軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エスメラルダの大好物?

幻獣保護局を出て、ぐっと背伸びする。

思っていた以上に綺麗な建物な上にかしこまった場だったので、ずっと緊張していたのだ。

『キュ、キュウッ!』

「あ、ごめんなさい」

背伸びをしたとき、エスメラルダの入った籠を急に高く上げてしまったので怒られる。

高いところはあまり得意ではないようだ。気を付けよう。

「──さて、と」

幻獣保護局での報告は終わった。エスメラルダの書類関係は侯爵様が手配してくれるらしい。

まあ、なんというか、いつもの丸投げである。

「一応、悪いなという気はあります」

私の言葉を聞いたザラさんが、あっけらかんと言う。

「あら、メルちゃん、いいのよ。侯爵は幻獣大好き人間だから、苦にも思っていないわ」

それに同意を示すのは、リーゼロッテだ。

「そうよ、メル。気にしなくてもいいわ」

侯爵様がいないからと、二人とも好き勝手言って……。

今度、お礼に何か贈ろうと思う。

「隊長は直帰していいっていっていたけれど、メルちゃんとリーゼロッテはどうするの?」

「わたくしは、一回家に帰るわ。お父様の資料室に 魔石獣(カーバンクル) の資料がないか調べたいの」

「そうですか。私は──エスメラルダの好物を探しに、市場に寄ろうかなと」

いろいろな食材が揃う王都の市場ならば、エスメラルダが食べたい物もどれか一つくらいあるだろう。

夕方で、ちょっと込み合っているかもしれないけれど。

「だったら、私も一緒に行くわ」

「ザラさん、ありがとうございます」

と、ここでアメリアとステラは市場に連れていけないことに気づく。

「どうしましょう。幻獣保護局で待たせるわけにもいかないし」

きっと局員達に熱い視線を送られて、気まずい思いをするだろう。

「一回、アメリアとステラを連れて、旧エヴァハルト邸に戻る?」

「そうですね」

ここで、アメリアがバサァと翼を広げた。言いたいことがあるらしい。

近う寄れと言いたいのか、ちょいちょいと軽く翼をはためかせている。

「アメリア、どうかしましたか?」

『クエクエ、クエクエ』

「え!?」

なんと、アメリアとステラは自分達だけで旧エヴァハルト邸まで戻ると言う。

「だ、大丈夫なんですか?」

『クウクウ、クウ』

「ええっ……」

王都の裏門から外に出て、人目につかないように帰るらしい。

私の心配をよそに、アメリアとステラはキリッとした表情で、「私達は大丈夫!」と言っている。

アメリアは翼を広げて胸を張り、ステラは耳と尻尾をピンと立て、私達は最強! みたいなポーズを取っていたが……。

「でも、魔物に出遭ったりしたら」

『クエクエ!』

『クウ!』

全力で逃げるから平気だと。

「リーゼロッテ、どう思いますか?」

「幻獣保護局の護衛をつけたらいいんじゃないかしら?」

「いいのですか?」

「たぶん、涙を流しながら喜んで任に就くかと」

「だったら──」

アメリアとステラにいいかと聞いてみる。もちろんだと頷いてくれた。

「では、そのようにお願いいたします」

「わかったわ」

リーゼロッテが幻獣保護局の中へと入って行ったあと、再度アメリアに近う寄れされる。

「なんですか?」

『クエクエ~』

「なっ!」

想定外のことを言われ、言葉を失う。

「メルちゃん、アメリアは何て言ったの?」

「え!? い、いえ、ただ、市場散策を楽しんでくるように、と……」

「それも、そうね。こういうの、久々ですもの」

「うっ、はい」

ザラさんに嘘を言ってしまった。

アメリアは「ザラ・アートとのデート、楽しんできてね!」と言ったのだ。

あの子、どこでそんな言葉を覚えたのか……。

「メルちゃん、どうしたの?」

「い、いえ! 楽しみです」

「私も」

怪しい言動をする私を疑いもせず、満面の笑みを返してくれた。

本当、ザラさんはいい人だ。心の中で拝んでおこう。

しばらくすると、リーゼロッテが戻ってきた。

そのあとに続く幻獣保護局の人員を見てぎょっとする。

なんと、三十名ほどの局員が集まっていたのだ。

アメリアとステラを守るために、こんなに集まってくれるなんて。

杖を握る者、剣を握る者、弓矢を握る者と、戦闘員は多岐に渡る。

それにしても、護衛の人数は多すぎやしないか?

てっきり、多くても四、五人くらいかと思っていたのだ。

アメリアとステラは、若干「え、護衛、多くない?」みたいな戸惑いの表情でいた。

しかし、これだけ護衛がいたら安心だ。

『クエクエ』

『クウクウ』

「はい、二人とも、またあとで」

アメリアとステラは早く帰ってお風呂に入りたいらしい。

素晴らしい女子力だ。

「ではみなさん、よろしくお願いいたします。」

みんな、爽やかな笑顔でアメリアとステラに続く。

リーゼロッテとも別れた。

そんなわけで、私達は幻獣保護局の前で解散となる。

私はザラさんとエスメラルダと共に、市場に向かうこととなった。

◇◇◇

夕方の市場は初めてかもしれない。

茜色に染まった市場の石畳を、道行く人々は忙しなく歩いている。

買い忘れがあった主婦だけでなく、老若男女さまざまな客が行き交っていた。

「みんな、仕事帰りかしら?」

「ですかね」

『キュウウ~~』

エスメラルダが不満げな鳴き声をあげる。どうやら、人込みも苦手らしい。

早く調査を終わらせるために、質問をしてみた。

「エスメラルダ、食べたいものはありますか?」

『……』

無視だ。

ツンと顔を背けたまま、目も合わせようとしない。

これはアレだ。「わざわざ言わなくてもわたしの好きな食べ物、わかるでしょう?」と主張しているに違いない。

「ダメですね」

一応、好きな食べ物を何度か聞いているものの、一度も答えてくれたことはない。

「市場で探し出すしかないようです」

「だったら、サクサク行きましょう」

「すみません」

まずは果物屋から。

幻獣保護局でも調べたけれど、一応念のため。

「エスメラルダ、どうですか? 何か、食べたいものはありますか?」

エスメラルダは果物を見た途端、ツーンと顔を逸らした。

「ダメですか」

「メルちゃん、次に行きましょう」

「ええ」

続いて、野菜屋を覘く。

「エスメラルダ、新鮮な野菜が並んでいますよ~?」

視線を下したころには、もうツーーンとしていた。

その後も、パン屋、肉屋、菓子店などなどいろいろ回ったが、ツンツンツンとされるばかり。

「い、いったい、何を食べるのか……」

「そういえばメルちゃん、魔石獣に魔力の実を与えていたわよね?」

「あ、そういえば!」

あれならば、食べてくれるのか。エスメラルダに聞いてみた。

「あの、エスメラルダ。もしかして、私が作った魔力の実を食べたいのですか?」

『キュッ』

「……」

「メルちゃん、彼女は何て言ったの?」

「別に、と」

「そう、困ったわね」

魔力の実は、自身の魔力がなくなっていたので食べてくれたのだろう。

「でもまあ、いちいち魔力の実を作るのも大変だから、よかったって言ったらいいのか」

「ですね」

魔力の実はスラちゃんがいないと作れない。

それを毎日用意するとなったら、ちょっと大変だ。

「他に、何か反応していたものはないわよねえ」

「ええ。私達の食事にも興味を持ちませんでしたし──あ」

そういえば、デイ・ユケルにゼリーを与えていた時、反応を示していたような気がする。

さっそく、エスメラルダに聞いてみた。

「エスメラルダ、ゼリーは好きですか? プルプルしていて、おいしいですよ」

『キュウ』

エスメラルダは今までと違う反応を示す。

まあ、興味はなくはないけれど、的な感じだったのだ。

「ザラさん、ゼリーです!」

「ゼリーだったら、喫茶店にあるけれど」

「いえ、私、自分で作ったゼリーを食べさせたいなと」

「あら、素敵ね」

そうと決まったら、急がなければ。

辻馬車に乗り込み、帰宅する。

旧エヴァハルト邸に辿り着くと、アルブムに出迎えられた。

『パンケーキノ娘ェ~~!』

思いがけない熱烈歓迎を受ける。

そういえば、アルブムを忘れて遠征に行っていたのだった。

そのこと自体、すっかり忘れていた。

私に飛びつこうとしていたアルブムだったが、胸に抱く魔石獣に気づいて動きをピタリと止める。

『エ、何ソレ?』

「アルブム、彼女は 魔石獣(カーバンクル) です」

「カーバ……エ?」

アルブムは何やらキイキイと言っていたけれど今はそれどころではない。

近くにいた侍女さんに厨房を借りる旨を伝え、急いで向かった。

ザラさんと二人、厨房に立つ。

材料は、水、三種の柑橘類に、 膠(にかわ) 、砂糖。

まず、柑橘のヘタがある周辺の皮を切る。中の実をくりぬいて、果汁を絞った。

食べた時に舌触りが滑らかになるよう、果汁は布でこす。

鍋の中に水と砂糖を入れ、砂糖が溶けたら果汁を投入。

「灰汁取りは私がするから、メルちゃんは器の用意をお願い」

「わかりました」

さすがザラさん。丁寧に灰汁抜きをしてくれると言う。私はいつも何もせずに、そのまま煮るだけだ。

ザラさんは真剣な表情で、灰汁取りをしている。

この姿勢は見習いたいと思った。

最後に鍋を火から下し、膠を入れる。しばし冷やしたあと、器に見立てた柑橘の皮の中におたまで掬ったゼリーを入れた。

氷の中で冷やすと、一時間ほどで固まる。

「よし、こんなものですね」

「ええ」

ザラさんと私が作った三種の柑橘ゼリーの完成だ。

柑橘の皮に入れたゼリーは食べやすいように四等分にする。

磁器のお皿に柑橘ゼリーを置き、エスメラルダの前に差し出す。

ドキドキしながら、見守った。

エスメラルダはくんくんとゼリーの匂いをかいでいた。すっと目を細めたが、ペロリと舐める。

ここでツーンをされたらショックだ。そう思っていたが──エスメラルダはパクリとゼリーを食べた。

長い耳がピクリと動き、尻尾もゆらゆらと揺れる。

「あの、エスメラルダ、どうですか?」

尻尾をぶんぶんと振って、エスメラルダは答えた。

『キュウ!』

エスメラルダは一言、「おいしい!」と言ってくれた。

「ザ、ザラさん、エスメラルダ、ゼリー、おいしいって!」

「まあ、よかったわ!」

私とザラさんは手と手を取り合って喜ぶ。

まさか、ゼリーが好きだったとは。

とりあえず、エスメラルダの食事はなんとかなりそうだ。