作品タイトル不明
第089話 船が沈むようなことはしないでほしいですね
ダリアが見えなくなると、俺も歩き出し、宿屋に戻る。
そして、2階に上がり、部屋に入ると、寝巻き姿のイレーネとリーエがソファーに腰かけて、談笑していた。
「良い部屋だな」
広いし、綺麗だ。
木材が良い感じに味を出している。
「眺めも良いわよ。窓から海が見えるの」
「それにお風呂も足を伸ばせます。ヴェルナー様も入ってください」
「そうする」
リーエはどこでも足を伸ばせるだろというツッコミはせずに風呂場に行く。
そして、シャワーを浴び、広めの風呂でゆっくりする。
「ハァ……」
とりあえず、ダリアは問題なさそうだな。
実は最初に会った時から『こいつって商人か?』って思っていた。
理由は魔力がかなり高かったからだ。
イレーネほどじゃないが、ベッキー、ギルドや山で会った高ランクっぽい冒険者よりも高かったのだ。
まあ、問題はなさそうだし、よしとしよう。
ゆっくり湯船に浸かると、風呂から上がり、部屋に戻る。
「良い風呂だった」
「でしょ?」
「人類はお風呂がないとダメなんです」
2人もご機嫌だ。
ソファーの方に行くと、イレーネの隣に腰かけ、手を握った。
「船はどうだった?」
イレーネが聞いてくる。
「明日の10時だ」
「おっ、良いわね。それに乗りましょう。料金は?」
「マリティアと一緒で1人25万ソルだ」
「いけるわね」
所持金的にもリーエを入れても乗れる。
「ああ。それと個室っていうのがあった」
「何それ? 船って大部屋で雑魚寝じゃないの?」
俺もそのイメージだった。
「個室は1人当たりじゃなくて、部屋当たりだった。料金は60万ソル」
「そっちの方が良いじゃないの。正直、雑魚寝は嫌」
俺も嫌だ。
「そっちにするか」
「ええ。そうしましょう」
「じゃあ、明日な。リーエ、10時だが、ちゃんと起こしてくれ」
「ええ。ここまで来て、寝坊で乗れませんでしたは最悪です」
ひどいオチだ。
「よし、今日はさすがにオフな。トランプでもするか?」
「うーん……それは夜で良いかな? 魔法の練習をする」
「そうか? じゃあ、そうするか」
まあ、手を離したくないからそれで良いや。
俺達は魔法の練習なんかをしていき、身体を休めていく。
夕方になると、夕日に輝く、海を見ながら美味い魚料理を食べた。
夕食後はワインやぶどうジュースを飲みながらトランプをしていったが、さすがに眠くなったので早めに就寝した。
翌日、ちょっと遅めに起きた俺達は朝食を食べ、準備をすると、9時過ぎには宿屋を出る。
「ダリアはまた買い付けかしら?」
「多分、そうだろ。魚介系を買って、グラードに行くって言ってたし」
密偵だが、その辺もやって、儲けているんだろう。
「そっか。最後にお礼を言おうと思ったんだけど」
「仕方がない。いつか再会した時に思い出話でもしよう」
会えるかは知らないが、最低でも手紙は来る。
「それもそうね。行きましょうか」
俺達は港の方に行き、建物の中に入る。
中は昨日と違い、かなりの数の人がおり、受付に並んでいた。
「皆、メラニカ王国行きですかね?」
リーエが聞いてくる。
「時間的にはそうだと思う」
「個室を取られたらマズいわ。私達も並びましょう」
俺達も列に並ぶ。
10分くらい並んでいると、俺達の番になった。
「おはようございます。こちらはメラニカ王国のクレイナ行きです。3名様ですか?」
受付の若い女性が笑顔で聞いてくる。
「ああ。個室を頼む」
「かしこまりました。それでは60万ソルになります」
そう言われたのでイレーネと財布を出し合い、60万ソルをカウンターに置いた。
「確かに。それではこちらが乗船券になります」
受付嬢がチケットを渡してきてくれたので受け取る。
「あの船か?」
受付の横にはゲートがあり、その先から建物の外に出られる。
そして、そこには船があり、前にいた人達は皆、そこに向かっていた。
「はい。もう船には乗れます。それとクレイナには3日後に着きます。それでは良い旅を」
「ああ」
俺達は横のゲートを抜け、建物の外に出ると、船に乗るためのタラップの近くにいる船員にチケットを見せ、船に乗り込む。
「個室はどこ?」
「えーっと、206号室だな。どこだ?」
「さあ?」
「探してみましょう」
俺達は船内を歩いていき、チケットに書かれている206号室を探す。
すると、5分くらいで見つけたので中に入った。
中は4畳半くらいしかなく、窓があるものの、それ以外は何もない部屋だった。
「微妙だな」
タコ部屋か?
「プライベートな空間があるだけ大部屋よりマシでしょ」
「まあ、マットレスを敷けますし、テントって思いましょうよ」
「それもそうだな」
俺達はリーエが言うようにマットレスを敷き、腰かけた。
「悪くないわね」
「トランプでもしながらゆっくりと到着を待ちましょう」
そうするか。
「ねえねえ、甲板に出てみましょうよ。海を見ることはあっても海から町を見ることなんてないし」
あー、良いかも。
「御二人でどうぞ。ホムンクルスは甲板がNGです」
本当に水が嫌いだな。
落ちないし、沈まないっての。
「マリティアの時は乗ってただろ」
「暗くてよくわかりませんし、それどころじゃなかったですから」
まあ、そうだけど。
「ヴェルナー、無理を言うものじゃないわよ」
「まあな。じゃあ、行ってくるわ」
「どうぞー」
俺とイレーネはリーエを残し、部屋を出る。
そして、船内を歩いていき、上り階段を見つけると、甲板に出た。
「おー、眺めが良いわね」
船は大型船であり、かなり高いので甲板から町や周囲がよく見えていた。
「あそこが森だな」
北にある森を指差す。
「大変だったわねー」
本当にな。
俺達が眺めを楽しんでいると、船が揺れ始め、動き出す。
そして、ゆっくりと岸から離れていった。
「ようやくだな」
「ええ。この大陸とはおさらば。別大陸で新しい人生よ」
イレーネはぼーっと離れていくブレイナの町を……故郷の大陸を見ている。
「………………」
「………………」
俺達は無言で町を見ていたが、イレーネの方から俺の手を取り、なんちゃら繋ぎをしてきた。
「大丈夫だよ」
「ええ。よろしくね」
イレーネがこちらを見てくる。
「キスでもするか?」
「好きになっちゃうじゃないの」
「もう遅いな」
俺達は笑い合う。
そして、2回目のキスをすると、個室に戻った。