作品タイトル不明
24.夕日の中庭を抜けて
学力テストがついに明日に迫っている。
先週から続いているグレン勉強会は昼休みと放課後に行われており、そのお陰でグレンは何とか赤点は回避しそうだ。
私は昼休みにしか参加していないのだけれど、昼休みも放課後も勉強を教えているセイジ様は、一体いつ自分の勉強をしているのだろう。
最終の追い込みをするぞと言われた時のグレンのゲッソリした顔を思い出し、小さく苦笑してしまう。
ここまで頑張ったのだから無事に赤点を回避出来ると良いのだけど。
私も少しでも良い点を取れる様に、今日は早く寮へ戻り暗記系の見直しをしよう。
これが終われば待ちに待った長期休暇…
"今日は見逃してあげる。その代わりに、今度の長期休暇に僕とデートしてくれるかな"
…随分と濃い約束が入っているので手放しでは喜べない。
はぁ、と溜息をついて廊下の窓から中庭を眺める。テスト前だからか、ひと気も無く夕日が赤く照らす中庭はどこかもの寂しさを感じさせる。
…少しだけ中庭を歩こうか。
そう考えていたら、
「やぁ、クリステラ」
「………ウィル様…」
廊下の先にウィル様が立っていた。今日は令嬢方もおらず1人だ。
お茶会以来、話しかけられる事が無かったので戸惑ってしまう。
「こうして話しかけるのも何だか久しぶりだね」
「そ、そうですね…」
「テスト勉強は順調?」
「えぇ…まぁ……はい、なんとか…」
勉強会のおかげでグレンやセイジ様と話すのは慣れてきたけれど、ウィル様の前では緊張して言葉が上手く出てこない。
また失言をしてしまったらどうしよう。1度目は許してもらえたけれど2度目は無いかもしれない。
その事を意識すると視線も合わせられなくなってしまった。
「最近は勉強会をしてるって聞いて…、……………」
「……?…」
「……いや、こうして話しても君が縮こまったままだと寂しいな」
「え、いえ…あの…っ」
「僕と話すのは緊張する?」
「…そ、そそそ、そんな事…ありません…っ」
とても緊張はしているのだけど「はい、そうです」と言えるはずも無く。ドヘタな否定をしながら顔をあげると、彼はいつもの穏やかな笑顔…ではなく、どこか悪戯っぽい表情だった。
この表情の意味は…?そう不思議に思っている間に左手が握られた。
「え??」
「君に見せたい物があるんだ」
「え?…え??…え、ウィル様…!?」
「おいで」
その言葉とともに手を引かれ、廊下の先のタイルテラスから赤く染まる中庭に走り出す。
何処に行くのか説明を求めたかったけれど、戸惑いながら転ばないように着いていく事で精一杯だった。
―――
手を解放されたのは学園裏の林の近くまで走ってからだった。
「ははは、結構走れるんだね」
「…っは、ぁ……いえ……もう、無理です……」
おそらく私に合わせてゆったりと走ってくれたのだと思うけれど、それでももう限界だった。膝に手を当てて呼吸を整えていると、ウィル様は笑って頷いた。
「もう走らないよ。ここが目的地だから」
「目的地…?」
「君に合わせたい子がいるんだ。
……ジルー!ジル、おいでー!」
女性の名前だろうか、彼はくり返し名前を辺りに響かせる。ジルとは誰だろう?
「ジルー?あれ、おかしいな…。少し待っていてくれるかい」
「え、は…はい」
ジル様とやらを迎えに行ったのか、ウィル様が林の入口に建つ丸太で組まれた建物に駆け寄る。
あの建物は何だっただろうか。木の温もりを感じられそうな建物だけど、貴族が利用する施設にしては少しカジュアル過ぎる気がする。
入学時に説明を受けていたとは思うのだけど覚えていない…。
そう考えていると、不意に私の上に影がかかり…
「えっ…!?…ッうぐっ!!」
影の姿を見る事なく地面に押しつぶされた。背中に何か、誰かが乗っている。一体何が起こったのだろうか、訳が分からず頭がパニックになる。
すでに遠くにいるウィル様の背中に助けを求めて声を出そうとした瞬間、背中から重さが引きそのまま私の目の前に犯人が座った。
そう、犯人が…。犯、人…?
「わふん?」
「……い、犬…??」
犬、だった。
私に飛び掛かり押しつぶしていたのは、白と少し灰色が混ざった長毛の犬だった。