作品タイトル不明
第9話 慰める(慰めるとは言っていない)
突如として激辛から激甘に変化した空野明星。
何か裏があるのではないかと考える隼人だが、とりあえず言葉を額面通りに受け取ってみる事にした。
そんな二人は今、高校の最寄り駅を通過。
コンビニでジュースを買って、近くの公園に寄り道をしている最中。
「コーラありがとな。今度は俺が奢るから」
「いいよいいよー! そんなの! これはあれだから! なんて言っても記念だからねっ! 乃愛に振られた記念だから!」
「いやまあ……今回言ったのは俺なんだけどさ。記念って言うのはもうやめない?」
「あっ、やッ! ごめん! いや、じゃなくて──」
「まあ別にいいんだけどな。怒ってるとかじゃないから。空野に何言われたって今更怒ったりしないって」
「えーっと……うん。ご、ごめんね。気を付けるよぉ……」
気にしなくていいと言う隼人の言葉。
それ自体は素直に嬉しく感じる明星。
けれど、問題はその言葉の向こう側。
隼人の言葉の端々から自分に対する評価が悲惨である事を何となく察した明星は、複雑な気持ちで頷いた。
小学生の頃から割とコミュ強である隼人。
明星のせいでクラスの女子と距離はあるが、友達がそれなりにいる男子。
そんな隼人と違って、見た目こそ頑張って磨きまくった明星だが、残念ながら中身まではまだ上手に磨けていないのが現状。会話をすればボロが出る事も多々ある。
(失恋した男の人って、どうやって慰めればいいんだろう。話を聞いてあげるのが良いとか。肯定してあげると良いとか。色々書いてたけど、難しい。……そもそも、相手からの心象が悪い場合はどうすればいいんだろう)
特に、励まそうと思って優しい言葉を掛けたら『怖い』と言われてしまう系女子の場合、どのように接するのが正解なのか。
現状の自分が通常あり得ないような立ち位置に居る事を理解してしまったせいか、かけるべき言葉が中々見つからない明星。
「にしても、いつもこんな寄り道しないから知らなかったわ。良い感じの公園だなー広いしさ」
「うんうん! だね! 私は高校に上がった直後に周辺をしっかり探索したから知ってたけど、来るのは初めて!」
「おおー。真面目だなぁー、空野は。その他にどんなところ知ってるんだ?」
「あっ! えっと、えっとね! 学校出て下の道に──」
そんな訳で結局は隼人が会話を繋げる。
彼が広げた会話に明星が乗っかるだけ。
しかし、最近碌に会話をしてなかったせいか。
隼人が乃愛に振られた事で、ようやく自分の恋と向き合える勇気が持てるようになったお陰なのか。
慰めると言う目的は何処へ消失。
ベンチに座ってペットボトルのコーラを飲む隼人。彼の隣でペットボトルのお茶を飲む明星は、ただただ楽しく自分の話をするだけになっていた。
(それにしても、よく喋んなぁー。きつい言葉が一切ないから、もしかすると本当に励まそうとしてくれてる可能性もあるけど……。だとしても意味がわからないんだよな。何か企んでるのは間違いないんだけど、全然予想できねぇ……)
隼人とお話出来るのが余程楽しいのか。
慰める目的を忘れて笑顔を浮かべながら楽しくお喋りをするだけの明星。
ジュースを奢って貰った手前、邪険に扱う訳にもいかないので裏で色々考える隼人。
「──なるほどなー。色々遊びに行ってるんだな。空野って友達多そうだもんな。男子からも告白されまくってるって話だし、高校生活楽しんでんだろうな。あれ? そう言や空野って彼氏っているんだっけ?」
「彼氏ィ?! いないないないないないっ! そんなの全然居ないから! 居ないし要らないし!」
「お、おう。そっかそっか。悪い悪い」
ペットボトルのお茶をベコっと握った明星。
バシャっと飛び出すお茶。
ぎょっとする隼人。
「いやいや! 要らなっ、要ら、あぁーー要らない的なアレじゃないんだけどぉ、でもぉ! 仲良い男子なんて全然! 全然全然! 全然いなくてねっ! 遊ぶのは女子とだけなんだよねぇえ! 男子とかよくわかんない的な! ね! でもでも、何処かに良い感じに遊べる同級生で同じクラスの男子もいたらいいなぁー! みたいな!」
笑顔でウィンクしながら言う明星。
とても可愛い笑顔。必死さもある笑顔。
好きな人に彼氏が居ない事をアピールしたい。
自分がフリーである事をアピりたい。
遊び相手を探しているから誘って欲しい。
そんな明星の気持ちは理解出来なくもない。
「へぇー、そんな感じなんだ?」
(都合よく遊べる男子かぁー。発言すげえけど、やっぱ結構遊んでるんだな、空野って。まあそりゃそうか、この見た目だもんな。リリンクのフォロワーもすげえ多いし、休みの日は遊びまわってるんだろうけど、その癖勉強出来るんだからいいよなー)
ただし、変な勘違いをされたくなければ、言葉選びには気を付けた方が良いかも知れない。
「それにね! ど、どっちかって言うと家で漫画とか見てる方が好きで! だから、全然アレで! 全然遊んでないんだよね! 友達も少ないんだよね! 実は!」
「え? あぁー……そ、そっかそっか。でも、そう言えば漫画とかアニメ好きだもんな、空野」
「うんっ! 好きーっ! 隼人、覚えててくれたんだぁ!?」
「お、おう。そりゃな?」
現在通っている中高一貫の私立校に入ってからは、オタク系の趣味をオープンにしなくなった明星。
(隼人、私が漫画好きだって覚えててくれたんだ! 嬉しぃぃい! やっぱり私のこと一番わかってくれてるんだ! 絶対脈ありだこれぇ!?)
そんな彼女の頭からは、もはや失恋した隼人を慰めると言う目的は完全に消失。クラスメイトや学校の人が知らない自分の趣味を好きな人が覚えていてくれた事に感激。
パーッと明るい笑顔を浮かべた。
「ゲームはもうやらなくなったのか?」
「ぅ、うーん、あんまりぃ、やらくなった……かなぁ。スマホでちょっとするくらいで──」
(小学生の時、隼人の家に遊びに行ってするゲームが好きだった。……だけど、ゲームそのものが好きだったわけじゃないんだなって、わかっちゃったんだよね。隼人が居るから楽しかっただけだって、わかっちゃったから。隼人が乃愛の事を好きだって言ってからは、家でも全然やらなくなったんだよね)
昔は確かにテレビゲームも好きだった。
だけど、それも今は昔の話。
隼人の家に行けばいつも乃愛が居た。
明星にはそれが少し辛かった。
だから、家に遊びに行くのを控えるようになって、オンラインで隼人と遊ぶようになった事もあるけど、それも中二でおしまい。
ゲームをしている時。
どうしても浮かんでしまうから。
隼人と乃愛の二人の笑顔が。
二人の笑顔が。
仲睦まし二人の姿が脳裏にチラつくだけになってしまった、結果……明星は家に置いてあるゲーム機に触らなくなって久しい。
「そっかー。でもそう言や、女子って大きくなったらゲームから卒業する感じあるよなー。男子は大体ゲーム好きなんだけど。この辺の趣味の違いって不思議だよな。男女の脳でなんか色々違いとかあるのかな、やっぱり」
「確かにぃ? そう言えばそんな感じ、かも? 私の周りでもゲームやってる子いないかも? 実況動画見てる子は居るんだけど、ゲーム目当てって言うか配信者目当てな子ばっかりだしゲーム買って遊ぶのは聞かないかな?」
「あー確かに確かに、そういやそうかも。実況動画な。でも、そうだわ。男子もそうだわ。ゲームを遊んでる奴より実況動画見てる奴の方が全然多いわ」
「やっぱり? なんだろうね? あれかな? タイパ悪いってなっちゃうとゲームやらない感じになっちゃうのかな?」
「かもなー。楽しいんだけどなー。ゲーム」
(──まあ、俺の場合結局は乃愛と遊ぶゲームが楽しかったってだけかもしれないけど。一人の時に熱中する程にゲームが好きってわけじゃないんだよな……別に)
二人で出来る丁度良い暇潰し。
それがたまたまゲームだっただけの話。
今の明星との会話でその事に気が付いてしまった隼人は、少しだけ泣きそうになったので、話題を切り替える事にした。
「ま、ゲームの事はおいといてさ。逆に最近あんまり漫画とか読んでないんだけど、なんかおすすめとかあったりする?」
「あるぅううー! あるよ! あるあるある!」
「お、マジで? バトル系とかでなんかある? 最近学校の勉強ばっかであんまり追えてないんだよなぁ」
「あるー! いっぱいあるよぉお!」
オタクに限った話ではないが、自分の趣味に理解を示されると、大抵の人はとても喜んでしまう。それも、理解を示してくれた相手が好きな人だったら喜びもひとしお。
「えっとね! えっと、まずね──」
と言う事で、もちろん明星は大層喜んだ。
オススメ漫画の話を早口でつらつらと。
聞かれてもいないラノベの話を長々と。
アニメの話をペラペラと。
慰めると言う目的は何処へ行ったのか。
相も変わらずちょっと残念な美少女。
だがそれでも、何もかもが悪いわけではなかったのかもしれない。
乃愛との事を考えて一瞬涙が出そうになった隼人も、目を輝かせながら熱心に話す明星のお陰で気持ちが切り替わった様子。スマホを使って一つ一つ丁寧に作品の解説をする彼女の話を真剣に聞いていた。
慰めるとはちょっと違うかもしれない。
けれど、結果的には隼人の意識を他に向けさせることに成功していた。