軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23.勉強をしよう

「……この問題では作者の意図が問われていますが…」

勉強を教えなければ頭を上げないという脅しがかったグレンの頼みに、昼休みのみという条件で折れてしまった。

あのまま注目されるよりはマシだっただろうか…。

昼食を取った後、グレンとテーブルに問題集を並べる。

「わからねぇ。文章が長すぎて混乱する」

「…分かりやすくする為に、接続詞を丸で囲ってチェックするようにして下さい」

「セツゾクシって?」

「そこから…?」

持っているペンを投げ捨てたい。そんな事を考えていると横から助け舟が出された。

「…接続詞とは文章と文章を繋ぐための言葉で、順接の『だから』『そして』、逆接の『しかし』『けれども』などがある」

「あぁ、『デモデモダッテ』ってやつだな」

「それは違います」

「接続詞の前後に書かれる文章が問題で重要視される傾向があるから、チェックしておくと無駄な読み直しを減らせるぞ」

「へー」

副会長の言葉にグレンが頷く。

――この様に何食わぬ顔でセイジ様が同席しているのだけれど、人に教え慣れていない私をフォローをしてくれるので今回ばかりは有り難かった。

「なぁここはこうか?」

「え?あ、ええと…」

「ここは引っ掛けだ。この箇所にミスリードしようとしているが、前の文章をよく読めば違う事に気づく」

セイジ様がテンポ良く進めて行くので、あまり役に立てていない私は必要無い気がする。

気づけばセイジ様とグレンが2人で勉強を始めたので、これ幸いと撤退の準備を進める事にした。

静かに自身の教科書をまとめ、カップに入っているコーヒーを飲み干し…

「クリステラ、 コ(・) レ(・) を私に押し付けて逃げない様に」

「野郎2人で勉強会とか無理だからな」

「………ハイ」

逃げれなかった。

仕方ないので自分の勉強でもしよう。

数学の問題集を開き、途中になっていた問題を解き始める。

ペンを動かしていると、セイジ様の視線がこちらに向いた。

「………式を間違えている」

「え?」

「ここだ」

セイジ様がトンと指差す問題はすでに解き終えてたものだ。見直して違和感に気づいた。

「あれ、本当…」

違う公式を入れ込んでしまっていた。改めて解き直すと全く違う答えが出てくる。

「…ありがとうございます」

パッと見ただけで間違いに気づくとは、彼は頭が良いのだろう。

文学をグレンに教えながらも、時々こちらの数学を見てはミスを指摘していく。

2年生のセイジ様にとっては1年前に勉強し終わった内容とはいえ、実に器用だ。

頭から煙が出そうなグレンと丁寧に教えるセイジ様を見ながら、昨晩思い出したクリスの物語を頭で再生する。

『君はこんな事も分からないのか』

『残念ながら、何が分からないのかも分からないわ。勉強は難しいわね』

プクッと頬を膨らませるクリスに、セイジ様が呆れたと小さく息を吐いた。

『毎日の積み重ねをしていないからだ』

『…でもセイジが教えてくれたところは、テストでも解ける様に頑張るわ』

そうニコッと笑えば毒気が抜かれてしまい強くも言えない。

『……まったく、調子の良い…』

「っだーー!覚えられねぇ!」

「全部覚えなくてもいい。ポイントだけ理解しろ」

…この場合、クリスの立ち位置にいるのはグレンなのでは?

その事を転生ノートに書かねばならないのか、と少し複雑な気持ちになった。

―――

昼休みが終わる前に時間に余裕を持って勉強会は終了。

問題集では分からないテストの傾向、時間配分などのアドバイスも貰い、かなり有意義な勉強会になった。

「ふむ、やはり君は頭は悪くない様だな」

「…褒めては…いませんね」

「深読みするな、意外だっただけだ。しかし、それならもう少し上手に立ち回れても良い筈なのだが…」

「頭でカバー出来ねぇくらいに不器用なんだよ」

「なるほど。それならば納得出来るな」

「勉強の出来るバカってやつだな」

「ふ、言い得て妙だな」

生徒会副会長と不良生徒が和やかに談笑する姿の方が妙だと思う。

何か言い返したい気持ちはあるけれど、悲しいかな絶対に言い負かされる自信も有り、開きかけた口を噤む。

いっそ相手をしないでおこう、と尚も楽しげに話す二人を背中に、足を速めた。

「怒ったのか?」とからかう様なグレンの声を無視する様に、無表情で角を曲がり…

「…っ!?」

「ん!?な、なんだ…!?」

傍にいた男子生徒の背中にぶつかってしまった。

栗色の髪の男子生徒が不機嫌そうな表情で振り返ると同時に、私は慌てて頭を下げる。

「す、すみませんでした…」

「…げ、カインの…」

「…?」

私の事を知っているのか、男子生徒は私の顔を見るなり顔をしかめた。話した事も無い人にそんな反応をされる覚えは無いのだけど、もしや私が覚えていないだけで既にどこかで失礼な事をしてしまっていただろうか。

…そう言えばどこかで見たことある様な気もする。何処でだっただろうか。

なおも苦々しそうな表情の男子生徒は、何か言おうと口を開くがそのまま言葉を飲み込み、面倒くさそうに手で追い払うような仕草を見せた。

「…気をつけろよ」

「は、はい…失礼しまし…」

「どうしたピンク」

「げっ!!」

私の後ろから顔を出したグレンに男子生徒が貴族らしからぬ声をあげる。

対するグレンは不思議そうに見返しただけなのだけど、男子生徒はまるで逃げるように足早にその場を去っていった。

小さくなっていく後姿を見てふと思い出した。

あの人はもしや、いつぞやにグレンと喧嘩して「父上に言いつけてやるからな!!」と捨て台詞を吐いていた男子生徒ではないだろうか。

だとするとグレンを見て逃げた理由もわかる。しかし何故私にまで嫌悪感をあらわにしたのだろうか。

恥ずかしい場面の目撃者だから?納得は出来ないけれど、そういうものだろうか。

「今のは君の知り合いか?」

「さぁ?知らね」

「………覚えてないんですね…」

「??」

貴方が喧嘩していた相手ですよ、とは言わないでおいた。