作品タイトル不明
第088話 ねー?
俺達は荷台から降りる。
すると、海が近くて、たくさんの船が並んでいた。
大きな船のそばに建物があり、あそこが受付だなと思いながら御者台に向かう。
「ここか?」
「ええ。この宿屋がおすすめです。ちょっと高いですけど、海の眺めと料理、さらには広めのお風呂でゆっくりできると思います」
ダリアのおすすめにハズレはない。
「わかった。ダリアは砂糖を売りに行くのか?」
「ええ。もちろん、フォレナ村の件は明日以降に報告します」
助かるな。
「じゃあ、個室を取っておく」
「はい。ここもダリアが来たと言ってくれれば良いです」
どこにも馴染みがあるんだよな。
さすがだ。
「じゃあ、また」
「はい、また」
ダリアは笑顔で頷くと、馬車を動かし、どこかに行ってしまった。
「さて、休むぞ」
「「おー」」
俺達は宿屋に入る。
中は木材を使った落ち着く雰囲気があり、ほのかに甘い木の香りが鼻をくすぐった。
奥には受付があり、若い女性が座っている。
「いらっしゃーい。泊まりですか?」
俺達が受付まで行くと、受付の若い女性が聞いてくる。
「ええ。3人部屋よ」
イレーネが対応する。
「でしたら1万5000ソルになります。朝夕食付きですと、プラス3000ソルです」
確かにちょっと高いな。
「それでお願い」
イレーネが料金を支払う。
「まいどー。料理は部屋にお持ちしますのでお声がけください」
「わかったわ。それとあとでダリアって商人の子が来るから1部屋を取っておいて」
「あー、ダリアさんですね。わかりました。取っておきます。それではこちらがお客様の部屋になります。2階の4号室です」
店員がイレーネに鍵を渡した。
「イレーネ、リーエ、部屋に行って、風呂に入れよ。俺はちょっと港に行って、時刻表とか見てくる」
どうせ2人が先に入るし。
「あー、じゃあ、お願い」
「ありがとうございます」
2人が近くの階段を上がっていったので宿屋を出る。
そして、港の方に歩いていき、大きな船の隣にある建物に入った。
中には数人しかおらず、受付の上にある時刻表を見ている。
俺も受付の前に行き、時刻表を確認する。
クレイナ、クレイナ……あ、あった。
メラニカ王国のクレイナの町行きは明日の10時発だ。
今度はちゃんと出港するようで一安心。
次に料金を見てみる。
マリティアの時と同じく、1人25万ソルだ。
ただ、その下に個室の料金も書いてあった。
「ふーん……」
料金と時刻を確認し終えると、建物を出る。
そして、宿屋に戻るために歩いていったのだが、宿屋の前にはダリアがいた。
しかも、まるで俺を待っていたかのようにこちらを見ている。
「よう、砂糖は売り終えたのか?」
「まだですね」
ふーん……
「あ、部屋は取っておいたぞ」
「ありがとうございます。ヴェルナーさん、少し歩きませんか?」
散歩かな?
「いいぞ」
「では、こちらに」
ダリアが俺の横を通りすぎ、海の方に歩いていったのでついていく。
そして、港までやってくると、2人で防波堤を歩く。
「海が綺麗だな」
「そうですね。嫌いじゃないです」
「そうか……用件は何だ?」
「用件ですか……そちらの方があると思ったんですけどね」
用件というか、何と言うか……
「何もなければスルーするつもりだったんだけどな」
「そうですか?」
「ああ。お前、商人じゃないだろ」
こいつは俺がこいつのことを商人じゃないことを気付いていることに気付いている。
「困りますよ」
「そう言われてもな……見ちゃったんだよ。お前がトイレに行った後に森でオークが倒れているところをな。さらには逃げる時も御者台でリーエが見ていたぞ」
オークを倒した時は魔力反応でわかった。
ダリアとオークの魔力が重なったと思ったらオークの魔力が消えたのだ。
そして、後で確認に行くと、オークが倒れており、一撃で首を切り裂かれていた。
リーエの方は見てないから適当。
「そうですか……不審に思われるかもーとは思ったんですよね」
「不審すぎる。俺が殿を務めた時、俺達が寝ていた時だけ魔物が出てこないのもな」
こいつが投擲か何かですべて倒したんだ。
「ハァ……任せれば良かったですね」
「それが仕事だぞ。10万ソルも支払ってるくせに」
「まあ、そうですけどねー……でも、想定外なことが起きすぎたから仕方がないじゃないですか。これ以上のトラブルはごめんです」
ダリアが笑う。
いつもの優しい笑みだ。
「お前、密偵だな?」
「ええ。リーフェル王国所属の密偵です」
だろうな。
「行商人をしながら探っていたわけだ」
コスタリナ王国とリーフェル王国は仲が悪いらしいからな。
「そんなところです。一言良いですか?」
「どうぞ」
「仕事の邪魔しないでくださいよ。変な厄介ごとに巻き込まないでください」
厄介ごとね。
「まあ、イレーネを知ってるわな」
こいつの言っている意味はそういうことだ。
「セシリア・オクレールでしょ。白銀の二つ名を持つ王都では超が付くほどの有名人じゃないですか」
「お前、俺がウルフを倒した時に旦那の方も強いんですねって言ったもんな」
こいつは最初から俺達の実力を信用していた。
そして、イレーネの実力を見ていないのに強いことがわかっていた。
「言いましたっけ?」
「言ったぞ」
不用意な発言だった。
「あー……それは失敗」
ダリアが顔を手で覆う。
「ちゃんとやれ」
「では、お返しです。ブレイナの町に行くって聞きましたけど、最初に会った時はリーフェル王国のベルクでしたよね? マリティアに行ってください。そっちの方が近いですし、わざわざ国境を越える必要もないです」
知らん。
俺達はイレーネの地図しか見ていないんだから。
「俺達に護衛の依頼を頼んだのは?」
「流れです。別に私はセシリア嬢のことなんかどうでも良いんですよ。所属も王国軍ですし、貴族なんか知りません。どうせ駆け落ちでしょ。勝手にどうぞ」
別大陸に行こうとしているんだからそう思うわな。
実際、そんなに外れてないし。
「俺達もお前が密偵なことなんかどうでもいい」
だからスルーするつもりだった。
「結構。私達は何も知らないし、関係ない。たまたま旅を一緒にした商人と冒険者です。よろしいですね?」
当然、こいつとしても密偵であることがバレるのはマズい。
「それでいい。俺達は別大陸で次の人生を歩むんだ」
「お幸せに」
ダリアが笑う。
「なあ、ギルドを通じて手紙を出せるんだったか?」
「ええ。冒険者ギルドも商業ギルドも出せますよ」
便利なもんだ。
「ちょっと頼みがあるんだが」
「何でしょう?」
「お前もいつかはリーフェルの王都に戻るんだろ?」
リーフェルの王国軍の所属らしいし。
「ひと月後くらいですかね」
「それでいい。セシリアの屋敷にいたオラースっていう執事がどうなったかを教えてほしい」
「少し危ない橋ですね……公爵もセシリア嬢を追っているでしょうし」
ダリアが悩む。
「大丈夫だ。俺達はマリティアで死んでいることになっていると思う。崖の上から海に身を投げたんだ」
「……よく生きてますね」
「色々あったんだよ。そういうわけだから頼む。あいつは本当に良くしてくれたんだ」
本当に……
「わかりました。探ってみましょう。手紙も別大陸ですと料金も跳ね上がるんですが、臨時収入が入ったので良しとします」
ダリアがオークの魔石を見せてきた。
自分で仕留めたやつだ。
「頼むわ」
「ええ。では、私はこの辺で失礼します。今度、会っても普通でお願いしますね。私は物静かで優しい良い女で通っているんです」
まあ、そんな感じはするな。
「わかった」
「それでは…………あっ」
ダリアは引き返していったのだが、途中で足を止める。
「どうした?」
「もう1つだけ。私もあそこはキスをした方が良いと思いました」
ダリアは振り向いてそう言うと、そのまま歩いていった。