軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エスメラルダの怒り その一

──私は大変なことをしでかしてしまった。

『キュッフ~~~~!!!!』

怒りの化身となっているのは、 魔石獣(カーバンクル) のエスメラルダ。

「あの、本当に申し訳ありませんでした」

『キュッ!!』

近づいたら、エスメラルダは毛を逆立たせて、フ~~ッ!! と威嚇してくる。

どうしてこうなったのかといえば、完全に私が悪い。

先日、謎の遺跡の調査に向かった私達は、内部に入った途端転移魔法で散り散りになってしまった。

その際、私はアルブムとスラちゃん、ニクスと共に、甘大蟻のアリタの甘味保管庫へ飛ばされる。

アメリア、ステラ、隊長の三人は、育児に悩むマグマが流れる活火山の内部で暮らす火蜥蜴の奥さんのもとへ飛ばされ、ザラさんは一人で氷窟で働く火蜥蜴の旦那さんのところへ。

ベルリー副隊長とリーゼロッテは地下水がたまった魚妖精がいる鍾乳洞へ飛ばされ、ガルさんとウルガスはおっさん魚妖精(どんな生き物?)がいる砂漠へ飛ばされた。

最後にミルは遺跡の大精霊に見初められ(?)、最深部へ転移した。

ここで、私達は合流する。

ミルが大精霊を説得し、私達は地上へ戻れてめでたし、めでたし。

そう思っていたが、アルブムが私に言ってきたのだ。

──『パンケーキノ娘ェ、魔石獣ハ?』と。

その言葉を聞いた私は、「ぎゃああああ!」と叫んでしまった。

ありえないことに、私はエスメラルダのことをすっっっかり忘れていたのだ。

遺跡に探しに行こうと回れ右をしたら、ガサガサと物音がする。そこから出てきたのは、エスメラルダだった。

なんと、別の層へ飛ばされていたエスメラルダは、大精霊によって私達と同じく地上へ戻されていたのだ。

当然、私がエスメラルダを忘れて帰ろうとしていたことは、目撃されている。

そのため、エスメラルダは今まで見たことがないくらい、怒っていたのだ。

彼女の怒りは、一週間たって尚、収まっていない。

近づいたら毛を逆立たせて、フーフー言ってくる。いくら謝っても、赦してくれなかった。

遠い目をしながら、部屋の隅でお尻を見せて怒っているエスメラルダを眺める。

「エスメラルダ、ケーキを焼いたのですが、食べませんか?」

『キュッフ!!』

おろおろしていたらアルブムがやってきて、エスメラルダのご機嫌取りのために用意したケーキを食べてもいいかと聞いてきた。

一切れ与えると、『コレ、スッゴクオイシイ~~』と言いながら嬉しそうに頬張っている。

「はてさて、どうしたものか」

『パンケーキノ娘ガ悪イヨォ』

「……」

分かっている。分かってはいるが、アルブムに言われるのは癪なのだ。

とりあえず、エスメラルダにケーキを作ったと言って勧めておく。さすれば、私がいない間に食べてくれるのだ。

私はアルブムを掴んで、庭に出る。

庭には、アリタがいた。

『おじ~ちゃ~ん、お茶を淹れてきたよ!』

「おお、すまんな」

お盆に茶を乗せ、庭を横切る全長二メトルのアリタと、待ち構える全身鎧のシエル様。なんて不思議で物語的な光景なのか。

アリタは遺跡から、旧エヴァハルト邸に拠点を移した。

シエル様に紹介したら、その場で意気投合。無事、はーれむ入りを果たす。

二人は庭に甘味保管庫を作っているらしい。

お祖父ちゃんと孫のような関係性を築いていた。なんだか微笑ましい。

『あ、リスリスちゃん! こっちでお茶しようよ!』

ぼんやり眺めていたら、お茶に招かれてしまった。お言葉に甘え、参加することにする。

『なんか持っているなって思っていたら、イタチ妖精君だったんだ』

『ド、ドウモ』

アルブムは引きつった顔で返事をする。

おそらく、アリタはアルブムよりも上位妖精なので、若干気まずいのかもしれない。

アリタは気にせず、屋敷に戻って私とアルブムの分のティーカップを用意してくれた。

『あ、お祖父ちゃん、これ、リスリスちゃんが作ってくれた、蜂蜜ケーキだよ』

「ふむ。美味しそうだ」

アリタの作った蜂蜜で作った、特別なケーキだ。

アルブムは先ほど食べたにもかかわらず、皿に盛りつけてあったケーキを手に取って食べだす。そして、初めて食べたかのように、『ア~~、オイシイ!!』と呟いていた。

シエル様も、ケーキを食べる。

なんだろう。アルブムと同じく手掴みなのに、品良く見えるのは。

まるで、手で掴んで食べるのが礼儀だとばかりに、上品な様子で食べていた。

「これは……美味い! 口に入れた瞬間、ケーキの生地がしゅわりと溶ける。春の雪どけを、口の中で味わっているようだ!」

そのあとも、つらつらと美しい言葉で絶賛してくれた。

シエル様は料理の感想まで詩的だ。その語彙力は、豊かな教養から紡ぎ出されるものなのだろう。

『リスリスちゃんのお菓子、どれも美味しいよね~~!』

ここに来てから、暇さえあればアリタにお菓子作りを教えている。

厨房で働く料理人にも、教えを乞うているのだとか。

旧エヴァハルト邸で働く人達は、あっさりとアリタを受け入れてくれてありがたいやら何やら。

「それで、リスリスは何を悩んでいるのだ?」

「!」

シエル様には、お見通しだったようだ。

しょんぼりと肩を落としながら、エスメラルダを忘れてしまったことを告白した。

「それは……まあ、不慮の事態で、リスリスも混乱していたのだろう。私も、邪竜を倒したあと、巣に聖剣を忘れてきたことがあるぞ」

なんか、規模の違うとんでもないエピソードが飛び出てきた。

「時間が解決するだろうが、お主はそういうわけにもいかないのだろう?」

「はい」

どうすれば、エスメラルダは赦してくれるのか。

ここで、アリタがある提案をしてくる。

『だったら、幻の果物を使ったお菓子を作って魔石獣ちゃんに渡したら?』