軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第178話 三学期期末試験初日

三学期期末試験の初日。

王立学院の朝は、いつもより少し静かだった。

廊下を歩く生徒たちの間にも、普段のような軽い雑談は少ない。。

最後まで教科書などを確認している者。

何も言わずに教室へ向かう者。

学期末の試験前らしい空気だった。

今日行われるのは筆記試験。

明日は午前に応用課題、午後に実技がある。

飛び級を狙うなら、全ての試験で八十点以上を取らなければならない。

どれか一つでも落とせば駄目だ。

俺は教室へ向かいながら、小さく息を吐いた。

昨日の夜、福嶋亮太の本は開かなかった。

試験直前にようやく集中して勉強に没頭できた。

『魔法理論』の内容が気にならないと言えば噓になる。

俺は頭を切り替えるように、教室の扉を開けた。

教室には、すでに何人かが席についていた。

いつものSクラスだが、今日は少し空気が違う。

セレナは自分の席で、静かにノートを閉じたところだった。

俺と目が合うと、彼女は少しだけこちらを見た。

「おはよう、リオン」

「おはよう」

「今日は大丈夫そうね」

「少しはね」

そう答えると、セレナは少し目を細めた。

「ならいいわ。今日は余計なことを考えないことね」

「分かってる」

「本当に?」

「本当に」

俺がそう言うと、セレナはまだ少し疑わしそうにしながらも、それ以上は言わなかった。

俺は自分の席に座り、筆記用具を机に出す。

教科書や資料はもう開かない。

ここまで来たら、最後に詰め込むより、頭を落ち着かせる方がいい。

そう思っていたところで、ローヴェン先生が教室に入ってきた。

教室の空気が、一段静かになる。

ローヴェン先生は教壇に立ち、教室を見回した。

「これより、三学期期末試験の筆記を行う」

いつも通り、無駄のない声だった。

「本日は筆記試験。明日は午前に応用課題、午後に実技を行う。

一年生最後の試験だ。悔いのないように臨め」

「当たり前だが不正は即失格。あと、時間配分を間違えるな。」

ローヴェン先生はそこで一度言葉を切った。

「では、始める」

問題用紙と答案用紙が配られていく。

紙が机に置かれる音だけが、教室の中に小さく響いた。

試験開始の合図と同時に、俺はまず問題用紙全体に目を通した。

細かいところへ入る前に、全体を見る。

どこに時間をかけるか。

どこで確実に取るか。

どこで迷いそうか。

内容は、やはりSクラスの試験だった。

二学期期末試験もそうだったが、単純な暗記だけでは終わらない。

知識をそのまま書くだけではなく、どう使うかを見られている。

だが、想定外ではない。

昨日までに確認してきた範囲だ。

俺は一問目から順に解き始めた。

最初のうちは、手が少し硬かった。

福嶋亮太の本のことが、頭の奥でちらつく。

特に魔法理論に関わる問題を見た時は、まずかった。

あの本に書かれていた考え方が、自然に浮かんでくる。

属性ではなく、現象から考える。

それ自体は間違っていない。

むしろ俺にとっては、しっくりくる考え方だ。

だが、ここは試験だ。

今、求められているのは、学院で教わった範囲の中での答えだ。

「ふぅ…」

俺はペンを止めた。

知っていることを全部書けばいいわけじゃない。

深く知っていることと、試験で点を取ることは別だ。

そう考えて、書きかけた一文を少し消した。

学院の授業で扱った表現に戻す。

ローヴェン先生たちが見たいのは、今の俺がどこまで体系的に理解しているかだ。

奇抜な答えではない。

俺はもう一度息を整え、答案を書き進めた。

一度立て直すと、少しずつ集中が戻ってきた。

問題文を読む。

何を問われているかを見る。

必要な材料を拾う。

余計なことを書かずに答える。

やることは単純だ。

ただ、その単純なことを最後まで崩さずに続けるのが難しい。

途中で一度、福嶋亮太の本がまた頭をよぎった。

亜空間収納。

もしあれを使えたら。

そんな考えが一瞬だけ浮かぶ。

すぐに追い払った。

今考えることじゃない。

試験中に余計なことを考えている時点で、かなりまずい。

俺は答案用紙へ視線を戻した。

今は、目の前の問題だけでいい。

そう自分に言い聞かせながら、最後まで解き進めた。

「そこまで」

ローヴェン先生の声が教室に響いた。

ペンの音が止まる。

答案用紙が回収されていく。

教室の空気が、わずかに緩んだ。

俺も手を離し、小さく息を吐いた。

終わった。

少なくとも、筆記は終わった。

答案がローヴェン先生の手に渡る。

もう、今さら考えても仕方がない。

席を立つ準備をしていると、セレナがこちらへ来た。

「どうだった?」

「今回は難しかったけど、今できることはやったよ」

そう答えると、セレナはすぐに眉を上げた。

「ならいいわ」

セレナは少しだけ安心したように息を吐いた。

「途中で余計なことを考えなかった?」

「少し考えた」

「考えたのね」

「でも、戻した」

「なら、よしとするわ」

採点された気分だ。

ただ、実際にその通りだった。

戻せた。

それだけでも、今日は十分だと思う。

教室を出る頃には、廊下にまた生徒たちの声が戻り始めていた。

筆記が終わった解放感。

明日への不安。

できた、できなかったという短いやり取り。

それぞれの声が重なっている。

セレナは隣を歩きながら言った。

「今日は早く休みなさい」

「分かってる」

「昨日の本も開かないこと」

「分かってる」

「本当に?」

「本当に。今日は開かない」

セレナは俺をじっと見た。

「約束よ」

「ああ」

今度は迷わず頷いた。

筆記は終わった。

だが、試験はまだ終わっていない。

明日は午前に応用課題。

午後に実技。

紙の上だけでは済まない試験が待っている。