軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第205話 掲示板の上位十人

期末試験がすべて終わってから、数日が経った。

その日の朝、三年Sクラスの教室はいつもより少し騒がしかった。

理由はすぐに分かった。

教室内の掲示板の前に、生徒たちが集まっている。

一学期期末試験の結果が張り出されていたのだ。

俺たち六人も、自然と掲示板の方へ向かった。

掲示板には、上位十名の名前と総合点が並んでいる。

一位 リオン・ハル 285点

二位 セレナ・ヴァレスト 276点

三位 エドガー・アルスレイン 271点

四位 ナディア・セルヴァン 270点

五位 クラウス・レインフォード 269点

六位 ガイル・ベイルン 256点

七位 ライオネル・グランツ 255点

八位 ヴィクトル・ローデン 253点

九位 ミラ・ハーウェイ 244点

十位 オルド・ベイカー 242点

しばらく、言葉が出なかった。

自分の名前が、一番上にある。

それは、もちろん驚いた。

だが、それ以上に目を引いたのは、上位十人の顔ぶれだった。

飛び級組六人が、全員入っている。

そして、クラウス、ライオネル、ミラ、オルドも入っている。

しかも、十位のオルドですら二百四十二点。

三科目の平均で八十点を超えている。

飛び級基準。

その言葉が、教室のあちこちから聞こえ始めた。

「上位十人、全員八十点平均を超えてるのか」

「飛び級組だけじゃない。クラウスたちも超えてる」

「クラウスはともかく、ライオネル、ミラ、オルドまでか……」

「今まで超えたことなかったよな」

ざわめきは、単なる驚きではなかった。

このクラスの生徒たちは、飛び級基準がどれだけ重いものか知っている。

平均点は五十点前後。

成績が良い生徒でも、七十点台に乗れば十分に優秀と言われる。

その中で、三科目平均八十点を超える。

それは、簡単なことではない。

俺たち飛び級組は、五年への飛び級を目指している。

だから、この基準を超えなければ話にならない。

だが、既存の三年生であるクラウスたちまで、今回はその基準を超えてきた。

俺は掲示板を見ながら、静かに息を吐いた。

俺たちだけが伸びたわけではない。

この二か月、三年Sクラス全体が変わっていたのだ。

「リオン」

声をかけられて振り向くと、クラウスが立っていた。

いつも通り落ち着いた表情だ。

だが、掲示板を見る目には、少しだけ違う色があった。

「一位、おめでとう」

「ありがとうございます、クラウスさん」

「実技だけではなく、筆記と応用でも取ってきたんだな」

「かなり詰め込みました」

俺がそう答えると、クラウスは小さく頷いた。

「僕も初めてだ」

「初めて?」

「平均八十点を超えたのは、今回が初めてだ」

俺は少し驚いた。

クラウスほどの生徒でも、これまで飛び級基準を超えたことがなかったのか。

クラウスは掲示板へ視線を戻す。

「君たちが来なければ、ここまでは詰めなかったと思う」

少し離れたところでは、ライオネルも掲示板を見ていた。

彼は腕を組んだまま、こちらへ視線を向ける。

「俺も同じだ」

ライオネルが言った。

「最初は、君たちを三年Sクラスの仲間として認めていなかった」

その言葉に、以前のやり取りを思い出す。

認めない者。

ライオネルは、あの時も逃げずに正面から言った。

そして今も、正面から言っている。

「だが、君たちがいたから、俺たちも上を見た」

俺はすぐには答えられなかった。

飛び級組として、三年Sクラスに入った。

最初は視線を集めた。

試された。

認められていなかった。

けれど、授業を受け、演習を重ね、試験を迎えた。

その結果、掲示板には飛び級組だけではなく、既存三年生の名前も並んでいる。

それは、俺たちが勝ったというだけの話ではなかった。

競い合った結果、全体が上がったのだ。

ミラとオルドも、掲示板の前で自分の名前を見ていた。

「まさか、私まで八十点平均を超えるとは思わなかったわ」

ミラが少し信じられないように呟く。

オルドも低く頷いた。

「今年は、教室の空気が違ったからな」

「飛び級組が来てから、皆どこか落ち着かなくなったものね」

「だが、悪い意味ではなかった」

オルドの言葉に、ミラも頷く。

「ええ。負けたくないと思ったのは、久しぶりだったわ」

その会話を聞きながら、俺は掲示板をもう一度見た。

一位に自分の名前がある。

それは嬉しい。

だが、今はそれだけではなかった。

この上位十人の掲示は、ただの順位表ではなかった。

三年Sクラスが、この二か月でどう変わったかを示すものだった。

そこへ、ベルンハルト先生が教室に入ってきた。

掲示板の前に集まっていた生徒たちが、自然と静かになる。

先生は掲示を一瞥し、教室全体を見回した。

「今回は、上位十人全員が平均八十点を超えた」

低い声だった。

「三年Sクラスでも、そうある結果ではない」

教室の空気が少し締まる。

「飛び級組が加わったことで、既存生徒が刺激を受けた。既存生徒が食らいついたことで、飛び級組も気を抜けなかった」

先生はそこで一度言葉を切った。

「競争は、相手を落とすためにあるんじゃない。互いに上げるためにある」

その言葉は、教室の奥まで静かに届いた。

だが、先生は甘い言葉だけで終わらせなかった。

「ただし、基準を一度超えたからといって、五年へ飛べると決まったわけではない」

空気がまた変わる。

「この結果は入口だ。継続して越えられるかを見る」

ベルンハルト先生は、俺たち六人だけでなく、クラウスたちにも視線を向けた。

「浮かれるな。だが、胸を張れ。今回の結果は、間違いなくお前たちが積み上げたものだ」

それだけ言うと、先生は教卓へ向かった。

昼休み。

俺たちはいつものように、食堂の一角に集まっていた。

机の上には、それぞれに返された詳細な成績表がある。

朝の掲示板には総合点しか出ていなかった。

だが、手元の成績表には、筆記、応用、実技の点数がそれぞれ書かれている。

最初にヴィクトルが俺の成績表を覗き込んだ。

「リオン、筆記95って本気?」

「本気かどうかは知らないけど、そう書いてあるな」

「いや、三年の筆記で95はさすがにおかしいでしょ」

俺は成績表を見る。

筆記95点。

応用94点。

実技96点。

合計285点。

自分でも、よくここまで取れたと思う。

筆記は、簡単ではなかった。

むしろかなり苦しかった。

ただ、春休みから詰め込んできたものと、三年Sクラスで繰り返した応用課題がつながった。

その結果が出たのだと思う。

セレナが自分の成績表を静かに置く。

「私は、筆記91、応用94、実技91。合計276ね」

「十分高いだろ」

俺が言うと、セレナは少しだけ目を細めた。

「でも、今回はリオンに負けたわ」

「珍しく悔しそうだな」

「悔しくないわけではないもの」

セレナは淡々と言う。

だが、その声には確かに少し悔しさが混じっていた。

エドガーも成績表を見る。

「僕は、筆記90、応用91、実技90。合計271」

「全部高いな」

ヴィクトルが言うと、エドガーは首を振った。

「高いが、上には届いていない。今回はリオンとセレナがかなり強かった」

「王子にそう言われると、反応に困るね」

「事実だからな」

エドガーは静かに答えた。

ナディアは、自分の成績表を見て小さく息を吐いた。

「私は、筆記90、応用90、実技90でした」

「全部90か」

俺が言うと、ナディアは少し恥ずかしそうに微笑む。

「大きく崩れなかったのはよかったです。ただ、もう少し伸ばせるところはあると思います」

「いや、全部90でそれを言うのすごいね」

ヴィクトルが呟いた。

ナディアらしい結果だった。

派手な一位ではない。

だが、どこにも穴がない。

支援役としても、学生としても、安定感がある。

そして、ガイル。

彼は自分の成績表をじっと見ていた。

「ガイル、どうだった?」

俺が聞くと、ガイルは短く答えた。

「筆記80。応用81。実技95」

ナディアがほっとしたように微笑む。

「ちゃんと越えていますね」

「ああ」

ガイルは頷いた。

「助かった」

その一言が誰に向けられているのかは、分かりきっていた。

ナディアは少しだけ目を丸くし、それから柔らかく答える。

「ガイルさんが頑張ったからです」

「教えてもらわなければ、届かなかった」

「それでも、書いたのはガイルさんです」

ガイルはしばらく黙っていた。

それから、また短く頷いた。

「次は、もう少し上げる」

その言葉に、俺は少し笑った。

筆記80。

応用81。

ぎりぎりだ。

だが、ぎりぎりでも超えた。

それは大きい。

最後に、ヴィクトルが自分の成績表を机に置いた。

「俺は、筆記82、応用91、実技80。合計253」

セレナがすぐに言う。

「実技、ぎりぎりね」

「言われると思ったよ」

ヴィクトルが肩をすくめる。

「でも、越えたからいいでしょ」

「応用91はかなり高いな」

俺が言うと、ヴィクトルは少し得意そうな顔をした。

「戦うより、考える方が向いてるからね」

「それ、自分で言うんだ」

「実技80を見られた後だから、言えるところは言っておかないと」

その言い方に、少しだけ笑いが起きる。

だが、ヴィクトルの応用91点は本物だ。

地形を見る。

人や物の流れを見る。

危険を先に減らす。

ヴィクトルのそういう考え方は、応用課題ではかなり強い。

ただ、実技はぎりぎり。

本人も、それを分かっているのだろう。

「五年への飛び級」

エドガーが静かに言った。

「これで、少なくとも基準には手が届いた」

「でも、ベルンハルト先生は継続して越えられるかを見ると言っていたわ」

セレナが続ける。

「一度だけでは足りない、ということでしょうね」

今回の結果は大きい。

だが、これで五年へ飛べると決まったわけではない。

むしろ、ここからが本番だ。

基準を越えた者同士の勝負。

飛び級組だけではない。

クラウス。

ライオネル。

ミラ。

オルド。

既存三年生の上位陣も、初めて飛び級基準を越えてきた。

その結果、三年Sクラス全体が一段上がった。

俺たちだけが上がったわけではない。

このクラスそのものが、少し上がったのだ。

掲示板に並んだ十人の名前。

それは、三年Sクラスの新しい競争の始まりでもあった。