軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第70話 腐敗した古巣と、鉄の軍団の到来

『アヴァロン帝国暦元年 12月上旬 帝都フェルグラント オルデンブルク公爵邸 小雪』

【皇帝の右腕、オルデンブルク公爵グレン視点】

ユニテス教会総本山、いわゆる女神教から届いた、「帰還せねば断罪する」という脅迫状。

俺はそれを、当事者であるチェーザレに見せた。

彼は血のように赤いインクで書かれた文面を一読すると、恐怖するどころか、鼻で笑ってそれをテーブルに放り投げた。

「ふーむ。……脅しか。教皇軍がすぐに動けるとは思えんな」

「動けない? 相手は総本山の軍だぞ。お前がいなくなって、また新しい指揮官が立っているんじゃないのか?」

俺が尋ねると、チェーザレは肩をすくめた。

「グレン公。あの軍隊は、私が恐怖と規律で無理やり形にしていただけの、張りぼてだ。私がいなくなって、また元の腐敗した集団に戻っているだろうよ。……いや、そもそも、今のあそこにまともな指揮ができる者が残っているかどうか」

かつて内部にいた男の言葉だ。説得力が違う。

だが、油断は禁物だ。狂信者というのは、理屈を超えた動きをする時がある。

「念のためだ。護衛をつける」

俺は執務室に、二人の女性を呼び入れた。

銀髪の『銀狼』イリアと、赤髪の『紅豹』ソフィアだ。

戦乱が終わり、大規模な軍事行動がなくなった今、彼女たち傭兵団は、俺の私兵として雇い続けていた。職にあぶれさせないための雇用対策でもある。

「ソフィア。お前は今日からチェーザレの護衛を頼む。確か、アードラー帝国時代は、要人警護も専門だったんだよな?」

俺の指示に、ソフィアは妖艶な笑みを浮かべて、チェーザレの周りを一周した。

「ええ、任せてちょうだい。……あら、近くで見ると、なかなかいい男じゃないの」

ソフィアの指先が、チェーザレの黒い司祭服をなぞる。

「地位も名誉も捨てて、愛に生きる一途な男……。私、そういう殿方、嫌いじゃないわよ?」

「ひっ……!」

チェーザレが顔を引きつらせて後ずさる。ルチア一筋の男には、ソフィアのフェロモンは劇薬すぎたようだ。

「こらこら、ソフィア。チェーザレを食ったりするなよ。そいつは新婚だ」

「あら、残念。……ま、泥棒猫をするつもりはないわ。命に代えても守ってあげる」

ソフィアはウィンクをして引き下がった。腕は確かだ。彼女がいれば、多少の刺客など問題にならないだろう。

「あと、イリア。お前は俺の護衛だ。今日は重要な客が来る」

「わかったよっ、グレン! やっぱり、ダンナの背中はアタイが守らないとね!」

イリアが嬉しそうに胸を張る。

こうして、身辺の安全を確保した俺は、次の仕事へと向かった。

『同日 帝都フェルグラント 南門』

小雪が舞い散る中、帝都の南門前には、整然とした隊列が組まれていた。

俺の私兵となった元傭兵たちだ。

かつては装備もバラバラな荒くれ者たちだったが、今は俺の財力(と、オルデンブルクからの徴収)で新調した統一装備に身を包んでいる。

腹いっぱい飯を食わせているおかげで、士気も高い。

「……寒いな。だが、予定通りだ」

俺は白い息を吐きながら、街道の向こうを凝視した。

地平線の彼方から、重厚な足音が響いてくる。

雪を踏みしめ、一糸乱れぬ行軍でこちらへ向かってくる、灰色の軍団。

かつての大陸の覇者。

旧アードラー帝国、第一師団。

先日、ユニテス教会軍と和解し、カール皇帝の勅命によってアヴァロン帝国軍への編入が決まった、最強の精鋭部隊だ。

「来たか……」

先頭を行くのは、屈強な軍馬に跨った指揮官。

その顔には、長い緊張から解き放たれた男特有の、静かな覇気が宿っていた。

俺は姿勢を正し、かつての敵であり、これからの最強の味方となる軍勢を迎え入れるべく、一歩前へと進み出た。