作品タイトル不明
第085話 多くを語らない方がかっこいいと思います
「あの、先生、どういうことですか?」
ダリアが教授に聞く。
「この村に入る時、かなりの人数が各建物から私達を見ていたよ」
「よそ者だからですかね?」
「そうだろうね。でも、あれは好意的な目ではなかったよ。私のメガネは遠くのものを見ることもできるからそれがはっきり見えた」
魔道具か……
「えっと……」
「ダリア君、町を歩いてどう思った?」
「猟師や木こりの村なんだなーって思いました」
俺も思った。
「そうだね。猟で使うであろう弓、木を切るであろう斧、それに木材も散乱していた。こっちでも雨が降ったんじゃなかったのかね?」
普通は家の中に避難させるな。
「そういえば、村もですけど、この辺は地面が濡れていませんね……」
確かに濡れていなかった。
俺達が休憩し、地図を確認した辺りから濡れていない。
「こっちは雨が降っていないんだよ」
「では、なんで村長さんは……」
経験のある冒険者2人はもうわかったって顔をしている。
俺もリーエも毒が含まれている時点でわかった。
「ダリア、盗賊事件があっただろ」
こっちでは雨が降っていないが、ミストラ方面で雨が降っていることは知っている。
村に逃げ帰ってきた盗賊に聞いたのだろう。
「ありましたね……」
「あくまでも予想であり、実際にどうかはわからないが、そう思っていい」
あいつら、もしかしたら俺達のことを調査員と見ているかもしれない。
もしくは、獲物か……いや、今はいい。
「そのようですね。料金の話をしないのかなと思いましたが、そういうことでしたか」
ダリアはパンを見る。
金は俺達を無力化した後で回収できるからだ。
「逃げるぞ」
あいつらが実際にどうなのかはどうでもいいことだ。
問題は食事に何かを盛ってきたこと。
その事実だけで十分。
「逃げられますかね?」
「問題ない。ただ、夜の森の中を進むことになる」
「仕方がありません。馬には頑張ってもらいます」
ダリアが頷いた。
「リーエ」
「はい」
リーエが立ち上がり、玄関の方に行く。
「ヴェルナーさん、どうするんですか?」
ベッキーが聞いてくる。
「強行突破一択だ」
「まあ、そうですね……」
他にない。
『ヴェルナー様、向かいの建物に先ほどの青年がおり、窓からこちらを覗いています』
リーエが念話で教えてくれる。
『眠らせろ』
『はい…………完了です』
さすがはリーエだ。
「グダグダする時間もないし、さっさと行こう」
「そうですね」
全員が立ち上がった。
「イレーネ、ダリアを頼むぞ。ベッキーは教授」
「ええ」
「わかってます」
2人が頷いたので玄関に向かう。
「外は大丈夫です。急ぎましょう」
リーエが頷いた。
「ああ。お前も前だ」
念のため。
「わかりました。では、行きましょう」
俺達は外に出ると、なるべく音を出さないように馬車を用意し、乗り込んだ。
馬車が動き出したのだが、ミスディレクションをかけているし、見張りは眠っているので見つからずに門までやってこれた。
そして、門を開けると、村の外に出て、進んでいく。
「案外、すんなり抜けられましたね」
ベッキーがほっとしている。
普通はバレるのだが、これがミスディレクションの有能さだ。
とはいえ……
「ベッキー、油断はしないように。バレるのは時間の問題だ」
教授がベッキーを窘める。
「わかってます。私達が寝たら来るわけですし、馬車がないのは一目瞭然ですもんね」
大事なのはどれくらいの時間が稼げるかだ。
奴らは絶対に追ってくるし。
「俺が外を見ておくからベッキーは寝ろ。後で代わってくれ」
「わかりました。来たら起こしてください」
ベッキーが横になったので後方を見る。
「わかっていると思うが、確実に来るよ」
教授が声をかけてきた。
「わかっている。道はこっちしかない」
逃げるならミストラ方面か、ブレイナ方面しかない。
だが、その2択ならこっちに来る。
そして……
「来たか」
後方にたいまつが見えている。
それに微弱だが、魔力も感じる。
「もう? 全然、寝られないじゃん」
ベッキーが身体を起こした。
「あれは馬に乗っているね。1分もかからずに追いつかれる」
教授が後方を見る。
「もう! 教授は下がってください!」
ベッキーが教授を引っ張っていく。
すると、馬車の前に矢が落ちた。
俺の防御結界に阻まれたのだ。
「ベッキー、このままでは追い付かれる。俺が時間を稼ごう」
「へ!? 私もやりますよ!」
「お前は教授の護衛だ。俺1人でいい」
というか、邪魔。
「で、でも……」
「何も問題ない。何人来ようが俺の相手にはならない」
あー、イレーネがいればなー。
このかっこいいセリフを聞かせてやりたかったわ。
「えー……」
「すぐに追いつく。じゃあな」
そう言って、馬車から飛び降りた。
「あー……そんなぁ。奥さんに何て言えば……」
馬車が走っていき、ベッキーの悲痛な声も聞こえなくなった。
それと同時に前方から馬の嘶きが聞こえてくる。
「エアカッター」
風魔法で森の木を切り、街道に倒した。
「なっ!?」
「何だ!?」
「倒木か!」
馬に乗っていた追手が木の前で足を止めた。
数は5人。
魔力的にもたいした敵ではない。
「何の用だ?」
「チッ! 殺せ!」
「ああ。さっさと追うぞ!」
男達は俺の言葉を無視して、馬から降りると、倒木を飛び越えて、剣を抜いた。
「この俺に挑むとは……」
「あん?」
「ほっとけ。さっさとやるぞ」
「俺は銀髪のねーちゃんが良……あれ?」
一人の身体がズレた。
「お、おい……」
「な、何が……」
敵が驚愕した顔で死体を見る。
「大丈夫だ。お前達もすぐにそうなる」
「こ、こいつか!」
「こ、殺せ!」
「クソがッ!」
残っている4人が同時に斬りかかってきた。
しかし、誰も俺のところまで来ることはできずに地面に転がっていく。
俺の前にはバラバラ死体のみが見えていた。
「なるほどな……」
最初に盗賊に遭遇した時以来に魔法を使って人を殺したからわかる。
陛下も……大臣も……その他の連中も……誰も俺を庇わなかった理由がよくわかった。
まさしく、人間兵器だ。
「自分の才能が怖いね」
ふっ、かっこいい。
武勇伝に加えよう。