作品タイトル不明
エスメラルダの怒り その二
エスメラルダの機嫌を直すため、幻の果物を採りにいったらどうかと勧められた。
「幻の果物って、なんですか?」
『 氷凍果(ひょうとうか) っていう、氷山に実るあま~い果物なんだけど、削って食べたら美味しいんだよ』
凍った果実の実、氷凍果。なんだか美味しそうだ。
『そのままだと硬くて食べられたものじゃないんだけれど、削るとふわふわとした淡雪みたいになるんだよね』
今日は汗ばむ陽気だ。こんな日に、冷たいものを食べたらきっと美味しいだろう。
エスメラルダの機嫌も、直るだろうか?
「だったら、採りに行きます! と言いたいところですが、雪山の高い位置にあるんですよね?」
『そうだよ』
「人が近づけないような気がするのですが」
『だったら、連れて行ってあげようか?』
なんでも、氷凍果のある雪山の麓に繋がる穴があるようだ。
地下には、甘大蟻が甘いものを求めて通る道があるらしい。
「ちなみに、どれくらいの時間で行き来できるのでしょうか?」
『う~ん、近道を使ったら、三時間、ってところかな』
「近道、ですか」
『そう。穴掘りが得意な甘大蟻が作った道で、甘い物を渡したら自由に行き来できるんだ』
「そんな仕組みがあるのですね」
なんと、アリタは案内だけでなく、雪山まで乗せて行ってくれるという。
「そこは一年中、雪深い場所なんだよね」
『エ、ソウナンダ! アルブムチャン、寒イノハチョット……』
今回、アルブムは付いてこないようだ。
『じゃあ、行くのはリスリスちゃんと、俺と──』
「あの、アリタは保存庫作りがあるので、なんだか悪いような」
『そんなことないよ。リスリスちゃんだって、俺にお菓子の作り方教えてくれるじゃん。お世話になっているお礼に、案内くらいさせてよ』
「リスリス、好意は素直に受け取っておくべきだぞ。保管庫作りは私がしておくから、行ってくるがよい」
「シエル様まで……」
正直、苦労して得た果物を与えたからといって、エスメラルダの機嫌が直るかは不明だ。
しかし、何もしないよりはいいかもしれない。
雪山に慣れているザラさんと、寒さに強いステラに付いて来てもらうことにした。
火魔法が使えるリーゼロッテがいたら心強かったけれど、幻獣保護局の仕事をしに行っているので不在だ。
アメリアは外出中、エスメラルダを見守ってくれるようだ。
『クエクエ!』
『クウ』
『母を任せたぞ』というアメリアに、『頑張ります』と頷くステラ。
二人のやり取りを見ていると、ほっこりしてしまう。
雪山だというので、ニクスの中に冬物の外套を詰め込んだ。
通行料代わりのお菓子も持って行く。
ザラさんは詰襟の上着にズボン、ブーツという姿に、戦斧を背負ってやってきた。
「ザラさん、せっかくのお休みなのに、付き合ってくれてありがとうございます」
「いいのよ。刺繍が完成して、暇しているところだったから」
作った刺繍入りのハンカチは、ステラにプレゼントしてくれた。
黄色の大判の布に白い花模様を刺したという、製作期間一ヵ月の大作だ。
それはステラのために作ってくれた物で、さっそく首に巻いてもらっていた。
おしゃれをしたステラは、アメリアと鏡を覗き込んで、似合っているとか素敵だとかキャッキャと盛り上がっているようだった。
準備が整ったので、出発となる。
戦闘員であるザラさんがアリタに乗り、私はステラに乗せてもらうことになった。
『よし、行こうか!』
「よろしくね」
「お願いします!」
『クウ!』
今までになかった 一行(パーティー) での、冒険が始まる。
◇◇◇
アリタはザラさんを乗せ、ずんずんと森の中を駆ける。
馬と同じくらいの速さで進んでいるような。ステラもそれに続く。
私は振り落とされないよう、ステラに装着させた手綱をしっかり握っていた。
森の途中から、甘大蟻の穴へ入る。普段、穴は岩に隠されているとのこと。
魔法の力で岩を退かし、地下へ飛び込む。
「わっ、ひんやり!」
真夏なのに、地下の穴は涼しかった。
地面は赤煉瓦が敷き詰められ、壁は石を積んで作っているよう。天井は不思議な光る石を使っているようだ。おかげで、内部は明るい。
「すごいですね。これを、甘大蟻が作っているなんて」
『みんな、職人なんだよね』
アリタの作った砂糖の壁も、きっちり丁寧に作られていた。
改めて、甘大蟻はすごい存在なんだなと思う。
一時間ほど進んだあと、少し開けた場所にでてくる。ここで、休憩することにした。
「お茶を淹れますね」
妖精鞄から取り出したのは、携帯焜炉。ちょっとした煮炊きができる炉だ。少人数用なので、遠征では使えないけれど、今日はザラさんとアリタ、私の三人なのでちょうどいい。
「森林檎茶を作ります」
鍋に水、 林檎草(カモマイル) の葉、薄切りにした森林檎に砂糖を加えて煮込む。
沸騰すると、ふんわりと甘い香りが漂ってきた。
最後にお好みで蜂蜜を加えたら、森林檎茶の完成だ。
茶こしをカップの上に添え、鍋のお茶を注いでいく。
『うわ~~、良い匂い!』
「今、森林檎が旬なので、きっと美味しいですよ」
ステラには果実水を与え、揃って一休み。
「はあ、美味しいわ。お茶に生の森林檎を入れるなんて、贅沢よね」
「ええ。優雅な気分になります」
『甘酸っぱくて、香り高くて、美味しいなあ』
ザラさんだけでなく、アリタも気に入ってくれたようだ。
お茶を囲んで、ほっこりとした時間を過ごす。