軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第7話 もしかして、木こりの泉で溺れました?

隼人が乃愛に振られた翌日。

二年四組の教室は異様な空気に包まれていた。

理由は単純で、クラスの中心人物である空野明星の様子が明らかに不自然だからである。

朝から既に違和感バリバリだった明星。

クラスメイトは突っ込んでいいのか悪いのかが分からない状況。

試しに、明星と仲の良い友達が聞いた所──。

『え? 隼人と何かあったって? 何も無いよぉ~。て言うか、隼人と私は小学校からずっと一緒だからねー、昔からこんな感じだよ。 沙也加(さやか) ったら変なのぉ、ふふふ』

と言う『変なのはお前だよ、嘘付け』と言いたくなるような言葉が返ってきて、それ以上は誰も踏み込めなくなってしまっていた。

そして今はお昼休みに入った直後。

「一緒にご飯食べませんか!」

まあそうだろうな。

と言う言葉が明星の口から飛び出していた。

アイドル顔負けの笑顔を浮かべた明星。

そんな美少女が話しかける相手は──。

「え? ……っと。……まあ、別にいいけど」

──もちろん、城崎隼人。

「おっけー! じゃあ私そっち移動するねー」

「あ、ああ。おう」

教室のほぼ真ん中に座っている城崎と、彼の斜め右前の席に座っている空野。

そんな二人が会話をすれば否が応でも教室の全方位から視線が集まるようになっているので、教室が異様な空気に包まれてしまうのも無理はなかった。

昨日まで『食べるなら向こうで食べてよねー。視界に入らないでよねー』と言っていた女子が、手作り弁当を自慢しながら楽しそうに笑っているのだから。そんな異常現象に遭遇すれば誰だって軽く恐怖を覚える。

「何かおかずいるー? 男の子はそれだけじゃお腹空かない?」

「あんまり食べ過ぎると午後の授業で眠くなるかもしれないから、このくらいでいいんだって」

「それもそうだね。隼人頭いいね! 流石だね!」

「え? あー……うん」

「あでもでもでも、欲しいのあればどれでもあげるから言ってね! 全部手作りで自信あるんだ!」

「へー? 空野さんって弁当自分で作ってたんだ。料理上手なんだね」

「うん!」

まともな感性を持った人間であれば、その異常とも言える変化に興味が湧くのは当然と言えば当然。質問をしてみたくなるのも当たり前の話。

「あー……のさ?」

「どうしたの? 沙也香(さやか) ?」

「明星と城崎……君って、やっぱりなんかあった、よね?」

このクラスでは明星と一番仲が良い『 筒井(つつい) 沙也香(さやか) 』と言う名の女子がクラスを代表して、一時間目と二時間目の休憩時間に明星に投げた質問を再度投げかけた。

「別に何も無いよね?」

「うん? うーん……まあ、なんも無かったはず」

しかし、返って来るのは何も無いと言う回答のみ。

絶対なんかあっただろ、と。

誰もがそう考えているものの、何も無いと二人揃って言われるとそれ以上は中々に追及し辛いようで、筒井はしばらく話したら二人の下を離脱した。

確かに何も無かったわけではない。

だが、話せる内容かどうかは微妙な線。

『隼人が乃愛に告白して振られた』

と言う話を馬鹿正直にするわけにもいかない。

なので、二人が言うべき言葉は結局『何も無かった』以外にあり得なかった。

しかし、言うべき言葉がたまたま一致したからと言って、二人の頭の中がその他にも同じ事を考えているかと言われると、全然まったくそんな事はない。

(よ、良かった! お昼ご飯は一緒に食べてくれるんだね。勉強もクッキーも駄目だったけど、お昼が一緒に取れるなら全然いいよね? これ全然まだ脈ある感じだよね? 脈ある方だよね、これって? あんまり嫌われてないって事だよね? それに、料理上手だって褒められちゃった。頑張っててよかったぁ……!)

(マジでなんなんだ、空野。不気味過ぎるんだけど。何か企んでるのは間違いないんだろうけど全然わからん。あんまり避けてると周囲の心象も悪いだろうから、とりあえず昼は一緒に食べてみたけど……)

「あっ、どうしたの? やっぱり食べる!? お口に合うと嬉しいなって」

「んっと、いや、今は良いかなぁ……」

「そ、そうですか? でも、お腹空いたらいつでも──」

女子が一人で食べるには少し大きな弁当箱。

目の前にある明星の弁当をチラチラ見る隼人。

やたらと弁当をすすめる明星。

特に弾む事もない二人の会話。

謎の緊張感が漂う教室。

(うーん。好きなおかずじゃなかったのかなぁ……? 唐揚げとハンバーグはちょっと子供っぽ過ぎたのかな? 隼人は大人の男っぽいもんね。かっこいいなぁ、隼人っ。近くにいるとドキドキしすぎて味わかんないよぉ……)

(あー? もしかしてアレか? クッキーもそうだけど弁当も手作りって言ってたから……なんか盛ってる、のか? いやぁ、流石の空野もそこまではしない? ……目的がわからん。怖すぎて今日の弁当の味わかんねぇ……)

隼人と一緒にご飯を食べられてドキドキしている明星と、明星との昼食に別の意味でドキドキしている隼人。

「あ、そだ!」

「あ、はい? なん、なんですか?」

「良かったらお弁当作って来てあげようか!」

「え? ん、え? いや、いいよ。母さんが作ってくれるから」

「あっ、うん! だよね! ゎ、わかるなぁ! わかるぅ!」

「え? お、おう」

これまでの過去を猛省して猛烈にアプローチを仕掛ける明星だが、ここまで行くと逆効果であると言う事に残念ながら気付いていない様子。

激辛から一転して急に激甘に。

塩と砂糖を間違えた失敗料理。

食べた人間がブーと吐き出しても無理はない。

故に、その急激な変化に混乱している隼人の頭は明星の態度を優しさやデレと感じる前に、意味不明過ぎて怖いと感じてしまっていた。

「……まあでも、ありがと。いつか機会があったら空野さんの料理も食べてみたいかな」

「あ、うん! 何でも作れるから、食べたい物あれば言ってね! いっぱい作るよ!」

とは言え、城崎隼人は普通に出来た子。

たとえ相手が何を企んでいようとも。

たとえ相手がいじめっ子であろうとも。

たとえ相手が宇宙人や幽霊であっても。

たとえ相手が空野明星であろうとも。

好意には好意を。

善意には善意を持って返す事が出来る普通の善人。

明星が何を企んでいたとしても、自分の為にお弁当を作ろうと提案してくれた事に対してだけは、きっちりと感謝を伝えた。

そしてもちろん、そんな隼人の言葉を受けた明星は幸せそうに目を細めた。

(そっか、そっかそっかそっか! そう言う事か。本当は私のお弁当が食べたいけど、高校生の間はお義母様のお弁当があるもんね。大学生になったら毎日作ってあげるからね、隼人!)

(何企んでるのかは知らないけど、流石に空野の手作りは弁当は食べたくないな。美味そうではあるけど……それ以上に怖そう)

美味そうでも不味そうでもなく。怖そう。

凡そ、料理に対する感想とは思えない隼人の内心。

残念ながら明星の百パーセントの好意は伝わっていない。

しかし、それでも、百分の一くらいの気持ちは伝わっているのかもしれない。

自分の前では全然笑わない女子。

いつも不機嫌な顔を浮かべていた女子。

そんな女子が今は楽しそうに笑っている。

気味が悪いとは思う。

怖いとも思う。

(……まあ……笑ってる分にはいい、のかなぁ)

それでも、楽しそうにお弁当を食べる明星の笑顔を見た隼人は、ほんの少しだけ警戒を緩めた。