろうから、昼食を済ませたら帰らせてもらえないだろうか。…ううん、それとなくお願いしてみようか…。

「この先の公園で、ホットドッグの移動販売をしているみたいだよ。行ってみよう」

「は、はい…。あ、あの…リーさん。そのあとは私、もう……」

「その後、クッキーの専門店に行こうか。焼きたてが食べられるらしいよ。知ってる?ステラクッキーって…」

「はい、行きます!」

食い気味に頷いたら笑われた。仕方ない、焼きたてステラクッキーの魅力には誰も抗えないのだ。

差し出された手を今度はしっかりと握り、クッキーへの気持ちを抑えながら、ひとまず公園へと足を向けるのだった。