作品タイトル不明
第093話 早く高校生にならないかな……
ギルドを出た俺達は北に向かって歩いていく。
町並みはのどかであり、歩いている人も少ない。
「田舎だな」
「田舎ですね」
「普通の漁村でしょ。これだから帝都育ちは差別的で困るわ」
イレーネは王都育ちの貴族令嬢だろ。
というか、帝都を知らないだろ。
「これまで大きい町ばかり通ってきたからな」
例のあの盗賊村は除く。
「まあねー……地図が欲しいわ。私はもうこの辺のことを知らないし、地図は描けない」
「ふっ、ふふ……」
リーエが笑った。
「ついに笑いを堪えることもできなかったみたいね」
イレーネがジト目でリーエを見る。
「今のは狙いましたよね? 意地悪です」
「私が意地悪かしら?」
うーん……
「リーエはそういう子なんだ」
「知ってる。地図が欲しいわね」
正直、ずっと欲しかった。
イレーネが進んで描いてたから言わなかったけど。
「地図って売ってるのか?」
「うーん……あ、ちょっと待ってて」
イレーネが右の方にある店に入っていった。
「リーエ、あまりイレーネをバカにするなよ」
俺もあの地図はどうかと思っているけど。
「わかってませんねー。私がバカにする、ヴェルナー様が肯定する、ヴェルナー様の株が上がる。良いことしかありませんよ」
ホントかぁ?
楽しんでない?
お前、そういう奴だろ。
「そうかねー?」
「そうですよ。ヴェルナー様の性格とライフスタイルを考えると、ラストチャンスです。あんなに相性が良く、器量の良い人はいません。絶対に逃がしてはいけません」
そういうナチュラルに人を下に見ているところなんだがな……
まあ、悲しいことに事実なんだが。
俺達が話していると、イレーネが店から出てくる。
「リーエが悪口を言ってたー?」
「いや、器量が良いって褒めてた」
悪口は俺に対して言ってた。
「わかってるじゃないの。そうやって褒めてたら可愛いのに」
うんうん。
「私はそんなことしなくても可愛いと評判です。ヴェルナー様にあらぬ悪評が付くくらいには」
うんうん……うん?
「やっぱりそんな噂があったのか?」
悪評まで行ってる?
「ないわけがないです。私を作るなら所帯を持った後でしたね。もしくは、男性にするべきでした」
「男のホムンクルスを作ってもあらぬ疑いが付かないか?」
しかも、それが少年ならなおさら。
悲しいことに帝国でも貴族がそういう業の深いことに染まることは少なくなかった。
「…………付きますね」
がんじがらめじゃねーか。
「独身はホムンクルスを作ったらダメなんだな」
「そういうこと言わない。リーエがいて良かったでしょ?」
イレーネは本当に人間ができている。
なるほど。
逃がしたらダメ……
「リーエ、俺はイレーネこそが最高の女だと思う」
「私もそう思います」
「そうでしょう、そうでしょう。あなた達がそう思うのは仕方がないことだし、それは事実なのよ。オクレールの家に行ってから唯一、良いことがあったとしたら美に目覚めたことね」
イレーネが腕を組み、うんうんと頷く。
俺達が評価したのは内面なんだがな。
「冒険者時代はそうじゃなかったのか?」
「前にも言ったけど、昔は髪もショートだったし、貧相だった。まあ、稼ぐことが第一だったしね。泥まみれになることなんてしょっちゅうだったわよ」
想像ができないな。
でも、それくらいに苦労してきたんだ。
二つ名持ちのBランク冒険者の裏にはそういう努力があったんだろう。
「そこまでしなくていいぞ」
まあ、クリアダストもあるけど。
「しない、しない。それに髪も切らないから安心して」
うん。
「ショートも似合いそうだぞ」
「似合う、似合わないじゃないのよ。ヴェルナーが長い髪が好きなのはわかってるから大丈夫」
まあ、好きだけどもさ。
「そうか?」
「リーエを見ればわかるじゃないの」
リーエも髪は長い……
「女は髪だと思う」
男もある意味で……
俺、大丈夫だよね?
最悪は魔法で……
「ふっ、行きましょう」
イレーネが決め顔で髪を払い、歩いていったので俺とリーエもついていく。
すると、ちょっと行ったところに宿屋があった。
「ここですかね?」
「他にないしな」
辺りに定食屋なんかはあるが、宿屋らしき建物は見えない。
「値段が書いてあるわね。3人部屋だと、1泊8000ソル。食事付きで1万ソルね」
イレーネが扉に貼ってある価格表を見る。
「ちょっと安いな。大丈夫か?」
「別大陸だから何とも……まあ、ギルドが勧めるくらいだし、大丈夫でしょ」
少なくとも、わーおではないか。
俺達は扉を開けると、中に入る。
中はそんなに広くなく、すぐ目の前に受付があった。
そして、受付には髭を生やした筋肉質のおっさんが座っている。
「いらっしゃい。泊まりか?」
ちょっと強面だが、ニコッと笑った顔は好感が持てた。
「ああ。とりあえず、1泊したい。3人部屋だ」
「空いてるぜ。食事はどうする?」
「頼みたい」
「だったら1万ソルだ。料理は部屋に持っていくから声をかけてくれ。あと、あんたらは冒険者だろ? 事前に言ってくれたら昼飯を弁当にもできる」
良いな。
経験的にサービスの良い宿屋だ。
「明日、出るから頼みたい」
「了解」
料金を払うと、鍵を受け取る。
部屋は2階だったので階段を上がっていき、すぐ手前の部屋に入った。
「普通ね」
「でも、眺めは良いな」
部屋はそんなに広くなく、ベッドと丸テーブルがあるくらいだった。
しかし、窓が大きく、海がよく見えている。
「あの海を渡ってきたのよね」
「ああ」
海は良いな。
心が落ち着く。
「イレーネさん、お風呂は綺麗ですよ。浴槽もあります」
風呂場の方に行っていたリーエが顔を出す。
「良いわね。リーエ、先に入っていいわよ」
「あー、いつものお繋ぎタイムでしたか。では、私が先に入ります」
リーエがうんうんと頷き、扉を閉じた。