軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

27.探し物

―――雨が地面を濡らしていく。

ずっと行きたかったカフェの前で一人佇む幼い頃の私。店の前に取付られたオーニングでは受け止め切らなかった雨粒が、お気に入りのワンピースに染みを作っていく。

2度目の鐘の音が時計台から響く様に聞こえてきた。

「お嬢様、もう…戻りましょう」

ぼんやりと見ていたプランターの花から顔をあげると、傘をさしだす護衛がいた。1人で待つから離れていてくれと2時間前に告げてから度々声をかけてくれた彼は、ずいぶんと悲しそうな顔をしている。

「本降りになってきましたし…もう…」

「………うん…。付き合ってもらって…ごめんね…」

「…謝らないでください、お嬢様…」

「…うん……ごめんね……ごめんなさい…」

視界がにじむ。頬を伝う水滴が熱い。握りしめたワンピースに皺が寄る。

気づかない内に何かしてしまっただろうか、嫌われたのだろうか、それとも何か急用でも出来たのだろうか。

私の初めての友達は……彼女は、約束の場所に現れなかった。

―――――

「…ない……なぁ」

兄や姉が幼い頃に共に過ごしていた子供部屋。使われなくなった今でも綺麗に管理されているそこに私は訪れていた。

子供用の背の低い本棚から絵本を取り出し、1冊ずつ確かめる。どれもこれも懐かしさがこみ上げてくる物ばかりだけど、私が探している物はなかった。

「やっぱり本じゃないのかしら…」

私が探しているのはクリスの物語だ。

ユーナさんからは『転生』というびっくり推理を頂いたけれど、小さい頃に読んだ物語だった可能性が捨てきれずにいた。

例えば、全く違う名前の主人公に感情移入しすぎて自分の名前を当てはめて覚えていたのかもしれない、とも思ったけれど似たような内容は皆無だった。

寝る前に読み聞かせてもらっていた本もここに保管されているのだけど、それを含めてもその様な物語は存在しないのだ。

「うぅん…」

他の本がどこかに隠されてないだろうかと近場の引き出しを引くと、私が子供の頃に気に入って使っていた髪飾りが丁寧にケースに入っていた。昔を思い出しケースを引っ張り出す。

「わ、懐かしい…」

幼少期に使っていたものなのでハートのモチーフだったり、テディベア柄だったり、可愛らしさ全開の物ばかりだ。イチゴの飾りがついた髪留めを見つけて 王子の名づけセンス(スイートストロベリー) を思い出してつい苦笑した。

その中で一つのリボンに目が奪われた。留め具を外して広げる。

「…このリボン…」

緑の生地に金の縁取り、子供がつけるにしては少し大人びたそれは、手に取ると上質な素材だと分かった。10年以上前の物なのに全く 草臥(くたび) れた様子がない。

あの頃は何も思わずお気に入りだからと日常使いしていたけれど、たかが下位貴族の子供の髪を飾るにしては少々物が良すぎないだろうか。

「これは…あの子がくれた物……」

私にとって唯一の友達、彼女と初めて会った時に貰ったものだ。

――彼女は私と同じ年齢の子爵令嬢で名前はリリィ。金色の髪がサラサラで、天使の様に可愛らしい女の子だった。

今朝見た夢を思い出す。あの日は私の6歳の誕生日の前日だった。

お祝いをしようと提案してくれて、二人だけのささやかな誕生日会の約束をした。街に新しくオープンしたカフェに行ってみたくてリリィと待ち合わせをしたのだけど、2時間待っても彼女は現れなかった。

彼女の身に何かあったのだろうか。それとも友達だと思っていたのは私だけだったのだろうか。何か無神経な事を言って嫌われていたのだろうか。10年経った今もまだわからない。

あの日から何度も手紙を送ったけれど一度も返信は無かった。

「……今はどうしてるだろう…」

きっと綺麗な令嬢に成長しているだろう。彼女も学園にいるはずだけれど会った事は無い。

探してみる?いや、自分を嫌っているかもしれない相手を探すのは怖い。

「…………」

彼女との交友関係は気持ちの良い終わりではなかったけれど、二人で遊んで楽しかった日々は今でも覚えている。今後リリィと関わる事は無いにしても、思い出を大切にするくらいは許されるだろうか。

そう考えてリボンを手に部屋を後にした。

そして、その日の夜に第2王子の封蝋がされた手紙が届き、父が顔を土色にして倒れ大騒ぎになったのだった。