軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

28.お出かけの始まり

ガタガタと車が揺れる。少し固めのシートに背中を当て、過ぎていく景色をぼんやりと眺めていた。

今日は天気が良かったので屋根が無く日よけがついた自動車に乗ることにした。風情のある馬車で行きなさいと言われたけれど、オリーブグリーンの車体が愛らしくて気に入っているのでこちらにしたのだ。

――あの後、本当に大変だった。

母は「何かの間違いでは」と狼狽え、兄達は「妹が何かやらかした」と怯え、姉は「王子も見る目あるのね」と喜び、屋敷中大騒ぎ。

土色から復活した父に説明を求められたので、

「市中を見るお供として、最も庶民に近い私に声をかけてくださっただけで、他意などありません」

と言ってしまえば、父は納得しながら落ち込んでいた。

…前髪を揺らす風の気持ち良さに目を瞑っている間に、目的の場所についたのか車が止まった。

「着きました。どうぞお気をつけて」

「ありがとうございます」

カツリと茶色いブーツで石畳を鳴らしながら車から降りる。

今日は町民に変装してきてほしいとの事だったので、薄オレンジのシャツワンピースにブーツとお揃いの茶色いベストを羽織っただけの簡単な装いだった。

ポニーテールにした髪をゆらゆら揺らしながら数メートル先の待ち合わせ場所に移動する。

約束の時間までまだ30分あるけれど、間違っても王子様を待たせる訳にはいかないので早めに行って待機しておこう。そう思っていたのだけど…

「ねぇ、お姉さんひとり?」

「え?」

待ち合わせの噴水広場に着くなり見知らぬ青年に声を掛けられた。私より少し年上であろう青年は、日に焼けた顔に人懐っこい笑顔を浮かべて私の前に立っている。

「え…っと…?」

「俺さ、そこの自動車部品の店で働いてるんだけど今日休みでさ、良かったら一緒に遊ばない?」

「あ、あの、私…人を待っていて…」

「人?あ、じゃ、待ってる間だけ!ちょっと話しようよ。君どこの子?見かけない顔だよね」

「あ…その…」

「今日はどこ行く予定?待ち合わせは友達?あ、そうだ、君の名前は?歳も!俺はねぇ…」

矢継ぎ早に放たれる質問に頭が真っ白になる。情けなく固まっていると、不意に私の後ろから手が伸びて肩を抱き寄せられた。

「…お待たせ、ステラ」

聞き覚えのある甘い声。この密着する相手が 王子(しりあい) だと理解し顔を上げると、額に唇が落とされた。

「っ!!?」

「…えーーと…もしかして、その子の…彼氏…とか…?」

「……彼女に何か用?」

「あ、いや、……失礼しました!!!」

ウィル様の一声で青年は走って立ち去る。彼氏の振りをして追い払ってくれたのだろうか。

青年の姿が見えなくなってから体を離してくれた。

「あ、ありがとうございました…」

離れて気づいたが、変装の為に彼の髪は黒色に染められていた。それに加えカジュアルな服装に、帽子とメガネを装着しているので、いつもと雰囲気が違う。

もっとも、スタイルの良さまでは隠せていないので目立つのは目立つのだけれど。

そんな事を考えていると、体調が優れないのだろうか、彼は少し青い顔で気分が悪そうに口元を押さえた。

「だ、大丈夫ですか…?」

「あぁ…平気だよ。すぐに良くなる」

先ほどより元気のない声で言われても安心なんて出来ないのだけれど。傍で控えているであろう従者や護衛が姿を現さないところをみると、そこまで酷いものではないのだろうか。

近くにあったベンチを勧めると「君も隣に」と言われたので大人しく横に座った。

「………」

「………」

続く沈黙。とても気まずい。何か場を盛り上げる話題を頭の中で探してみるが、そんなものが私にある訳が無かった。

それより体調が悪いのならばお出かけは中止にした方が良いのではないだろうか。ウィル様の為にも、なにより私の為にも。

そう考え口を開く。

「あの……体調を崩されているのでしたら、今日はもう…」

「安心して、もう治ってきたから」

早い。脅威の回復力。彼の顔色を見る限り、その言葉は偽りではないのだろう。

大きく深呼吸をした後にベンチから立ち上がったウィル様は、私に手を差し出した。

「さあ、仕切り直しだ。デートしてもらえますか?ステラ」

「………ハイ」

訊ねる様に言わなくとも私に拒否権など無い。

またしても棒読みになりながら、渋々その手を取るのだった。