作品タイトル不明
第086話 ふむふむ……
かっこつけ終えた俺は周囲の木をもう2、3本切り、この場をあとにした。
強化魔法で走っていき、途中で馬に乗れば良かったと思ったが、もう遅かったので走り続ける。
そして、1時間くらい走ると、前方から巨大な魔力を感じた。
とはいえ、何の脅威もない魔力である。
いつも感じているイレーネの魔力だからだ。
「おーい」
息を整えた後に止まっている馬車に向かって声をかけた。
「あれ!? ヴェルナーさん!? 戻ってきた!」
ベッキーが驚く。
「戻ってくるって言っただろ」
「いや、そうですけど……」
ベッキーが首を傾げた。
「ヴェルナー、どうだった?」
イレーネが聞いてくる。
「問題ない。それに木で道を塞いでおいたから時間稼ぎにはなる。そっちは?」
「馬の休憩」
回復魔法をかけたとはいえ、朝からずっと走っていたからな。
「ダリア、行けるか?」
「ちょっと厳しいです。やはりちゃんと休ませないと」
馬が潰れたら困るな。
俺達的にも今後のダリア的にも。
「ベッキー、イレーネ、交代で見張りをしよう。ここで休むべきだ」
「そうですね。それが良いと思います」
「どうせ森で野宿だものね」
2人が頷く。
「ダリア、教授、リーエ、馬車の中で寝ろ。状況が状況だからテントを出せない」
追手が来たらすぐに逃げる必要があるからだ。
「わかりました」
「私は構わない」
「では、寝ます」
3人が荷台に乗り込んだ。
「どう分けます?」
ベッキーが聞いてくる。
「私が最初にやるわ。その次にヴェルナーね。最後はベッキー」
「まあ、それが妥当ですかね? では、お任せします」
ベッキーも馬車に向かった。
「大丈夫か?」
「問題ないわ。リーエに回復魔法をかけてもらったし」
そうか。
「じゃあ、頼むわ」
「ええ」
イレーネに任せ、馬車に乗り込んだ。
かなり狭く、リーエ以外は横になれそうにない。
仕方ないかと思いながらリーエの隣に背を預ける。
「再会の抱擁かキスするところですよ?」
「寝ろ」
キッズを黙らせると、目を閉じる。
すると、森の中から魔力を感じた。
「すみません……」
奥にいるダリアが立ち上がる。
「どうした?」
「ちょっとトイレに……」
あー……
「リーエ、ついていけ」
さすがに俺が行くわけにはいかない。
「大丈夫ですよ。すぐそこでしますから……すみません」
ダリアはちょっと恥ずかしそうに馬車から降りた。
目を閉じながらダリアの魔力を探っているのだが、ダリアは止まることをせずにどんどんと森の中を歩いていく。
そして……
『ヴェルナー様』
『今は放っておけ』
『一応、報告しておきます。馬車を走らせていた時も側方からウルフの魔力を感じたのですが、突如消えました』
『わかった』
目を閉じて待っていると、ダリアが戻ってきた。
「すみません」
「気にするな。生理現象は仕方がない。寝るぞ」
「はい」
目を閉じ、今度こそ眠ることにした。
次の瞬間、身体を揺すられた。
「ん?」
何だろうと思い、目を開けると、イレーネがいた。
「おはよう。時間よ」
え?
「もうか?」
「ええ」
一瞬だった……
「交代しよう」
「ええ。時計を貸すから3時になったらベッキーを起こして。出発は5時だから」
時計を見ると、1時だ。
「わかった」
イレーネの懐中時計を受け取ると、場所を入れ替え、馬車から降りる。
そして、見張りを始めた。
「ふう……」
ひたすら見張りをしていったが、1時間後くらいに森の中に入る。
そして、確認だけすると、馬車に戻り、見張りを再開した。
さらに1時間が経ち、3時になったので馬車に乗り込んでベッキーの肩を揺する。
「ふぇ……」
ベッキーが目を開けた。
「起きたか? 交代だ。5時に皆を起こしてくれ」
そう言って、懐中時計を握らせる。
「はーい……」
「頼むぞ」
ベッキーと位置を入れ替えると、目を閉じる。
すると、すぐに意識が飛んでいった。
「起きてくださーい。朝ですよー」
ベッキーの声が聞こえたので目を覚ます。
今回も本当に一瞬だったし、寝た気がしない。
「眠っ」
「きついわねー」
「御二人はいつもそう言ってますよ」
俺達は馬車から降りると、身体を伸ばした。
「すみません。すぐに出発します。朝食は各自で食べてください……持ってますよね?」
ダリアが聞いてくる。
「缶詰がある」
「携帯食料がある」
俺とベッキーが答えた。
「では、行きましょう」
ダリアが御者台に向かう。
「ヴェルナー様、イレーネさん、ベッキーさん、あなた達は馬車の中で寝てください。ダリアさんの隣には私が座りますし、何かあったら教授が起こします。今夜も森で野宿ですから体力を回復させてください」
それが良いか。
「教授、頼む」
「ああ。それくらいはやろう」
リーエが前に行き、俺達は荷台に乗り込む。
やはり横にはなれないが、背を預けて、目を閉じた。
「ベッドで寝たいな」
「シャワーを浴びたい」
「言わないでくださいよ……温かいスープが飲みたいです」
良いな。
「いいから寝たまえ」
寝るか……
しゃべるのをやめ、意識を手放した。
次に起きた時は昼であり、昼食の缶詰を食べる。
「教授、追手はともかく、魔物は出たか?」
「いや、出てないよ」
そうかい。
午後からは見張りをしていき、出てきたウルフなんかの魔物を倒していく。
夕方になると、夕食を食べ、前日と同じように交代で見張りをしながら夜を過ごした。
そして、翌日は寝ずに馬車の中で過ごしていくと、昼過ぎにはようやく長かった森を抜けたので馬の休憩のために馬車から降りる。
「あれがブレイナの町になります」
ダリアが前方を指差す。
指差した先には数キロ先だが、町と共に海が見えていた。
「やっとか」
「ええ。お疲れさまでした」
本当に疲れたな。
「追手はもう大丈夫よね?」
「多分、ここまで来ればどうしようもないと思います」
イレーネとベッキーが後ろの森を見る。
「なあ、あの村のことはどうする?」
「私達にはもう関係ないけど、報告はした方が良いでしょうね。他の犠牲者が出ちゃうし」
余罪はあるだろうな。
追手のあのイレーネをどうのこうのって口ぶりからしても教授の予想通り、毒ではなく、睡眠薬だろう。
そんなものを簡単に用意できるとは思えない。
「それについては私が商業ギルドを通じて、報告しましょう。皆さんは大陸から出るわけですし、私がやっておきます」
「そうしてくれたまえ。聴取なんかで時間を取られたくない」
教授が頷いた。
俺達も同意見だ。
「わかりました。それでは町に行きましょう。乗ってください」
「ああ」
俺達が馬車に乗り込むと、すぐに動き出した。