軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第192話 春休みの終わり

春休みもあと少しで終わる。

俺たち六人は相変わらず学院の図書室に集まっている。

机の上には、二年生用の教科書、参考書などが積まれていた。

「ふう、これで二年の内容は大体終わったと思うわ」

セレナが参考書を閉じながら言った。

その声には、少しだけ疲れが混じっている。

「完璧とは言えないけれど、三年の授業が始まってすぐに置いていかれることはないと思う」

「同感だ」

エドガーが静かに頷いた。

「残りは、三年の授業を受けながら補うしかない」

「それが一番現実的だな」

俺も頷く。

春休みだけで二年分の内容を完全に身につけるのは無理がある。

だが、少なくとも、何も分からないという状態ではなくなった。

それだけでも大きい。

ガイルは低く息を吐いた。

「筆記は、まだ難しいな」

「でも、かなり良くなっていますよ」

ナディアが優しく言う。

「最初の頃より理解できていますよ」

「そうか」

「はい。焦らずに読めば、ちゃんと解ける問題が増えています」

ガイルは少しだけ黙り、それから頷いた。

「なら、続ける」

ヴィクトルが隣で机に突っ伏した。

「春休みって、ここまで机に向かうものだったっけ?」

「飛び級を選んだ時点で、普通の春休みは諦めるべきだったわね」

セレナが淡々と言う。

「それ、正論だけど疲れてる時に聞くと結構くるね」

ヴィクトルは顔を上げずに言った。

その言い方に、少しだけ笑いが起きる。

疲れてはいる。

でも、空気は悪くなかった。

この二週間で、俺たちはかなり詰め込んだ。

福嶋亮太の本の件で王立研究所に呼ばれることもあった。

春休みらしい春休みだったかと言われると、かなり怪しい。

それでも、無駄な時間ではなかった。

図書室を出る前、俺は皆を見回した。

「明後日が始業式だよな」

「ええ」

セレナが頷く。

「つまり、明日が春休みの最終日ね」

「だったら、明日は最後の気分転換に森へ行かないか」

そう言うと、ガイルがすぐに顔を上げた。

「行く」

「早いな」

「決まっている」

迷いのない返事だった。

ヴィクトルは、少しだけ顔を上げる。

「俺は休む。春休み最終日くらい、本当に休みたい」

「分かった」

無理に誘うつもりはない。

エドガーも静かに首を振った。

「僕も明日は準備がある。始業式前に片づけることが残っている」

「公務か?」

「それもある」

王子という立場は、こういう時にやはり忙しい。

セレナは少し考えてから言った。

「軽い依頼ならいいわ。前回みたいなことがなければ、だけれど」

「俺もそのつもりだ。森の手前で済む依頼にする」

ナディアがこちらを見る。

「私も参加してよろしいですか?」

「もちろん」

俺が答えると、ナディアは少し嬉しそうに微笑んだ。

こうして、春休み最終日は、リオン、セレナ、ガイル、ナディアの四人で森へ行くことになった。

翌朝。

俺たちは冒険者ギルドで、王都西南の森の小型魔物討伐依頼を受けた。

受付では、前回の件を覚えていた職員から一言だけ注意を受けた。

「異常があれば、深追いせず戻って報告してください」

「分かりました」

俺は頷く。

前回の黒い魔石片の件は、まだ調査中らしい。

詳しいことは分からない。

だが、今日の目的はそれではない。

春休み最後の気分転換。

軽い依頼をこなして、明日からの三年生に備える。

それで十分だった。

乗合馬車で森の近くまで向かい、俺たちはいつものように装備を確認した。

春はさらに近づいていた。

森の色が、前よりも少し明るい。

枝先には小さな芽があり、足元の草も冬の硬さを失い始めている。

風も冷たすぎない。

俺は森の入口で足を止めた。

「今日は奥へ行かない。依頼対象だけを片づける」

「分かった」

ガイルが短く答える。

「前回みたいなことがあれば、すぐ戻る」

セレナも頷いた。

「ええ。その方がいいわ」

「はい」

ナディアも静かに返事をする。

前回より、少しだけ森の中での立ち方が自然になっていた。

足元への意識。

周囲を見る目。

剣の握り方。

まだ森での活動に慣れているとは言えない。

でも、初めて森に入った時の硬さは少し抜けている。

俺たちは森の手前を進んだ。

しばらくすると、小型魔物の気配があった。

数は三体。

依頼書の内容と一致している。

ガイルが前へ出る。

セレナが横から魔法を構える。

ナディアは少し後ろで、抜けてくる魔物を見る位置に入った。

「行くぞ」

ガイルが踏み込む。

一体目を正面から受け、押し返す。

セレナが風で二体目の動きを止める。

俺は三体目の逃げ道を塞ぐように動いた。

ナディアは、前回より一歩早く反応した。

ガイルの横をすり抜けようとした小型魔物に、無理なく牽制を入れる。

深追いはしない。

でも、十分だった。

魔物の動きが止まり、そこへセレナの魔法が入る。

最後はガイルが一体を斬り倒し、討伐はあっさり終わった。

静かになる。

俺は周囲を確認した。

異常はない。

「終わったな」

ガイルが剣を下ろす。

「ああ。依頼達成だ」

セレナがナディアを見る。

「前回より、動きが自然だったわね」

「少しだけ、森の空気に慣れた気がします」

ナディアはそう言って、少し照れたように笑った。

ガイルも短く言う。

「問題ない」

「ありがとうございます」

ナディアの表情が、また少し明るくなる。

俺は討伐証明を処理し、依頼内容を確認した。

今回は、本当にこれで終わりだった。

帰りの馬車の中、俺たちは明日の話をしていた。

「いよいよ始業式ね」

セレナが窓の外を見ながら言った。

「ああ。三年生か」

俺はまだ、少し不思議な感じがしていた。

一年生として入学し、飛び級して、次は三年生。

頭では分かっている。

でも、実感はまだ少し遅れてやってくる。

ガイルは腕を組んでいる。

「上の学年とやれるのは楽しみだ」

「あなたは実技のことばかりね」

セレナが呆れたように言う。

「大事だ」

「それは否定しないわ」

ナディアが小さく笑った。

「でも、少し分かります。緊張もありますが、楽しみでもあります」

「そうだな」

俺も頷く。

三年の授業。

年上の生徒たち。

今までより難しい課題。

飛び級組を見る周囲の目。

簡単ではないだろう。

寮へ戻る頃には、夕方になっていた。

春休み最後の夕方。

校舎の窓に、淡い光が反射している。

明日から新しい学年が始まる。