軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

勇者と大魔導

「……ん?」

下層から脱出してから数時間。

残るのは俺だけでいいと三人に伝えたが、もし結界を破られた時全員残っていた方が対処もしやすいだろうと言われ、結局俺達は4人でポータルのある部屋でずっと待機していた。実際の所中層はマナがそのままだったから三人は問題なく戦力になるので、いざという時は確かに頼る事ができるしな。

その結果俺達はポータルの存在する部屋で、だらだらと時間を過ごしている。

緊張感がないと言われるかもしれないが、俺の結界が破られない限りは何事も起きないので暇なのである。

それに向こう側に張った結界にはちょっとした細工をしこんできたので、そうそう破られることはないだろう。じっさいこれだけの時間が経っていまだに向こう側の結界が破られた気配はない。

最初の内はこれからの方針やら各所への連絡などでドタバタしていたが、そんなものは一時間もしないうちに片付いてしまう。それ以降は皆思い思いの時間を過ごしていた。

ダンジョン内は基本ネットが通じるようになっているので、ネットを見たり配信を見に来ているリスナーと雑談したりだ。配信をしていない藤原さんはドローン操作用の端末で何かを読んでいて、それ以外の面子は配信の対応をしていた。

それも初めの頃はお互いの配信に顔を出したりしていたが、探索をしているわけでもなく何の準備もしていない状況ではそれほどする事もなく、今はそれぞれがそれぞれのリスナーと最早ダンジョン関係ない雑談に興じている。俺自身も直近一時間は適当な雑談に興じていた。まだこっちの世界に戻ってきて短い俺はいろいろと疎いからそれを教えてもらっていたりしてな。

そうして、結界を張ってから3時間程たった頃。この場に俺達以外の人の気配が現れたのに気づいて俺が顔を上げると、この部屋に通じる通路の向こうから誰かがやってくるのが見えた。

「来たか。勇者と大魔導」

同じように気づいて顔を上げた藤原さんが口にする。

ここに誰かがやってくるかは、すでに協会の方から連絡を受けていた。

"勇者" 田中 一(はじめ)

"大魔導" ファミィ

ただ二人しかいない特1級がこの場に送り込まれていた。それだけ協会も今回の一件を危険視しているということだろう。

やがて、二人の姿がはっきりととらえられる。

一人は鎧の上からでもわかる筋肉質でがっしりとした体躯を誇る、年のころは40代半ばくらいの中年の男性。もう一人は栗色の髪を後ろの首元で束ねたグラマラスな体型の20代半ばくらいの女性だった。

「いやぁ、またせたね、諸君!」

やってきた二人のうち、女性の方がこちらに向かって手を振ると軽い調子で声を掛けてくる。

「大魔導ファミィ様がやってきたからにはもう安心だよ!」

軽いなぁ。

実は俺は大魔導と会うのは初めてではない。といっても知り合いともいえない程度だ。 帰還者(リターナー) の申請をした時に彼女が立ち会っていた程度である。多分覚えてもいないんじゃないかな? 特に俺の顔を見て反応を見せなかったし。

「君が結界を張っていてくれたんだな? よく持たせてくれた」

もう一人の男性、"勇者"田中さんはそのごつい見た目からは想像のつかない愛嬌のある笑みをこちらに向けると、俺の方に歩み寄ってきて手を差し出してきた。それに答えて手を握ると、向こうもそっと握り返してくる。わー、おおきいー、かたーい。この手で何十年も剣を振り続けてきたんだろう。

彼は一度手を軽く振ると、握手を解く。そしてポータルの方に視線を向けて、言った。

「協会の方から状況は全部聞いている。結界を閉じてくれるか?」

「わかりました。向こう側にも結界を張ってあるので一度俺も向こうに行きます」

「わかった、頼む」

念のためファミィさんの方に視線を向けると、彼女も頷いたので俺は結界をとき、そのままポータルに飛び込んだ。

数時間ぶりに見た下層では、周囲にモンスターの姿は消えていた。いや、遺体がいくつか残ってるな。俺がぶち殺した時より数が減ったりボロボロになっているのは、他のモンスターに喰われでもしたか。

周囲にはいくつかモンスターの姿が見えるが、先ほどのようにポータルのすぐ側にはモンスターは見えなかった。どうやら結界に付与した"隠蔽”の効果が上手く作動していたようだ。

俺、というかアイリスの結界は単純に物理的なものを防ぐだけではなく、別の魔術を掛け合わせることで様々な効果を与えることが出来る。ただ隠蔽は向こうではあまり使わない効果だったのでちょっと不安だったんだが……うまく行って良かった。おかげで結界が破れる事もなかったしな。

「結界を解きます」

一応宣言してから結界を解く。するとたまたまこちらを見ていたか、あるいは感知能力が高いのかこちらに反応を示したモンスターがいた。まぁ距離は少しあるから焦る必要はないが。

「後はアタシ達に任せな」

「君は中層側で結界を貼ってまっていてくれ」

左右両方からポンと俺の肩が叩かれ、二人が一気に駆けてゆく。……完全肉体派の勇者はともかく、大魔導も早いな。二人は一気に加速し、こちらに気づいて向かってこようとしていたモンスター達の群れの中へと突っ込んでいく。

本来なら俺はすぐ向こうに戻って結界を張るべきなんだろうけど、すぐ側にモンスターはいないし興味が湧いてちょっとだけ群れに突っ込んだ二人の戦いに目を向ける。

……わりと出鱈目な事が起こっていた。

勇者の方は背負っていた大剣を雑に振り回していた。ただそれだけで彼の進路上に存在するモンスターが消し飛んでいた。──いや、明らかに剣の届く範囲外の奴も消し飛んでるな。俺の断空結界みたいにマナで剣を形作ってるのかな……まさか剣の振りだけで衝撃波起こしているとかないよな?

大魔導は大魔導でマナの変質など起きていないかの如く魔術を連続でぶっぱなしていた。俺みたいにどこかにマナをストックしているのかとも思ったが、単純に速攻で変質したマナに合わせて魔術を調整したのかもしれない。この世界に魔術を伝えた大魔導だ、それくらい軽くこなしてもおかしくない。

何にしろ、さすがは特一級といったところだろう。見てても参考にならないし、そもそもモンスターの存在など関係なしにえらい勢いで爆走しているのですでに二人の姿は小さくなっている。アイリスの残りマナもそれほど余裕があるわけでもないし、これ以上下手に留まって他のモンスターに感づかれると事だ。

俺は二人の背中から視線を離すと再びポータルへと飛び込んだ。

──ちなみに。

勇者と大魔導は傷一つ負わず1時間後には「解決したわよー」と戻ってきた。いや、早すぎんだろ。