軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第179話 応用課題と実技試験

三学期期末試験二日目。

昨日の筆記試験を終えたことで、学院の空気は少しだけ軽くなっていた。

だが、それはあくまで少しだけだ。

今日は午前に応用課題。

午後には実技試験がある。

教室に入ると、すでに何人かが席についていた。

セレナは自分の席で資料を確認している。

ナディアはガイルの隣に立ち、何かを小声で説明していた。

「そこは、昨日と同じ見方で大丈夫です」

「ああ。まず、何を求められているかを見るんだったな」

「はい」

ナディアが柔らかく頷く。

ガイルはいつになく真面目な顔で資料に目を落としていた。

昨日までの勉強会が、ちゃんと効いているらしい。

少し離れた席では、ヴィクトルが資料を閉じて伸びをしていた。

「もうここまで来たら、あとは出されたものに答えるだけだな」

「ヴィクトルにしては落ち着いてるな」

俺が声をかけると、ヴィクトルは肩をすくめた。

「焦って点が増えるなら焦るけど。残念ながら、そういう仕組みじゃないだろ」

「それはそうだな」

窓際では、エドガーが静かに座っていた。

机の上に資料は出していない。

こちらの視線に気づくと、エドガーは短く言った。

「今日は応用と実技だ。最後まで崩れないことだな」

「ああ」

相変わらず言葉は少ない。

ただ、こういう時の一言は妙に重い。

セレナがそこで顔を上げた。

「おはよう、リオン」

「おはよう」

セレナは挨拶だけすると、自分の資料に視線を戻した。

しばらくして、ローヴェン先生が教室に入ってきた。

「これより応用課題を行う」

教室が静まる。

「今回の課題は、領地運営に関するものだ。知識を並べるだけでは足りない。状況を読み、どの順で手を打つべきかを考えろ」

そう言って、課題用紙が配られていく。

俺は紙を受け取り、内容に目を通した。

試験の内容を簡単に説明すると、

話は財政難に陥った地方領地。

税収は落ち込み、支出は増えている。

一部の村では人手が足りず、領内の産業も弱い。

その状況で、領主としてどう立て直すか。

細かい条件はいくつもある。

だが、問題の中心は分かりやすかった。

領地が痩せている。

その時、何から手をつけるか。

俺は少しだけ息を吐いた。

これは、かなり現実に近い。

ハル領で見てきたこと。

そして、グレイヴ領の歪み。

頭に浮かぶものはいくつもあった。

だが、これは試験だ。

ハル領でやったことをそのまま書けばいいわけではない。

どの領地にも当てはまる形に直す必要がある。

まずは、現状を把握する。

税収。

支出。

備蓄。

未払い。

どこで金が漏れているか。

次に、短期で止血する。

無駄な支出を止め、必要なところにだけ金を回す。

だが、それだけでは領地は良くならない。

中期では、収入を生む場所を作る。

領内で仕事を増やし、人が動き、物が動き、金が回る仕組みを作る。

そして長期では、領地そのものを痩せさせない。

道。

水。

作業場。

人材。

子どもたちが育つ場所。

民を絞れば、一時的に金は入るかもしれない。

でも、それは領地の体力を削るだけだ。

領主館だけが豊かでも、村が痩せれば領地は持たない。

俺は、そこを軸にして答案を組み立てた。

派手な解決策はいらない。

だが、順番を間違えれば、領地は簡単に崩れる。

俺は最後まで答案を書き切り、ペンを置いた。

応用課題が終わると、教室の空気が少し緩んだ。

ただ、午後には実技が残っている。

昼休みの間も、完全に気を抜いている生徒は少なかった。

セレナが俺の隣に来る。

「応用課題、どうだった?」

「かなり現実的だった」

「あなた向きだったということ?」

「たぶん」

「それなら大丈夫そうね」

「そっちは?」

「悪くないわ」

セレナは短く答えた。

その顔には、いつもの自信があった。

ガイルは少し離れたところで、ナディアに何か確認している。

ヴィクトルは昼食を取りながらも、午後の実技の順番を気にしているようだった。

エドガーは相変わらず静かだ。

午後。

俺たちは訓練場へ移動した。

訓練場の空気は、教室とはまるで違った。

冬の冷たい風が抜ける。

生徒たちはそれぞれ準備をしながらも、中央に立つ人物へ視線を向けていた。

騎士団長だ。

二学期の実技試験でも、あの人はここにいた。

そして、生徒同士では実力が測れない者を直接見た。

今回も、そうなる可能性がある。

ローヴェン先生が前に立つ。

「これより実技試験を行う」

生徒たちが静まる。

「これまで同様、生徒同士で模擬戦をやってもらうが、勝敗だけを見るわけではない。

判断、間合い、武器、魔法の扱い、危険への対応。すべて評価対象だ」

そこで、ローヴェン先生は騎士団長の方を見た。

「なお、生徒同士では測れないと判断した者は、騎士団長が直接見る」

訓練場が少しざわついた。

前回を知っている生徒たちは、その意味を理解している。

騎士団長は腕を組んだまま、訓練場全体を見渡していた。

「さて、今回はどうなるかな?」

低い声だった。

実技試験が始まった。

まずは、生徒同士の一対一。

何組かの試合が行われる。

勝つ者。

負ける者。

粘る者。

焦って崩れる者。

同じSクラスでも、実技になると差ははっきり出る。

ローヴェン先生と騎士団長は、淡々とそれを見ていた。

やがて、エドガーの番が来た。

エドガーは静かに前へ出る。

相手の生徒は、明らかに緊張していた。

無理もない。

エドガー・アルスレイン。

第二王子であり、一年Sクラスでも常に上位にいる男だ。

「始め」

合図と同時に、相手が動いた。

エドガーは半歩だけ位置をずらし、相手の初動を見る。

次の瞬間、短く魔法を放つ。

派手な音はない。

だが、相手の足が止まった。

その一瞬で、エドガーは勝負を決めた。

相手はほとんど何もできなかった。

騎士団長が小さく言う。

「相変わらず、無駄がない」

エドガーは表情を変えずに礼をし、下がった。

次にガイル。

ガイルが前に出ると、相手の生徒は一瞬だけ息を飲んだ。

体格。

圧。

それだけで、相手を押すものがある。

だが、今日のガイルは以前とは違った。

合図と同時に前へ出る。

強い。

それは変わらない。

だが、力任せに潰しに行かない。

相手の動きを見て、必要なところだけを押さえる。

魔法も大きく広げない。

剣の間合いに入った瞬間、相手が動けない形で止めた。

勝負は早かった。

けれど、乱暴ではなかった。

騎士団長が目を細める。

「力任せではなくなっているな」

「冒険者として実戦経験を積んでいます」

ローヴェン先生が言う。

「複数戦と火力調整の経験が、良い方向に出ています」

ガイルは勝っても大きく喜ばず、静かに戻ってきた。

そして、セレナの番が来た。

セレナが訓練場の中央へ向かうと、周囲の視線が集まった。

セレナ・ヴァレスト。

公爵家の令嬢。

魔法の才に優れ、筆記も理論も強い。

だが、以前のセレナは、どちらかといえば優等生の魔法使いだった。

正確で、威力があり、綺麗な魔法。

それが強みだった。

相手の生徒も、それを警戒していたのだろう。

距離を取り、セレナの大きな魔法を避ける構えを見せた。

「始め」

合図が出る。

セレナは、すぐに大きな魔法を撃たなかった。

まず、相手の足元を見る。

次に、体の向き。

どちらへ動くつもりか。

短い詠唱。

土魔法が、相手の踏み出す先をわずかに乱した。

大きく崩すほどではない。

だが、動き出しの一歩が狂う。

相手が体勢を直そうとした瞬間、セレナは水魔法を低く走らせた。

足元が滑る。

相手の視線が一瞬下へ落ちた。

その時にはもう、セレナの次の魔法が入っていた。

必要最低限の風で、相手の姿勢を止める。

相手は倒れてはいない。

傷ついてもいない。

だが、次に動けば確実に崩される位置に追い込まれていた。

勝負ありだった。

訓練場がざわつく。

「セレナ様、前と違う……」

「大きな魔法を撃ってないのに、相手が動けてない」

「何だ、今の」

セレナは軽く息を整え、相手に礼をして戻った。

騎士団長の目が変わっていた。

「なるほど。これは確かに、生徒同士では測りにくい」

ローヴェン先生が頷く。

「魔法の威力ではなく、使う順番と場所が変わりました」

騎士団長は短く息を吐いた。

「良い変化だ」

セレナは戻ってくる途中、俺の方を少しだけ見た。

口には出さなかったが、どこか誇らしげだった。

その顔を見て、俺は少しだけ笑った。

次は俺の番だった。

相手の生徒は、かなり緊張していた。

俺が前に出ると、表情が硬くなる。

それは少し申し訳ない気もした。

ただ、試験である以上、手を抜くわけにはいかない。

もちろん、危険な魔法を使うつもりはない。

土を弾丸にする魔法も使わない。

今日やるべきことは、相手を傷つけず、安全に制圧することだ。

「始め」

合図と同時に、俺は相手を見る。

《緊張:強》

《重心:右前》

《初動:直進》

《警戒:魔法》

綻びの目が、相手の状態を拾う。

相手は魔法を警戒している。

なら、あえて大きな魔法は使わない。

俺は小さく水を走らせた。

足元を濡らすほどではない。

ただ、踏み込みの感覚を少しだけずらす。

同時に、風を横から当てる。

相手の肩がわずかに流れた。

その瞬間、俺は一歩詰める。

剣を抜くほどではない。

手首の位置を押さえ、相手の体勢を止める。

それで終わりだった。

相手は目を見開いたまま、動けない。

「……参りました」

小さくそう言った。

俺は手を離し、軽く頭を下げる。

騎士団長がこちらを見ていた。

「圧倒的だな」

ローヴェン先生が言う。

「相手も同じSクラスなので決して弱いわけではないのですが」

「なら、なおさら直接見る必要がある」

その言葉で、周囲の空気が少し変わった。

何組かの試合が終わったあと、騎士団長が訓練場の中央へ歩き出した。

その瞬間、ざわつきが静まる。

この場にいる生徒たちはすぐに意味を理解したのだろう。

生徒同士では測れない者を、騎士団長が直接見る。

騎士団長は低い声で名を呼んだ。

「エドガー・アルスレイン」

エドガーが静かに顔を上げる。

「ガイル・ベイルン」

ガイルが前を見る。

「セレナ・ヴァレスト」

その名が呼ばれた瞬間、周囲がわずかにざわついた。

二学期には、そこにセレナはいなかった。

だが、今回は違う。

「リオン・ハル」

最後に俺の名が呼ばれた。

騎士団長は、四人を順に見た。

「お前たちは、私が見る」

訓練場の空気が変わった。

俺は横に立つセレナを見る。

緊張はしている。

だが、怯えてはいない。

むしろ、目に力があった。

セレナはもう、ただ魔法が得意な公爵令嬢ではない。

森で実戦を積み、冒険者として依頼をこなしてきた優秀な魔法使いだ。

騎士団長が訓練場の中央に立つ。

「順に来い」

生徒同士の試合は、ここで終わった。

三学期期末試験の実技は、ここから本当の意味で始まる。