軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四話 不死者のヤマト観光(side:ルナエール)

カナタがロズモンドと再会した頃、ルナエールは《第六天魔王ノブナガ》の情報を求めて極東の地にあるヤマト王国、帝都キョウを訪れていた。

派手な楼閣が並び立つ、見事な景観であった。

赤の派手な塗装や金箔が、街全体にふんだんに用いられている。

ルナエールは黒衣の《穢れ封じのローブ》を纏い、露店で買った風呂敷にノーブルミミックを包んで背負っていた。

人通りの多い道からやや離れたところで、ノーブルミミックを下ろす。

「……少し疲れました」

「主ガ疲レタナンテ、柄ニモナイコトヲ」

「歩き疲れたわけではありません。ただ、人の多いところは慣れないんです。宿を取って、しばらく休憩しようかと思います。別に歩き回らなくても、ソピアから厚意でいただいた《ティアマトの瞳》で調査はできますしね」

ルナエールは懐より、黄金に輝く水晶を取り出した。

叡智竜ティアマトの瞳。

世界の如何なる場所も映し出すこともできる、恐ろしいアイテムである。

《 地獄の穴(コキュートス) 》でもこんな便利なものは手に入らなかった。

ただ、ルナエールがこの世界の暗部《神の見えざる手》と対峙しようとしていることを知った一万年のときを生きるハイエルフが、快く譲ってくれたのである。

自身のこれまで集めた情報を元に《ティアマトの瞳》の映し出す座標を移動させて行けば、それだけで世界のどこまでも《神の見えざる手》を捜すことができる。

相応に魔力や集中力は必要とするものの、便利なアイテムであるため、ルナエールは時間さえあれば《ティアマトの瞳》を用いて情報収集を行うようにしていた。

「休憩がてらに、また少し探してみますか」

ルナエールがそう口にすると、《ティアマトの瞳》に世界が映し出され、めまぐるしくその光景が変化していく。

「普通、ソッチ使ッテル方ガ、何千倍モ疲レルハズナンダガ……。ヨククレタモンダ」

「私もそう思います。何かのついでのようにくださいましたね。私なんかよりも遥かに長生きしている最年長の人間種ですから、この程度のアイテムでしたらいくつも持っているのかもしれませんね」

「ハイエルフッテ凄インダナ」

「だとしても、貴重な品には変わりないはずです。何か別の意図があったのかもしれません。今思い返せば、最初に《神の見えざる手》と聞いたときのソピアの様子は妙でした。想像以上に詳しかったことについても違和感がありましたし、万年のときを生きてきた彼女が、《神の見えざる手》と全く関りがなかったというのもおかしな話です」

「ツマリ……? マサカ、ソピアハ連中ト繋ガッテ……」

「ええ、恐らくソピアは《神の見えざる手》と敵対関係にあったのでしょう。最初は乗り込んできた私に明らかに敵意を抱いていましたし、私が手土産にと用意していた指輪にも全く関心を示しませんでした。協力的になったのは、善意でも金銭目当てでもない、別の理由があったと考えるべきでしょう。彼女は、私が《神の見えざる手》に打撃を与えてくれるだろうと信じているのかもしれません。或いは、ただ捨て駒として使うつもりかもしれませんが」

「アア、ソッチカ。マァ、ソウダヨナ」

ノーブルミミックは身体全体を使って頷いた。

よくよく考えれば、ソピアと《神の見えざる手》が繋がっているはずなどなかった。

だとすれば、敵方であるルナエールに神話的万能情報収集ツールである《ティアマトの瞳》を渡すはずがないのだから。

「まあ、ソピアの意図は知りません。大事なのは結果的に協力関係にあるということです。また行き詰ったときには、彼女を訪れてみるのもいいかもしれません。《ティアマトの瞳》もあるので、次はきっと前回よりは簡単に会うことができるでしょう」

ルナエールはそう口にした後、水晶からやや視線を外し、帝都キョウの街並みへと目を向けた。

煌びやかな着物を纏った男女が仲睦まじげに歩いていくところだった。

「いいですね、着物というのも。い、一着購入してみましょうか。機会があったら、カナタに見てもらいましょう」

「……偵察シナガラ、何考エテンダ主。ソンナモノヨリ、連中ノ手掛カリハ見ツカッタノカ?」

ノーブルミミックは呆れ気味にそう口にし、《ティアマトの瞳》を覗き込んだ。

水晶の中では、カナタが雑貨屋らしきところに足を運んでいるところであった。

「何処探シテヤガンダ主!」

素早くノーブルミミックが舌の一撃を飛ばす。

ルナエールはそれをひょいと屈んで回避した。

「何をするんですか、ノーブル。私はただ、カナタが危険な目に遭っていないかどうかを確認しているだけです。当然でしょう? 彼は今、《神の見えざる手》に狙われているんです」

「手掛カリヲ探スッテ言ッテタダロウガ! サテハ、今マデモズット、カナタノ姿バッカ見テヤガッタナ!」

「何を言うんですか! カナタを確認していたのは、せいぜい九割五分くらいです!」

「概ネ全部ダロウガ! 駄目ダコレ、主ニ自覚ガナイ時ノ顔ダ!」

「ああっ! 誰を捜しているのかと思っていたら、またあの鎧の女ですか! 毎回思っていましたが、この人、何気にいつもカナタに馴れ馴れしいです! 私から何かこの人に言いに行った方がいいのでしょうか!」

「結局イツモ通リ、ストーカージャネェカ! 前ノ透明化ノ精霊ヨリ、ズットタチガ悪イ! モウ、ソノ水晶ハ、オレニ預ケロ!」

「何を言っているんですか、ノーブル。そんなことをしたら、カナタを見守れなくなってしまうではありませんか!」

ルナエールはさっと素早く《ティアマトの瞳》をノーブルミミックから遠ざける。

「オイ、カナタ、ドウ思ウ? オマエモ、コンナノデ見ラレテタラ気ガ気ジャネェダロ!」

ノーブルミミックがルナエールの背後へと声を掛けた。

ルナエールはびくりと身体を震わせながら振り返り、さっと後ろ手に《ティアマトの瞳》を隠した。

その隙を突いて、ノーブルミミックが素早く《ティアマトの瞳》を舌で絡め取った。

「ああっ! だ、騙しましたねノーブル! 返してください!」

ノーブルミミックは自身の中へと《ティアマトの瞳》を入れ、堅く口を閉ざした。

「今後、連中ノ調査ト、カナタノ安否ハ、オレガ確認スル」

「ふざけないでください! ノーブルの魔力では、充分に《ティアマトの瞳》を使いこなすことができません!」

「主ガ九割五分カナタノ後追ッテタダケナラ、残リノ五分ダケデモ使エレバ充分ダロ」

「お願いします! 十分、一日十分だけでいいので返してください!」

ルナエールはノーブルミミックの両側を押さえて必死に揺さぶった。