軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三話 死神の旅路(side:ロヴィス)

商業都市ポロロック、そのスラムと化した北側の区域である通称暗黒区。

色の違う板を継ぎ接ぎされた屋根の上から、ある三人組が街を見下ろしていた。

「ここがポロロックの裏の顔か。こうも貧富が二極化するとは面白いものだな」

座って街並みを眺めているのは、黒髪の痩せた、不吉な雰囲気を纏う男……犯罪組織《黒の死神》の元頭目、ロヴィスであった。

背後には彼に付き従う、和装の美女のヨザクラと、ゴーグルを付けた太った男ダミアの二人が並んで立っていた。

「つくづく貨幣というのは見事な発明品だ。人間の複雑な欲求を、たった一方向に揃えてしまう。特にポロロックの住民共は、金の匂いがすれば我先にとそこへと向かう。まるで砂糖菓子に群がる蟻のようだ」

「わかりやすく、かつ強い感情を抱くと行動が一律化されるのは当然なのかもしれませんね。たとえば恐怖とか」

ヨザクラの言葉にロヴィスの顔色が曇った。

彼女の発言は、明らかにロヴィスがカナタやルナエール相手に自分から攻撃を仕掛けた後に平身低頭して許しを乞うていたことへの揶揄であった。

「ん? なんだ? ヨザクラ? 何か言いたげじゃないか?」

「言わなくてもおわかりでしょう」

以前、ルナエールと接触して全力でカナタの知人を装ったロヴィスは、どうにか見逃してこそもらえたものの、その際に彼女と二度と悪事に手を染めないことを約束した。

表に自身の名が出れば、その時点で《黒の死神》どころではない本物の死神に追われることになるのはわかりきっている。

そのためロヴィスは《黒の死神》を現在は解散し、側近であった二人を残して連絡を断っている。

ロズモンドの口にしていたロヴィスの死亡は、《黒の死神》の唐突な解散によって生まれたでまかせであった。

「組織まで解散して、あの女の監視に怯え続けながら生きながらえることに、ロヴィス様が信条とされていた自由な生き様は本当にあるのでしょうか? いっそ自刎なされては?」

「お前は何もわかっていない。俺は今も昔も、生きたいように生きている」

「組織を解散なされた理由は?」

「右へ行ったら落石で死ぬとわかったから道を左に選んだだけだが」

ルナエールの脅迫を受けて《黒の死神》としての活動ができなくなったロヴィスは、現在揉め事が起きそうな場所をヨザクラ、ダミアと共に転々としながら旅をしている。

ロヴィスの目的はあくまで戦いである。

悪事を働くのは争いを引き起こし、戦闘の機会を作るため、というのが主な理由であった。

故に争いが起こった場所に居合わせてそこで片方に加担さえできれば、わざわざ自身が火種になる理由もないのだ。

「ヨザクラ、頭を冷やせ! ロヴィス様、俺はあの白髪女を見て、ロヴィス様の考えが理解できるようになってきましたよ。虫を踏み潰しても楽しくも何ともないように、その逆もあるってことですよね」

ダミアがロヴィスとヨザクラの間に分け入り、ロヴィスの擁護に入った。

「白髪女じゃない! 白の女神様だろうが!」

ロヴィスが屋根を叩いてダミアを怒鳴りつける。

「あ……はい」

ダミアが背中を丸め、肩を窄める。

日に日にロヴィスのルナエールへの恐怖は大きくなっており、ここ最近では彼女は創世に携わった女神の一柱なのかもしれないと言い始め、名前も知らなかったために女神様と呼ぶようになっていた。

「はいじゃない、言い直せ!」

「……女神様」

「フン、次から気を付けるんだな、ダミア」

擁護に回ったダミアだったが、今は不服そうな表情でロヴィスを見ていた。

ダミアは悪のカリスマとしてのロヴィスに心酔し、彼に憧憬を抱いて《黒の死神》に入ったのだ。

ヨザクラ程ではないが、ロヴィスに自身の理想を押し付けている節があった。

ある程度踏ん切りがついてきたとはいえ、カナタや白髪女の影にこそこそと怯える姿は見たくなかった。

「ヨザクラ、お前には何度も去りたいなら去れ、と言ったはずだが?」

「いえ、私はロヴィス様をお慕いしておりますので」

ヨザクラは間髪入れず、迷いなく答える。

「だったら……」

「ただ、私がお慕いしているのは、あなたが口にしている生き様と、私を助けていただいた頃のロヴィス様です。仮に今のロヴィス様が虚飾に塗れ、過去のご自身を穢すようであれば……そのときは、私があなたを斬って自刎いたします」

ヨザクラが鞘を傾け、僅かに刀身を覗かせた。

ダミアがはらはらとした様子で、ロヴィスとヨザクラの顔へ交互に目をやった。

「止めておけ、ヨザクラ。お前では俺を試すことさえできんだろう。だが、そのときはそのときで楽しみにしておいてやる。来たければいつでも来い。その日まで刃を磨いておくのを忘れんことだ」

ロヴィスの言葉を聞いて、ヨザクラは刃を鞘に戻した。

「その言葉、本心であると願っておりますよ。カナタやあの女の前で見せた醜態は、金輪際見ずに済むよう祈っております」

ダミアはヨザクラの様子を見て、ほっとしたように息を吐いた。

ダミアもロヴィスに心酔して側近にまでなった身としてヨザクラの気持ちがわからないわけでもないし、これまで彼女と共に行動してきた時間も長い。

返答次第ではヨザクラがこの場でロヴィスに斬り掛かる可能性が充分にあったことを理解していた。

「ヨザクラ、あの女ではない! 白の女神様だ! 何度言えばわかる! 言い直せ!」

ヨザクラの唇がぷるぷると怒りに震える。

「そ、そう言えばロヴィス様、今回標的とする暗黒区の犯罪組織の候補はいくつかあるという話でしたが、どこから潰すかは決まりそうですか? 俺も、観光にはちょいとばかり飽きましたよ。明日にでもやりますか?」

また言い争いになるのを察知したダミアは、声を張り上げてそう言った。

「いや、しばらくは潜伏しつつ情報収集だ」

「あれ……そうなんですか?」

ダミアがきょとんとしたように目を丸くする。

「ここに来る前から言っていただろう? きな臭い、事件の匂いがするとな。せこいスラムの犯罪組織相手じゃ、俺の心は満たされない。ここ数日、都市の様子を探っていて確信した。住民の様子も不穏だが、お国の騎士様もどうやら視察に来ていたようだったからな。恐らく近い内に、この欲望渦巻くポロロックに巣食う、肥えた巨悪が動き始める。俺達はそれを狩る」

ロヴィスはそう口にし、眼下の暗黒区を眺めながら舌舐めずりをした。

彼はこの都市ポロロックにカナタが訪れているとは露程も思っていなかった。