軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第148話 2学期期末試験結果

試験から数日。

今日は、2学期期末試験の結果が発表される日だった。

朝の学院は、いつもより少しだけ落ち着かない空気に包まれていた。

もう学期末だ。通常授業もだいぶ締めに入っているし、冬季休暇の予定を話している生徒も多い。廊下のあちこちで、帰省だの買い出しだの、のんきな声が聞こえる。

けれど、その空気の中に、別の熱も混じっていた。

期末試験の結果発表。

特に今年の1年は、騎士団長が実技査定に関わったことまで噂になっている。

上級生まで興味を持っているらしく、朝から掲示板前には人が集まり始めていると聞いた。

俺は教室に入って、自分の席に鞄を置いた。

窓の外は冬の薄い日差しだ。空気は澄んでいて、冷たい。

なのに、胸の内側だけが妙に熱かった。

筆記、応用課題、実技。

やれることは全部やった。

それはそう思う。

けれど、それと結果は別だ。

特に今回は、実技の最後で騎士団長に一本取った余韻がまだ残っているせいで、余計に落ち着かない。

あれが強烈だったぶん、逆に数字でどう返ってくるのかが怖い。

「珍しく静かね」

席についたばかりのセレナが、ちらりと俺を見た。

「そっちもだろ」

「私はいつも通りよ」

「それを言う時点で、あんまりいつも通りじゃない」

そう返すと、セレナは少しだけ目を細めた。

「リオンさんも落ち着かないんですね」

ナディアが柔らかく笑う。

「そりゃな。今さら結果は変わらないって分かってても、発表前は落ち着かないだろ」

「分かります」

「僕もだよ」

そう言って席についたエドガーは、相変わらず表情こそ静かだったが、声は少しだけ硬かった。

ガイルは窓際の自分の席で腕を組んだまま黙っている。

ヴィクトルだけは、わざとらしく肩をすくめた。

「まあ、こういうのは待ってる時間が一番長いんだよね」

「余裕そうだな」

「見せかけだよ」

それは本音だろう。こいつはこういう時、平然として見せるのがうまい。

少しして、教室の前方でざわめきが起きた。

掲示の準備ができたらしい。

「行くか」

誰が言うでもなく、6人で立ち上がった。

掲示板の前に向かって進むと視線が集まる。

やっぱり見られている。

けれど今は、それを気にしている余裕はなかった。

掲示板の前に立つ。

木枠の中に貼られた紙には、上位10人の名前と総合点が、はっきりと記されていた。

俺は上から順に目を走らせた。

2学期期末試験 総合順位

1位 リオン・ハル 297

2位 エドガー・アルスレイン 288

2位 セレナ・ヴァレスト 288

4位 ナディア・セルヴァン 279

5位 ガイル・ベイルン 272

6位 ヴィクトル・ローデン 267

7位 レオス・バルトン 205

8位 ミラ・フェン 204

9位 クルト・ベルガ 200

10位 サラ・ノイン 196

掲示板の前が、一拍遅れてどよめいた。

「297……?」

「高すぎるだろ」

「2位でも288かよ」

「7位で205って……」

「205なら例年トップ争いだぞ」

「今年のSクラス、どうなってるんだ」

そんな声が、あちこちから聞こえる。

俺は掲示板を見たまま動けなかった。

297。

自分で見ても、少し笑ってしまうくらいの数字だった。

高いとは思っていた。実技と応用課題はかなり手応えがあったし、筆記も崩してはいないつもりだった。

でも、ここまで出るとは正直思っていなかった。

「……やったじゃない」

セレナが小さく言った。

「そっちも同点2位だろ」

俺がそう返すと、セレナは掲示板から目を離さずに言う。

「ええ。でも、今回は上が高かったわ」

その声は悔しさを隠していない。

隣ではエドガーが静かに自分の点を見ていた。

「288か」

短い一言。

その言い方に、落胆はない。けれど、満足もしていない。

ガイルは自分の272を見たあと、すぐに上を見た。たぶん実技でかなり取れたと分かっているからこそ、他の数字もある程度読めているんだろう。

ナディアはほっとしたように胸を撫で下ろしていた。

「よかった……」

「279でその反応かよ」

ヴィクトルが苦笑する。

「十分すごいだろ」

「そうですけど、皆さんが高すぎるんです」

「それは確かに」

ヴィクトル自身も267を見て肩をすくめた。

「7位が205って、もう感覚がおかしくなるな」

「例年ならトップ争い、か」

俺が呟くと、エドガーがわずかに頷いた。

「今年は違う、ということだな」

その言い方は静かだったが、そこにある競争心は全然静かじゃなかった。

掲示板の前のざわめきはしばらく収まらなかった。

1位の297。

2位が2人いて288。

どこを取っても、目立たないわけがない。

俺たちはそれ以上掲示板の前にとどまらず、その場を後にした

教室内ではもう冬季休暇の予定を話している声がする。

「俺は実家帰るけど、お前は?」

「南側の市に買い物行く予定なんだ」

「成績次第で父上の機嫌が決まるんだよ……」

そんな声が、あちこちで混ざり合っていた。

窓から差し込む光は白っぽくて、冬らしく薄い。

年の終わりが近い学院特有の、少し浮ついた、でもどこか静かな空気だ。

その中で、俺たち6人の周囲だけはまだ熱かった。

掲示板を見た他の生徒たちの視線は、さっきよりさらにはっきりしている。

ただの上位者を見る目じゃない。

何か別の競技の本戦に進む人間を見るような、そんな目だ。

教室へ戻ると、ほどなくしてローヴェン先生が入ってきた。

手には結果表の束がある。

さっき掲示板で総合順位は見た。けれど、本番はここからだ。

「順に返す」

ぶっきらぼうな声で、結果表が配られていく。

俺にも、結果表が配られた。

視線を落とす。

リオン・ハル

筆記 97

応用課題 100

実技 100

合計 297

思わず、息を止めた。

応用100。

実技100。

そこまではまあ、手応えからするとあり得るとは思っていた。

でもそれが並ぶと、さすがに見た目の圧がすごい。

周囲でも、あちこちから小さな息を呑む音が聞こえていた。

「喜ぶのも落ち込むのも勝手だ」

ローヴェン先生が教壇の前で言う。

「だがこの結果を三学期にどう活かすかを皆には考えてもらい、冬休みを過ごしてほしい」

それだけ言って、先生はそれ以上語らなかった。

けれど十分だった。

結果が良かったから浮かれる、悪かったから落ち込む、で終わらせない。

三学期もやれるかどうかが本当の勝負だ。

そのことを、短く、強く言われた。

昼休み。

俺たちはいつものように、食堂の一角に集まっていた。

さっきまでは結果表を見ながらも周囲の目があった。ここからは、ようやく6人だけで話せる。

「じゃあ、見せ合うか」

ヴィクトルが言う。

「改めてやると、ちょっと嫌な儀式ね」

セレナが呆れ半分に言った。

「でも気になるだろ」

「まあ、それはそうね」

最初にヴィクトルが自分の結果表を机の上に出した。

ヴィクトル・ローデン

筆記 90

応用課題 94

実技 83

合計 267

「やっぱり実技が弱いな」

ヴィクトルが苦笑する。

「でも応用94は強いわ」

セレナがすぐに言った。

「そこは自信持っていいと思うぞ」

俺も頷く。

「ありがたいけど、上を見るとちょっと霞むな」

「その言い方が嫌味だな」

ガイルがぼそりと言うと、ヴィクトルは肩をすくめた。

「おまえが言うか?」

次にガイルが結果表を出した。

ガイル・ベイルン

筆記 86

応用課題 88

実技 98

合計 272

「実技98か」

ヴィクトルが口笛を吹く真似をした。

「怖いな」

「筆記と応用が低い。ナディアのサポートが無かったらどうなっていたことか」

ガイルは自分でそう言った。

淡々としているが、気にしていないわけがない。

「でも、そこが上がったらもっと厄介だろ」

俺が言うと、ガイルはわずかに目を上げた。

「そうか?」

「そうよ」

セレナが即答する。

「今でも十分厄介なのに、読む力までついたら、たぶん一番面倒だわ」

「試験に向けてとても頑張っていたので、恥ずかしがる必要はありませんよ」

ナディアが優しくフォローする

その言葉に、ガイルは少しだけ口元を動かした。

笑ったのかどうか分からないくらい、小さい変化だった。

続いてナディアも結果表を出す。

ナディア・セルヴァン

筆記 93

応用課題 94

実技 92

合計 279

「本当に全部安定してるな」

俺がそう言うと、ナディアは少し困ったように笑う。

「私は大崩れしないようにするので精一杯です」

「それが一番難しいのよ」

セレナが言った。

「3つともちゃんと取れるのは強いわ」

そしてセレナ自身も、結果表を机に置いた。

セレナ・ヴァレスト

筆記 98

応用課題 97

実技 93

合計 288

「やっぱり崩れないな」

ヴィクトルが言う。

「その言い方だと、安定しか取り柄がないみたいじゃない」

「いや、かなり褒めてるよ」

確かにそうだ。

98、97、93。

どれも高い。

しかも全部が上位級だ。

きれいに強い。

「今回は私と同点ね」

セレナが、隣のエドガーを見た。

エドガーも無言で結果表を出した。

エドガー・アルスレイン

筆記 98

応用課題 95

実技 95

合計 288

「本当に並んでる」

ナディアが小さく言う。

エドガーは静かに頷いた。

「そうだな」

「今回は私のほうが応用で上、あなたのほうが実技で上、ってところかしら」

「そんな感じだろうね」

短いやり取り。

けれど、その間に流れる空気はぬるくない。

2人とも冷静だ。だが、その冷静さの中に、次は負けないという熱がある。

そして最後に、俺も自分の結果表を出した。

リオン・ハル

筆記 97

応用課題 100

実技 100

合計 297

一瞬、沈黙。

そのあと、ヴィクトルが真っ先に突っ込んだ。

「応用100、実技100はやりすぎだろ」

「俺も少しそう思う」

「筆記97あるのがまた嫌だわ」

セレナが半ば呆れたように言う。

「実技100は納得だ」

ガイルが言った。

「応用もな」

エドガーが続ける。

ナディアは素直に目を丸くしていた。

「すごいです、本当に」

「……ありがとう」

こうやって面と向かって言われると、逆に反応に困る。

ヴィクトルが結果表を見比べながら言う。

「でもこうして並べると、ほんとによくできてるな。

リオンは応用と実技、エドガーは筆記、セレナは総合安定、ナディアも全部安定、ガイルは実技、俺は応用より」

「綺麗に出てるわね」

セレナが頷く。

「嫌になるくらいに」

その言い方に、少しだけ笑いが漏れた。

けれど、その空気も長くは続かない。

誰もが分かっているからだ。

これは2学期の結果であって、終わりじゃない。

「3学期で決まるな」

ぽつりと、エドガーが言った。

その場の空気が、すっと引き締まる。

「ええ」

セレナがすぐに返す。

「今度はもう少し上を目指すわ」

「これ以上上を目指すのかよ」

ヴィクトルが苦笑する。

「間違ってないだろ」

ガイルが短く言った。

ナディアは困ったように笑いながらも、はっきりと言う。

「私も、まだ終わるつもりはありません」

全員が、同じ方向を見ていた。

認め合っている。

けれど、仲良く並んで終わるつもりはない。

その空気が、食堂の一角だけ妙に熱かった。

「望むところだ」

俺はそう言った。

自然に出た言葉だった。

そして、それはたぶん、ここにいる全員の本音でもあった。

昼休みが終わりに近づく頃、窓の外に目を向けると、冬の光が少しだけ傾いていた。

学院全体はもう、学期末の空気に変わりつつある。

休暇を楽しみにしている生徒。結果に一喜一憂している生徒。友人と笑い合っている生徒。

その全部が、年の終わりらしい穏やかさを持っていた。

けれど、俺たち6人にとっては違う。

2学期は終わる。

だが、飛び級争いはここからが本番だ。

次に問われるのは、3学期も同じように――いや、それ以上に戦えるかどうかだ。

俺は結果表の数字を、もう一度だけ見た。

297。

悪くない。

けれど、それで終わるつもりもなかった。

3学期で決まる。

その時、誰が一歩先へ進むのか。

静かな冬の学院の中で、俺たちの勝負だけは、まだ少しも終わっていなかった。