軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話:それはどこか別の場所

●異世界:ファーマント とある屋敷の一室

「繋がった!」

「……っ!? ちょっと、いきなりどうしたのよ!?」

燃えるような赤毛を持つ少女。

窓際でロッキングチェアに腰かけて静かに本を読んでいた、女神の眷属にてディバインアームズのオリジナルの一つ”破砕"の使い手の少女は、同じ部屋のベッドの上で無気力に横たわっていた己とは正反対の深青色を纏った少女が飛び起きると同時に上げた声にビクッと体を震わせると、それからすぐに非難のこもった声を上げた。

だが深青色の少女は、それに反応を示さない。飛び起きた後は虚空を眺めるような体勢で固まっている。

「ちょっと、無視しないでくれる!?」

その反応に赤毛の少女は不満気に顔を歪めると、チェアから立ち上がり深青の少女の肩に手を伸ばそうとする。だが、

「きゃあっ」

そのタイミングで深青の少女はベッドから飛び降りた。その向きが赤毛の少女の方だったため、慌てて身を引いた少女はそのまま尻もちをついてしまう。だが深青の少女はそれに反応もせずにその横をすり抜けようとして、

「待ちなさいっ!」

「へぶっ!」

足を払われて正面から転倒した。

「何するの……」

「こっちのセリフよ! いきなりなんなの!?」

ギリギリ顔面から突っ込むのは回避できたようで、ガードに使ったらしい腕をさすりながら深青の少女は恨みがましい顔で振り向いたが、元々少々きつめな上に更に眉を吊り上げていた赤毛の少女の迫力に押され、少しその身をすくめながら答えた。

「くーの所に行く」

「は? くーって……久遠?」

「ん」

深青の少女が口にした名前は、赤毛の少女にとっても懐かしい名前だった。だがその名前の持ち主は今簡単に会いに行ける場所にはいないので、眉を顰める。

「無理に決まってるでしょう。いくら平和になったといっても、あちらの世界に行くための儀式の為のマナは……」

「私のカートリッジ4個分でいける」

「……は?」

「なんかしらないけど、くーに貼ってあった 経路(パス) が急に滅茶苦茶太くなった。なんか世界の壁がむちゃくちゃ薄くなった感じ? これなら私だけの力で余裕でいける」

そこまでいいきってから何故か誇らしげな顔でむふーと鼻息を荒くする少女の言葉に、赤毛の少女は目をぱちくりと瞬かせる。

「本当ですの?」

「もちろん。というわけで行ってくる」

「お待ちなさい」

「ふべっ! ……こんどはなにー」

言葉と共に立ち上がろうとした深青の少女の足を、今度は冷静に赤毛の少女が払う。先ほどと違い今度はガードの間に合わなかったらしくが鼻を抑えて顔を上げる深青の少女に、赤毛の少女は今度は淡々とした調子で告げる。

「貴女の言う事が真実なら許可は下りるでしょう。ですがカートリッジ4個ではすぐにはこちらに帰ってくることができませんよね? ならばちゃんと手続きや下準備をしてから向かいなさい」

「……めんどいー」

「ちゃんとしてから向かいなさい」

「わかったからにらまないでー」

●滅びを間近に向かえたとある世界にて

「クレーベ、ファスタリアとの交信が途絶えたそうだ」

工具を手にして、目の前にある機械を弄っていた青年は、こちらに駆けよって来た男の言葉を聞いて手に持った工具を取り落とした。

辺りがわりと閉じられた場所だったため、金属が硬い床にぶつかる音が大きく反響する。その音に顔をしかめながらも腰を落としていた男が立ち上がり、やって来た男に問いかけた。

「崩壊した、ということか?」

「いや、交信中に急に途絶えたらしいからおそらく途中の領域が 消(・) 失(・) しただけだろう」

「そうか」

その答えに、青年は安堵のため息を吐く。

今、彼らの世界は崩壊の危機に瀕している。その理由は天災などではなく、マナの枯渇による世界の消失だ。マナは世界に当然のように存在するものであり、そしてマナは世界を構築する原資だ。当然それが不足すれば世界は維持できなくなる。彼らの世界はそのマナが枯渇に向かう事を起こしたものがおり、すでに世界の9割9分は消失していた。

その世界の崩壊だが、例えば浸食するようにじわじわ広がっているものではなく、ある日突然無に帰るようなものだ。通信が途絶えたということはその場所が消失したのではなく、その間の土地が消失した結果連絡が届かなくなったということだろう。

ようするに完全にその場との繋がりが経たれたということにはなるが、その場所が失われたわけではない。

「ファスタリア、お前の学友がいるんだっけか」

「ああ」

青年はファスタリアと呼ばれる学園に近年まで留学していた。そんな多くの顔見知りがいる場所が失われた訳ではないことに安堵したのだ。

……最も時間の問題の可能性もあるが……

二人が黙り込む。ひとまずは最悪の事態は免れたが、崩壊は今この時間も進んでいるのだから。

その事を強く思い浮かべ、静寂が訪れる。が、その静寂は騒ぎ立てながらやってくる新たな男の登場によってすぐに破られた。

「クレーベ! クレーベ! 朗報だ!」

第三の男はひどく焦ったようすで駆け寄ってくると、男達の前で立ち止まり息を整える。

青年──クレーベは最初ファスタリアの件かと思ったが、彼は朗報と言った。だがこの絶望に近い状況下で何の朗報があるのかと、新たな男に問いかける。

「セド。朗報とはいったいなんだ?」

その問いに俯いて呼吸を整えていた男は勢いよく顔をあげて答える。

「……渡航が可能な世界が見つかったんだ!」

「っ! 本当か!」

「ああ!」

世界の崩壊は最早止めるすべはない。だからといって黙って消滅を待つことはできない。そうして彼らが選んだのは他の世界への移住だった。

ただ世界はそう簡単に渡れるものではない。大抵の場合は世界は異物を排除する傾向にあり、そう簡単に侵入ができるものではない。だが極稀に、その"壁”が非常に薄い世界がある。彼らは極僅かなその確率に賭けてそういった世界を探し、ついに見つけたのだ。

「……すぐに連絡可能な居留地へ連絡を!」

「解った!」

セドと呼ばれた男は大きく頷くと、再び駆けだした。そしてクレーベは床に落とした工具を手に取ると、即座に目の前の機械に取りついた。

「完成を急ぐぞ! 俺達の"方舟”の!」