軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

大森林にて その四

大森林の木々は、十メトルはあるのではないか。天をつくように、まっすぐ生えている。

「ふむ……」

シエル様は空を見上げ、顎に手を添えている。

何か、気になることがあるのか。少しだけ、ピリピリとした空気を感じる。

いつも陽気なシエル様なのに、ちょっとらしくない。

見守っていたら、隊長が私の背をどん! と押す。話しかけて来いと言いたいのか。

恨みがましく背後を振り返ったら、隊長は手をひらひらと動かして早く行けという動作をする。

仕方がないので、言う通りにシエル様へ声をかけることにした。

「あの、どうかしましたか?」

「いや、この辺は雪が降らないはずなんだが」

大森林は場所によって気候が決まっているらしい。一つの森の中に、四季が存在するという不思議な場所なんだとか。

「ここは初夏の森だった」

世界樹の魔力によって、気候は変わることがなかったらしい。

「それに、ホロホロ鳥も、普通は地上に巣を作らない。木の上に作るのだ」

「世界樹の何かが狂って、気候や生態系が変わっている、ということでしょうか?」

「そうだな」

「シエル様はなぜ、それに気づかれたのですか?」

「コメルヴの様子がおかしかったからだ」

ここで明らかになる事実。なんと、コメルヴは世界樹から生まれた精霊らしい。

数十年前、シエル様がここの森を訪れたさいに、世界樹と仲良くなった末にコメルヴを託されたのだとか。

「で、では、コメルヴを育てたら、世界樹になるということですか?」

私の発言を聞いたシエル様は、一瞬きょとんとしたあと、「ははは」と笑い始める。

「聞いたか、コメルヴよ。お主、大きくなったら、世界樹になれるそうだ」

そんなシエル様の言葉に、鎧の中に避難していたコメルヴが『世界樹とか……絶対ムリ』と答える。

「ふむ。やはり、一人ではなくてよかった。旅は、人数が多いほうが愉快だ」

「そ、それは、よかったです」

「立ち止まってすまなかった。先に進もう」

大森林の探索が始まる。

いったい、ここで何が起きているのか。あのシエル様でさえ、想像がつかないらしい。

これらの異変はきっと、大森林の中だけでは収まらないだろう。影響が世界に広がったら、大変なことになる。

なんだか、世界を救う任務のような気がしてならない。

大森林の魔物は他の土地で見る魔物よりも強力だ。

先ほど、第二部隊が協力して討伐した森大蛇が、そのあと次々と出現したのだが──シエル様が水晶剣で両断し、あっという間にやっつけてしまった。

おそらく、生息地の環境が変わり、食料が減ったことから狂暴化しているのだろう。

襲ってくる時の目が、普通の魔物よりも凶悪だった。

二時間ほど歩き回り、昼食の時間となる。

「リスリスよ、ホロホロ鳥はどう調理する?」

「そうですね──」

まず、ヒビの入った卵を消費しなければならないだろう。

「卵をメインにした料理にします」

「うむ。手伝うぞ」

「ありがとうございます」

『リスリスちゃん、俺も手伝うよ!』

「アリタも、助かります」

シエル様には、鳥もも肉をみじん切りにしてひき肉を作ってもらう。

アリタには、卵の調理の手伝いを頼んだ。

「ホロホロ鳥の卵、かなり固いですよね」

『だね~』

私の頭よりも大きい。それが、四つもある。全員分、余裕であるだろう。

包丁の柄で叩いてみたが、音が石とか岩とかを叩いた感覚に似ていた。

『じゃ、割ってみるね』

「お願いします」

一番大きな鍋に、ホロホロ鳥の卵を割る。

アリタは両手で卵を持ち、その辺の岩に叩きつける。

メキョ……という、卵の殻とは思えない音が鳴り、中から黄金色の黄身と白身が出てきた。

「わ……綺麗」

『だね~』

ここまでの大きさだと、黄身と白身が重たい。混ぜる作業も、アリタに任せた。

続いて、タマネギやニンジンをみじん切りにしたものを塩コショウで味をつけてざっと炒める。続いて、シエル様が作ってくれたホロホロ鳥のひき肉を炒めた。

途中で、かき混ぜる作業をアリタに託す。

別の鍋にホロホロ鳥の骨と積もっていた雪を入れて、ぐつぐつ煮込んで出汁を取る。

灰汁を取る作業を、シエル様にお願いした。

私は卵を焼く作業に取りかかる。

塩コショウで軽く味付けした卵を、熱した鍋に入れる。

じゅわっとした音と共に、卵の焼ける良い香りがした。

卵をかき混ぜて空気を入れつつ、くるくると巻いていく。

鍋の柄を叩き、裏表とひっくり返す。

軽く焼き色が付いたら──ホロホロ鳥のオムレツの完成だ。

新鮮な卵なので、とろとろに仕上げてみた。

ここに、ホロホロ鳥の出汁で作ったスープに炒めたひき肉、野菜に牡蠣ソースを加え、とろみをつけたあんをかける。

「ホロホロ鳥のあんかけオムレツの完成です!!」

『オ~~!!』

傍で調理を見守っていたアルブムが、拍手する。

頑張って全員分のオムレツを作る。途中から、アリタも手伝ってくれたんだけれど、一回見ただけで綺麗なオムレツを完成させていた。

アリタ、なんてできる子なのか……!

ホロホロ鳥のあんかけオムレツに、パンと炙りベーコン(※高級食品)を添えていただきます!

まずは、シエル様の反応を窺う。

「──うまいぞ!! 卵はとろとろで、あんとひき肉がよく絡んでおる。火加減が絶妙だったのだろうな。見事だ」

どうやら、お気に召していただけたようでホッとする。

私も、食べてみた。

「お、おいしい!!」

なんだろう……素材の旨みがとにかく素晴らしい。

卵はコクがあって、きっとそのまま焼いただけでもおいしいのだろう。

とろとろ卵と、出汁の利いたあんの相性は抜群だ。なんだろう、こんな口どけがなめらかな卵、初めてだ。

アルブムは相当気に入ったようで、尻尾をぶんぶん振りながら食べていた。

『パンケーキノ娘ェ、オムレツノ娘二、改名シテモイイ?』

「紛らわしいので止めてください」

何はともあれ、ホロホロ鳥のあんかけオムレツは絶品だった。

自分で言うのもなんだけれど。