軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第8話 空回ってもいいじゃない

居心地が良いような悪いような。

微妙な教室での一日が終わった放課後。

昨日に引き続き今日も部活動がない隼人。

一人でさっさと帰宅しようとした彼だったが、残念ながらそうはいかないのが現実の怖い所。

「一緒に帰ろー、隼人ーっ!」

隼人と明星の席は斜め同士。

なので、どうしても簡単には逃げられない。

急いで帰ろうとした隼人だったが、それよりも前に話しかけられてしまうことは避けられなかった。

「いや、俺は何処も寄り道しないで真っ直ぐ帰るから、帰るなら他の人と帰った方がいいと思いますよ?」

「あっ! そうなんだ! 私も寄り道しないで帰るから一緒だね! 帰ろ帰ろー!」

「あーでも、やっぱりもしかしたらちょっと帰りに買い物とかするかもだから」

「へー! そうなんだ! 荷物持ちなら任せてね! 私も付き合うよ!」

「えーっと……」

どうにか断りたい隼人。

どうしても一緒に居たい明星。

逃げるように教室を後にした隼人。

追い駆ける明星。

会話は廊下を歩きながらも続いた。

しかし、隼人の逃亡にも限界はある。

同じ小学校の出身と言う事実。

それは同じ校区に住む事を意味している。

結局、帰る方向も最寄り駅も同じなので隼人に逃げ場はなかった。

「二人で帰るのなんて久しぶりだねー」

「それは……そうだけどさ」

一緒に帰るつもりなんてなかったので、これと言って話す事も無い隼人。そんな彼に一方的に話しかける明星。全くかみ合っていない二人の下校風景がそこにあった。

(高校に入ってからも空野と一緒に帰る事はあったと言えばあったけど……。でもあれは乃愛と帰る時に時々一緒になる事があったってだけで、一緒に帰った感は全然なかったからなぁ。二人で帰るのはそれこそ、中学の時以来か?)

小学生の頃は仲が良かったかもしれない。

中学でも初めの頃はどちらかと言うと仲が良かった……ような、気がしないでもない。今となっては微妙に錆びついた明星との記憶がある隼人。

(……かと言って、こんな感じでも無かったような気がする。小中と仲が良かったと言っても、つかず離れずの距離って言うか。今日の学校みたいな感じでなかったのは間違いない)

だからこそ、隼人は非常に困惑していた。

昨日までの明星と今日の明星の違いに困惑しているのもそうだが、それ以前の小学生の時の彼女とも、中学生の時の彼女とも違う。

初めて見る奇怪な行動を取る人間に困惑していた。

キャラクターの書き分けに失敗した漫画や小説のように、突然性格や行動が変わったので、困惑と共に恐怖も感じていた。

「あー……あ、あのね? 隼人? その、ね? 元気……出してね?」

「え? あ、うん? 元気なつもりだけど、突然どうした?」

「いや、だから、あの……。昨日、その、色々あったから……。元気出して欲しいなって、思いまして」

「あー……うん」

そして、学校から駅に向かって歩く中。

あまり楽しそうに見えない隼人に気が付いた明星は、それを失恋から来る落ち込みであると判断。傷心の彼を頑張って励ます事にした。

(失恋で傷付いている時に慰めれば良いってネットに書いてたけど、そうじゃなくても、落ち込んでるなら元気になって欲しいもんね。でも、あんまり一気に距離を詰めすぎると引かれるらしいから、まずはちょっとずつだよね)

何処がちょっとやねんと言いたくなる、明らかに距離の詰め方を間違えている明星ではあるが、彼女的にはちょっとらしいのでその辺の感覚は個人差があるのかもしれない。

しかし、もちろん下心もバリバリにある明星。

だが、元気になって欲しい気持ちにも嘘はない。

その根底にある善意だけは本物。

だからかもしれない。

正直に言えば明星の事を少しばかり苦手に感じている隼人にも、彼女の気持ちがほんの少しだけ通じたのかもしれない。

「って事は、もしかしてだけど……マジで励まそうとしてくれてるの?」

「う、うん。そ、そだよぉ」

自分の方を見ながら首を傾げる隼人の言葉に、恥ずかしくなった明星がゆっくりと視線を下げる。

そして、そんな彼女を見た隼人は少し溜息を吐き出すと、久しぶりに彼女の前でわずかに笑顔を見せた。

「なんだ、そっか。ありがと、お陰でちょっと元気でたよ」

「う、うん! うんうん!」

もちろん、胡散臭いと感じる気持ちが完全になくなったわけではない。

そもそも慰め方がおかしいような気がする上に、今のところ明星の行動は明らかな異常にしか見えていないので、不気味さや恐怖が拭えないのも事実。

(……いつも心を抉る事ばかり言われてたけど、話聞いてくれてたのは事実か。……まあ、俺から相談したのなんて中等部までで、高等部で相談持ち掛けた事なんて一度もねぇけどな。相談乗るとか言って屋上とか体育館裏に呼び出されて、暴言吐かれてた記憶しかねぇし……)

目を泳がせながら元気に頷く明星。

そんな不審者を見た隼人はそっと息を吐き出す。

(……でもまあ、俺が乃愛にガチ惚れしてるとか、そう言う話は誰にも広めないでくれてたしなぁ。乃愛に告白できたのも、空野が尻を叩いてくれたからってのも……一応、あるか。ちょっと何考えてんのかはわからないけど、案外本当に励まそうとしてくれてたりしてな。……微妙だけど)

そして、真偽はどうあれ、昨日は怖くて受け取らなかった彼女の言葉をそのまま受け取ってみる事にした。

「あ、だ! だから、何処でも付き合うよ! 行きたい場所あったら言ってね! 落ち込んだ時は身体動かすと良いとか書いてたから、身体動かしてもいいよね!」

「らしいなー。身体動かすとか新しい事すると良いみたいなの書いてたなー。いや、ていうか、そんな事まで調べたのか?」

「し、調べたよー。こういう時、どうするのがいいのかなって……お、思いましてぇ……」

「おおー」

隣を歩いていた空野明星。

いつも自信満々で自分にだけやたらと態度のデカイ美少女。

そんな女子が何処か恥ずかしそうに。

何処か自信なさげにそんな事を言うものだから、隼人もようやく明星が本当に自分を励まそうとしているのかもしれないと思い始めた。

と言う事で、物は試しと言う事で昨日の言葉に乗っかってみる事にした。

「じゃあ、振られた記念にジュースでも奢って貰うって言うのもまだ有効n──」

「あっ! い、いいよいいよ! いいよ! いいよぉおお!」

「え、あ、おう。いいの?」

「え? いいよ! なな、何飲む? 何でも買うよー! 隼人コーラ好きだよね? 何本飲む? お金結構あるんだよね! 私! 箱買いする?」

試してみた結果、二つ返事で了承されてしまう。

食い気味に了承された隼人は明星の勢いに軽く引いてしまうが、そんな彼の様子に全く気付いた様子のない頑張る女子は心の中でガッツポーズ。

(やったあ! 隼人がジュース飲んでくれる! お金は大丈夫、何本だって買える!)

頭の中はまるでホストに貢ぐ姫のような、完全にダメな女子の思考をしていた。

だがしかし、確かに明星の頭が残念は事に変わりはないのだが──。

「いや一本で良いわ! 箱買いて、どんだけ飲ませる気だよ腹壊すだろ、はははっ!」

「あ、まあ、そうだよね。わかるぅう! えへへ!」

あんまりにも残念過ぎたお陰か。

何か伝わる所でもあったのか。

もしかすると、目の前の女子には本当に悪意がないのかもしれないと思い始めた男子は、ちょっとおかしな女子の前でようやく普通に笑った。