軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第193話 三年Sクラス

春休みが終わり、今日から俺たちは三年生として学院に通うことになる。

寮を出て校舎の廊下を歩いていると、新学年らしい少し浮ついた声がある。

廊下の途中で、セレナたちと合流した。

セレナはいつも通り背筋を伸ばしている。

エドガーは静かに周囲を見ていた。

ナディアは少し緊張しているようだが、表情は落ち着いている。

ガイルは前を見ている。

ヴィクトルは少しだけ肩をすくめた。

「本当に三年生になっちゃったな」

「今さら戻れないだろ」

俺が言うと、ヴィクトルは苦笑する。

「戻りたいとは言ってないよ。ただ、気持ちが追いついてないだけ」

「それは少し分かるわ」

セレナが言った。

彼女がそう言うのは珍しい。

つまり、セレナも平気なわけではないのだろう。

エドガーが短く言う。

「行こう」

俺たちは三年Sクラスの教室へ向かった。

三年Sクラスの教室の前に立つ。

一年Sクラスの教室とは、なんとなく空気が違う様に感じられた。

扉の向こうから聞こえる声は、思ったより静かだ。

入学したばかりの一年生のような騒がしさはない。

俺は一度だけ息を整えた。

そして、教室に入る。

その瞬間、視線が集まった。

教室にいた三年生たちが、ほぼ一斉にこちらを見る。

騒ぎはしない。

だが、その静けさが逆に重い。

俺たちより一年上の生徒たち。

たった一年。

そう思うかもしれないが、この年頃の一年は大きい。

背も、体つきも、顔つきも、一年生の時とは違う。

中学三年生の教室に、中学二年生が数人だけ混ざったような違和感があった。

もっとも、前世で四十五年生きていた俺からすれば、

目の前の三年生たちも十分子どもに見える。

だが、そんなことを考えたところで、今の俺はリオン・ハルだ。

この世界では、同じ学院に通う年下の飛び級生でしかない。

そして、この教室にいる三年生たちの視線は、明らかに俺たちを品定めしていた。

「あれが飛び級組か」

「アルスレイン殿下もいるのか」

「ヴァレスト公爵家に、ベイルン家の嫡男もいるな」

「ハル家のリオンって、あいつか」

小さな声が流れる。

露骨な敵意ではない。

だが、歓迎とも違う。

一年Sクラスでは、俺たちはいつの間にか中心にいた。

でも、ここでは違う。

俺たちは、後から入ってきた年下の六人だった。

俺たちが空いている席の近くに立ったところで、教室の扉が開いた。

入ってきたのは、体格のいい男性教師だった。

年齢は四十前後だろうか。

背筋がまっすぐで、歩き方に無駄がない。

教師というより、訓練場で部隊を率いていた人間に見える。

「席につけ」

低い声だった。

大声ではない。

だが、その一言で教室が静まった。

三年生たちは慣れた様子で席につく。

この先生が、このクラスを長く見てきたのだと分かった。

男性教師は教壇に立ち、俺たち六人を見た。

「今日から、この六人が三年Sクラスに加わる」

教室の空気が少しだけ動く。

「私はベルンハルト・レイグ。このクラスの担任だ」

ベルンハルト先生。

元騎士団の人間だと聞いていた。

騎士団での出世より、教師になる道を選んだらしい。

この三年Sクラスの生徒たちは、一年の頃から彼に見られてきたという。

ベルンハルト先生は、俺たちを見ながら続けた。

「飛び級で来たからといって、特別扱いはしない」

声は淡々としている。

「逆に、年下だからといって見下すことも許さん」

教室の視線が少し変わる。

「この教室では、結果と姿勢で判断する」

その言葉は、俺たちだけでなく、元からいる三年生たちにも向けられていた。

厳しい。

でも、公平だ。

俺はそう感じた。

「では、六人。名乗れ。長い挨拶はいらん」

ベルンハルト先生に促され、最初に俺が立った。

「リオン・ハルです。よろしくお願いします」

教室の一部がわずかに反応した。

俺に関する情報は、すでに広まっているのだろうか。

続いてセレナが立つ。

「セレナ・ヴァレストです。三年生として学ばせていただきます。よろしくお願いいたします」

ヴァレスト公爵家の名前で、空気が少し締まる。

次にエドガー。

「エドガー・アルスレインです。よろしくお願いします」

王家の名が出ても、教室は騒がなかった。

ただ、視線の質が変わる。

さすが三年Sクラスというべきか、露骨に動揺する生徒はいない。

ガイルが立つ。

「ガイル・ベイルンだ。よろしく頼む」

その体格と家名に、実技系の生徒らしき何人かが反応した。

ナディアが続く。

「ナディア・セルヴァンです。よろしくお願いいたします」

静かで丁寧な挨拶だった。

ナディアは隣国セルヴァン王国の王女だ。

三年生たちの中でも緊張が走っている。

最後にヴィクトルが立つ。

「ヴィクトル・ローデンです。よろしくお願いします」

いつもの軽さは少し抑えていた。

初日から妙に浮くつもりはないらしい。

全員が名乗り終えると、教室の前方にいた男子生徒がこちらを見た。

背が高く、落ち着いた雰囲気の生徒だ。

彼はゆっくりと立ち上がった。

「クラウス・レインフォードだ」

教室の生徒たちの反応を見る限り、彼はこのクラスの中心に近い人物なのだろう。

クラウスは俺たちを見て言った。

「話は聞いている。飛び級で来た六人だろう」

声に嫌味はない。

ただ、甘さもない。

「三年の授業は、一年Sクラスの延長ではない。ついてこられるかは、これから分かる」

教室の空気が少し硬くなる。

敵意ではない。

だが、簡単に認めるつもりもない。

それが、この教室の最初の答えなのだと思った。

「レインフォード。挨拶はそれくらいでいい」

ベルンハルト先生が言う。

クラウスは素直に頷き、席に戻った。

そのやり取りだけで、彼がこの教室でどういう立場なのか少し分かった気がした。

ベルンハルト先生は、改めて教室全体を見回した。

「今日から君たちは三年Sクラスの生徒だ」

今度は俺たち六人を含めた言葉だった。

先生の視線が俺たちに向く。

「授業も課題も、二年までの内容を理解している前提で進める。分からなければ、自分で埋めろ」

言い方は厳しい。

だが、春休みにその準備をしてきたからこそ、俺はまっすぐ受け止められた。

「ただし、聞くなとは言わん。分からないことを隠すな。遅れを放置するな。

このクラスで一番困るのは、できないことではなく、できないことをごまかすことだ」

その言葉に、少しだけ意外さを覚えた。

厳しいだけの教師ではない。

現場で人を見てきた人間の言葉だ。

「以上だ」

ベルンハルト先生は教卓に手を置いた。

「ついてこい」

短い一言。

それで教室の空気が決まった。

俺は席に着きながら、教室を見回した。

三年Sクラス。

俺たちは飛び級してここに来た。

だが、それはこの教室に受け入れられたという意味ではない。

年上の生徒たちの視線。

新しい担任の言葉。

これから始まる三年の授業。

どういう一年になるのか、少し楽しみでもあった。