軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第191話 ギルドへの報告

森を出た後、俺たちは王都へ戻る乗合馬車に乗った。

行きと違って、車内での会話は少なかった。

小型魔物の討伐は終わった。

ナディアの初めての冒険者活動も、十分すぎるほど落ち着いていた。

だが、依頼書にない中型魔物。

しかも、すでに死んでいるはずの魔物が動いていた。

俺は布に包んだ黒い魔石片を、鞄の中で軽く押さえた。

胸に埋め込まれていた魔石。

あれは、自然に起きたものではない。

誰かが、意図的にやった。

そう考えるしかなかった。

セレナも、いつもより少し表情が硬い。

ガイルは黙って外を見ている。

ナディアも落ち着いてはいたが、初めての依頼であんなものを見たのだ。

何も感じていないはずがない。

気分転換のつもりだった。

けれど、今日はそれだけでは終わらなかった。

王都に着くと、俺たちはそのまま冒険者ギルドへ向かった。

夕方のギルドは、朝とはまた違う騒がしさがあった。

依頼を終えて戻ってきた冒険者たち。

報酬を受け取る者。

食堂へ向かう者。

酒を飲みながら笑っている者。

その中を抜け、俺たちは受付へ向かった。

「依頼の報告をお願いします」

俺が言うと、受付の女性が依頼書を確認する。

「王都西南の森、小型魔物の群れの確認と討伐ですね」

「はい。対象の小型魔物は討伐しました。証明部位もあります」

俺たちは討伐証明を提出した。

ここまでは、通常の依頼報告だ。

受付の女性も、慣れた手つきで確認していく。

「確認しました。依頼達成ですね」

そこで俺は、一度息を吸った。

「それと、依頼書にない中型魔物が出ました」

受付の女性の手が止まる。

「中型魔物ですか?」

「はい。森の手前です。小型魔物の討伐後に遭遇しました」

セレナが補足する。

「動きが明らかに不自然でした。痛みに反応せず、襲い掛かってきました」

ガイルも短く言う。

「手応えも普通じゃなかった」

受付の女性の表情が変わった。

俺は鞄から布包みを取り出し、受付台の上に置く。

「その中型魔物の胸に、これが埋め込まれていました」

布を開く。

黒い魔石片が姿を見せた。

受付の女性は、それを見た瞬間、すぐに奥へ視線を向けた。

「詳しい者を呼びます。少しお待ちください」

そう言って、彼女は奥の職員に声をかけた。

しばらくして、ギルド職員の男性が出てきた。

年は四十代くらいだろうか。

落ち着いた雰囲気だが、目は鋭い。

「報告を聞きますのでこちらへ」

俺たちは受付横の小さな相談席へ案内された。

職員は黒い魔石片を布ごと机に置き、俺たちを見る。

「順に確認します。依頼対象は小型魔物でしたね」

「はい」

「それは討伐済み、ということですね」

「しました」

「その後、依頼書にない中型魔物に遭遇したということですね」

「はい。森の手前です」

「倒したのは君たちですか?」

「はい」

職員は頷き、黒い魔石片へ目を落とす。

「この欠片は、その中型魔物の体内から出たものということですね」

「胸に埋め込まれていました」

「胸、ですか」

職員の目が細くなる。

俺は、見たことをできるだけ整理して話した。

中型魔物の動きが鈍かったこと。

目に生気がなかったこと。

古い傷が多かったこと。

痛みに反応しなかったこと。

胸を破壊した瞬間に動きを止めたこと。

そして、胸部からこの黒い魔石片が出てきたこと。

綻びの目で見えた情報を、そのまま全部言うわけにはいかない。

だが、実際に起きたことだけでも十分に異常だった。

セレナが静かに続ける。

「魔法で足元を乱しても、反応が鈍すぎました。生きている魔物の動きには見えませんでした」

ナディアも言う。

「胸部を破壊した直後、急に力が抜けるように倒れました。まるで、支えていたものが切れたようでした」

ガイルは少しだけ考えてから言った。

「斬った感触も、普通の魔物とは違った。肉を斬ったというより、何か硬いものを壊した感じがあった」

職員は全員の話を聞き終えると、しばらく黙った。

それから、黒い魔石片を慎重に布で包み直す。

「この魔石の件は、ギルド側でも調査したいと思います」

「お願いします」

「依頼書にない中型魔物が森の手前に出たことだけでも問題です。

その個体にこのようなものが埋め込まれていたとなれば、通常の報告では済みません」

職員は受付の女性へ何か指示を出した。

彼女がすぐに記録用の紙を持ってくる。

「君たちの判断は正しかったです。奥へ追わず、証拠を持って戻ったのは良かったです」

その言葉で、少しだけ肩の力が抜けた。

ガイルが不満だったわけではない。

だが、俺の判断が本当に正しかったのか、少しだけ引っかかっていた。

ここでギルド側にそう言われたことで、ようやく一区切りついた気がした。

「中型魔物の討伐については、追加報酬の対象です」

職員が続けた。

「それと、この魔石片の提出も調査協力として扱います。大きな額ではないが、報酬に加算しておきます」

「分かりました」

「今後、同じような報告があれば、こちらからも情報を出します。

君たちも、もしまた森に入るなら無理はしないでください」

「はい」

俺たちは頷いた。

報告は終わった。

けれど、黒い魔石片のことが消えたわけではない。

ただ、今はギルドに渡すしかない。

俺たちだけで抱える話ではなかった。

報告処理が終わると、受付で報酬を受け取った。

小型魔物討伐分。

依頼書にない中型魔物の討伐分。

さらに、魔石片の調査協力分。

思っていたよりも、袋は少し重かった。

「中型魔物の分が入ると、やっぱり違うな」

俺が呟くと、ガイルが報酬袋を見て短く言った。

「今日は食べて帰るか」

セレナが横を見る。

「朝もギルドで食べたのに?」

「たくさん動いたからな」

即答だった。

俺は少し笑った。

確かに、今日は朝から森へ入り、戦闘もあった。

しかも最後は依頼書にない中型魔物まで出た。

勉強疲れを抜くために来たはずなのに、別の疲れが増えた気もする。

それでも、図書室で机に向かい続けている時とは違う疲れだった。

ナディアがギルドの食堂の方を見た。

朝よりも人が増え、食堂はかなり賑わっている。

湯気の立つ料理を運ぶ店員。

大きな皿を囲む冒険者たち。

焼けた肉と香辛料の匂い。

ナディアの目が、少しだけ楽しそうに動いた。

「せっかくだし、食べていくか」

俺が言うと、セレナも小さく頷いた。

「そうね。今日はもう勉強する気分でもないわ」

「同感だ」

ガイルが言う。

こうして、俺たちはギルド内の食堂で夕食を取ることにした。

夜のギルド食堂は、朝よりもずっと賑やかだった。

大きな鉄鍋では、肉と豆のシチューがぐつぐつと煮えている。

厚切りの肉は鉄板の上で焼かれ、脂が落ちるたびに香ばしい匂いが広がった。

皮がぱりっと焼けた腸詰め。

粗く切られた根菜のスープ。

焼きたての黒パン。

どの皿も、学院の食堂のように上品ではない。

だが、湯気と匂いだけで腹が減る。

俺たちは空いている席に座り、料理を頼んだ。

やがて運ばれてきた皿を見て、ガイルの表情が少しだけ満足そうになる。

「多いな」

「嬉しそうに言うのね」

セレナが言うと、ガイルは短く頷いた。

「ああ」

皿の上には、厚く切られた焼き肉が乗っていた。

表面は香ばしく焼かれ、中から肉汁がにじんでいる。

横には豆と根菜の煮込み。

黒パンは少し硬いが、シチューに浸せばちょうどいい。

俺も一口食べた。

塩気が強い。

香辛料も学院の食堂よりずっと効いている。

でも、森を歩いた後には、それがうまかった。

「朝も思いましたが、ギルドの食事は力が出そうですね」

ナディアがシチューを口にして言った。

「実際、出ると思う」

俺が答える。

ガイルは何も言わず、黙々と肉を食べていた。

セレナは最初、少し慎重に食べていたが、すぐに表情を少し緩めた。

「味は濃いけれど、悪くないわね」

「森の後だとちょうどいいな」

「ええ。それは分かるわ」

ナディアも、朝より少し慣れた様子で食事を楽しんでいた。

冒険者たちの笑い声。

皿が置かれる音。

煮込みの湯気。

焼けた肉の匂い。

図書室で参考書に囲まれていた時間とは、まるで違う。

同じ春休みなのに、まったく別の日のようだった。

食事をしながら、俺はふと今日一日のことを思い返した。

こうして外へ出て、体を動かし、仲間と食事をする。

それもまた、必要な時間なのだと思う。

「また、軽い依頼なら受けてもいいかもしれないな」

俺が言うと、セレナが頷いた。

「ええ。今日みたいなことがなければ、良い気分転換になると思うわ」

ナディアも静かに言った。

「私も、また参加できたら嬉しいです」

ガイルは肉を食べ終えてから、短く言う。

「次も行く」

その言葉に、少しだけ笑いが起きた。

ギルドの食堂は、夜になってさらに賑やかになっていく。

焼けた肉の匂いと、冒険者たちの笑い声。

春休みの勉強疲れは、少しだけ薄れていた。