軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二話 暗黒区の噂

桃竜郷にて無事に《空界の支配者》ことラムエルの企てを破って彼女の拘禁に成功した俺達は、ロズモンドへの報告のために彼女の待つ商業都市ポロロックへと帰還していた。

ロズモンドはラムエルを無力な竜人の少女だと考え、彼女の護衛のために付き添っていたのだ。

急にラムエルが消えてさぞ驚いているはずだった。

ポメラ、フィリアと手分けして捜していたのだが、無事にロズモンドを見つけることができたのは、俺達の帰還から四日後のことだった。

そこでようやく竜人の少女を捜している女冒険者のことを聞き、彼女が頻繁に出入りしているらしい魔導雑貨屋《妖精の羽音》へと向かったのだ。

俺達が店を訪れたとき、丁度《妖精の羽音》の中にロズモンドがいた。

そのまま店主の厚意で、店奥の休憩スペースでロズモンドと話し合うことができた。

「えっと……すいません、ロズモンドさん。もっと早めに報告したかったのですが、その、思いの外にポロロックが広くて騒がしかったもので……」

元々商業が盛んな都市とは聞いていたが、想像以上に人が多く、賑やかな場所だった。

「……いや、そんなことはどうでもよい。貴様らも桃竜郷で色々とあったのだろうが、我からも言わねばならんことがある」

ロズモンドは明らかに消沈していた。

空気が重い。

ラムエルが行方不明になったことを気に病んでいる様子であった。

恐ろしく言い出しにくい。

別にこっちは何も悪いことをしていないのに、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

俺の脳内では、ラムエルが舌を出して俺を馬鹿にしていた。

「あのですね、《空界の支配者》は……」

ロズモンドがばっと俺に頭を下げた。

あの傲慢、不遜を自負している彼女がである。

俺は咄嗟に仰け反ってしまった。

「すまぬ……ラムエルが誘拐されたのだ。子守りだなんだと偉そうに言っておいて、それさえできんとはな。ガキ一人守れず、何が《殲滅のロズモンド》か」

「や、やめてください! 頭を上げてください! 本当に!」

「最初はラムエルを生かしておくと厄介になると考えた桃竜郷の手先かと思ったが……どうやら調べていく内に、そうではないかもしれんと思い至った」

「ええ、そうではないです!」

元々ラムエルは、竜王に《空界の支配者》の陰謀を告発して欲しいと俺達に頼んでいた。

ロズモンドは真っ先に、ラムエルが《空界の支配者》の部下に攫われたのだと考えたらしい。

ただ、そのラムエルが《空界の支配者》なのだ。

「我はここ数日で、どうにか奴らの手掛かりを掴むことはできた。だが、現状ではそこまでである」

「奴ら……?」

何の話をしているんだ、ロズモンドは?

俺はつい、口を挟むタイミングを失った。

「この商業都市ポロロック……ただ栄えた都市というわけではないらしい。六十年前、商人上がりにして領主となった、大商公グリード。奴の推し進めた徹底して金と競争を中心にした政策は、華やかで裕福な都市と引き換えに、大きな貧富の差と、道徳や義の前に富を置く灰色の価値観を形成するに至った」

「あの、何の話を……」

「金が金を呼ぶ都市ポロロックでは、夢破れれば最後、二度と這い上がることはできん。ポロロックの地価の安い、過密化した区域へと押し込まれることになる。明日の生活もままならん者が一ヵ所へ押し込まれた結果、誘拐、麻薬、人身売買……何でもありの犯罪区域ができあがった。人が死んでもロクに調査もされんその地を、ポロロックの者は暗黒区と呼ぶらしい。恐らくラムエルは、暗黒区の犯罪組織に捕まっておるのだ」

「ち……違うんじゃないですかね、あの、それは……」

「いや、間違いない。特に最近、マナラークの《赤き権杖》騒動で《血の盃》が幹部の大半を失った。また、事件の中で《黒の死神》の頭目であったロヴィス・ロードグレイも死亡したそうだ。二つの犯罪組織が散り散りとなり、どうやら一部の構成員がこのポロロックの裏側に目を付けたようだ」

「あの人死んだんですか!?」

さらっとロヴィスの死亡が明かされた。

悪人ではあったことは間違いないのだろうが、一応顔見知りであるため複雑な気持ちであった。

土下座しても許してもらえない相手に出会ってしまったのかもしれない。

「暗黒区は治安が悪化しており、特に裏社会に新人が増えたことで、表の都市には被害を出さない、という暗黙の了解が破られつつあるようだ。従来の犯罪組織は、表に被害を出せば面倒なことになるだけだとわかっておったのだろう」

唐突に明かされたロヴィス死亡のせいで、ロズモンドの話が頭に入ってこない。

俺は机に肘を突いて口許を押さえ、あれこれと思案していた。

ロヴィスは一応それなりにレベルが高かったため、簡単に命を落とすとは思えないのだが。

彼からもらった方位磁石は、何かあったら金に換えようかと考えていたのだが、遺品になってしまった。

こうなっては、さすがに売り飛ばすのは気が引ける。

「……って、そうじゃないんです、ロズモンドさん! あのっ! 《空界の支配者》が、ラムエルだったんです!」

「む……?」

ロズモンドの目が丸くなった。

「……その、ラムエルは俺を桃竜郷に誘導して、そこの竜穴を利用して俺を殺そうと考えていたようです。現在、桃竜郷の竜人達がラムエルを拘束しています」

俺は恐々と口にして、ゆっくりと細めた目を開けてロズモンドの様子を確認する。

一週間近くラムエルを捜し回っていて、結局自分が騙されていたと知ったのだ。

「そうか……難しいことはわからんが、つまり、奴は犯罪組織に誘拐されたわけでも、《空界の支配者》の手先に命を奪われたわけでもないのだな。罪を犯して拘束されておるが、死んだわけではない、と」

ロズモンドは深く安堵の息を吐いていた。

心から安心したような表情をしていた。

「ロズモンドさん……」

自分の怒りよりも、心配していたラムエルの身が無事だったことの方が大事なのだろう。

ロズモンドの性根の良さを再実感させられた。

「ならばあのクソガキ、我の手でぶっ殺してくれるわ!」

ロズモンドは机を手で叩き、椅子を倒しながら立ち上がった。

激怒していた。

当たり前である。

「お、落ち着いてくださいロズモンドさん! ここ、人の道具屋ですから! あんまり大きな声は!」

「さすがに妙だとは思ったのだ! どこまで失礼なクソガキなのだと何度も思わさせられたが、まさかあの全てが演技であったとはな!」

……捕縛後のラムエルを見るに一切失礼の自覚はなかったようなのであれは本心だったのだろうが、火に油を注ぐだけなのでそのことは黙っておいた方がよさそうだ。

ラムエルはロズモンドを連れてきたら《第六天魔王ノブナガ》の情報を教えると交換条件を出していたが、この様子を見るに難しいかもしれない。

ぶっ殺してやると口にはしていたが、さすがに本気で直接制裁を下したいと考えているわけではないだろう。

わざわざラムエルに会うためだけに桃竜郷まで付いて来てくれるとは思えない。