軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ガツンと行く(ルーク視点)

いろいろ疲れてしまったパーティの翌朝、観光と社交をとごねるウェスター側をかわしつつ、その日の午後には結界箱を見せてもらうことになった。もちろん、魔力の充填も含めてだ。

やはりというか、イースターの王族も見学したいということで、快く許可が出ているらしい。その許可を出すのはウェスターではなく、能力を見せる私達であるべきであるということはどこかに忘れ去られている。

まあ、魔力を充填すること自体は魔石が大きくても小さくても同じで、四侯のやり方が別に秘されているわけではないとお父様は言っていた。ただ、結界箱が城にあるから一般の人は見られないだけだと。

昼食のあと、私とギルは城の中の一室に案内された。扉の前には二人警備の兵がいて、厳重に守られていることがわかる。

中に案内されると、絨毯が敷き詰められた大きな部屋の真ん中にテーブルが一つ置いてあり、その上にそっと結界箱が置かれていた。お父様が見せてくれたのと同じ、大人の人が一人でやっと抱えられるほどの大きさだ。

ギルバート王子が誇らしげにその結界箱のふたを開けた。

「おお」

とかすかな声が上がるが、それは同行していたウェスターの貴族たちからの声だった。私とギルにとっては予想していた通りの中身であったし、イースターのサイラス王子に至っては、眉一つ動かさなかった。

それはお父様が見せてくれた通り、三つの魔石がきれいな三角形に配置された結界箱だった。

「二つと半分、ですか」

私は思わず声に出してしまった。魔石に魔力を充填する手伝い、ということで呼ばれたのだから、あえて充填していない魔石を置いておいたのかもしれない。私とギルが結界箱から顔を上げると、ギルバート王子が誇らしげに胸を張っていた。周りのウェスターの貴族も心なしか誇らしげだ。

「魔石のうち二つはほとんど私と弟で十分充填できる。問題は残りの一つなのだ。しかし、これ一つを魔力のあるものに試させているのだが、なかなか全部に充填できなくてな」

その残りの半分が問題らしい。

「この結界箱の魔石は何日ごとに充填しなければならないのですか」

「伝承では10日に一度と」

伝承では? 私はギルと顔を見合わせた。ギルが恐る恐る口に出した。

「まさかまだ発動したことはないということですか」

「もちろんだ。いきなり発動したら、シーベルの民が慌てるではないか」

ここで初めてイースターの王子の表情が動いた。私の他には誰も見ていなかったようだが、あきれたような表情にだけは共感する。

「ええと、領都シーベルは確かイースターとの境界であるユーリアス山脈がすぐ北にあり、そちらは虚族も多くハンター以外は近寄らないと聞いています」

「その通りだが」

「いきなりシーベルで実験をせずに、そこで軍の野営の訓練として発動実験をしてみればよかったのではないですか」

ギルの言葉に部屋には沈黙が落ちた。ギルは思わず言ってしまった自分の言葉とその影響にハッとし、慌てて話題を変えた。

「失礼。それでこの残りの魔石に」

「そう、魔力を充填してもらえる人を派遣してもらおうと思ったのだ。まさか四侯が来るとは思わなかったが、ありがたいことだ」

素直に感謝を表す王子にギルの方が引き気味である。しかし、予想以上に行き当たりばったりの王族にあきれる気持ちが隠せなくなりそうだ。ギルが私の方を見た。

「ルーク」

「はい」

私は返事をし、脇に抱えていた小箱をテーブルにゆっくり置いた。

「ルーク殿、それは?」

残りの魔石に魔力を入れてもらえるのだと思っていたギルバート王子が不思議そうだ。私は何も言わず小箱を開けてみせた。

「おお!」

今度は部屋中にどよめきが起きた。イースターの王子ですら目を見開いている。

「こ、これは」

「オールバンスの愛し子たるリーリアを発見し連れ帰ってくれたことに対するわが父からの謝礼の品です」

「なんと! キングダムからではなく、四侯とはいえたった一貴族からの謝礼ですと!」

叫んだのはハーマンという副宰相だ。このでっぷりとした人の発言はいつも微妙に失礼である。

「最初から連絡しているとおり、キングダムはこの訪問には無関係。あくまでリスバーンとオールバンスの個人的な訪問ということになります。勘違いしないでいただきたい」

ギルがきっちりと抑えた。

「では、ルーク、始めようか」

「はい」

「しかしルーク殿はまだ11歳では」

私はそのギルバート王子の言葉を片手を上げて止め、その手で小箱から大きな魔石を一つ取り出し、ゆっくりと皆に見えるように魔石を充填し始めた。ごく淡い色からだんだんと濃い紫へと変わっていく魔石を、皆が息を飲んで見つめる。

やがて魔石から反発が来た。

「まず一つ」

私はその魔石を皆に見せたあと、小箱にしまう。そしてもう一つ魔石を取り出した。

「ばかな。それを!」

王子の声に構わず二つ目の魔石にことさらゆっくりと充填を始める。そして三つ目を手に取る頃には、誰も何も言う人はいなかった。お父様の言う通り、三つ目も多少疲れた程度で魔力を入れることができた。

私は疲れは表に出さないようにして、濃い色になった最後の魔石をそっと小箱に収めた。そしてふたを閉めると、ギルバート王子に手渡した。

「この魔石を使えば、今すぐにでも結界箱を作動することができるでしょう」

「おお! 感謝する」

王子は感動のあまり顔が赤らんでいた。

「ただし」

ギルの言葉に浮かれた室内は静まり返った。

「私たちは基本的にキングダムを離れられません。たとえ来られたとしても、成人したらここには来られなくなる。まして、10日に一回の充填と言う事を真剣に考えたら、それはやはり、ウェスターの中で魔力を充填できなければ意味がないのですよ」

「それは……」

「わが係累を当てにしているのであれば、彼もルークと同じ11歳。今回は特別にルークが魔力を充填しましたが、本来ならば18歳まではすべきではない。たとえ彼が、つまり私の叔父上が同意したとしても、そのようなことは認められません」

ギルの言葉に動揺したのは家臣たちの方だった。第一王子は落ち着いたものだ。

「もちろんだ。そもそもこの案件は何年も前から検討されてきた。今更数年遅れても問題はない。弟からは、アリスター殿がハンターを続けたいとの意志を確認している。ここで訓練をしてもらいつつ、貴族としての教育も施して、いずれ18になったら協力してもらうつもりだ」

その間によい待遇を与え、ウェスターに帰属するよう導いていくつもりなのだろう。ざわつく家臣たちとは異なり、イースターの王子は静かだった。すぐに結界箱を発動するつもりがないというところで興味を失ったのだろう。

それにしても、見かけの貴族らしさとは違い、イースターの王子にはほとんど魔力がない。もしかするとキングダムの平民よりも少ないかもしれない。

ウェスターに来てから驚いたのは、民にも、下手をすると貴族にも魔力なしが多いことだ。キングダムで魔力なしと言われていても、それは魔力が少ないという意味に過ぎないということが初めてわかった。

イースターは虚族の被害が少なく、それだけに広い土地を農業に使うことができていると聞く。いずれはイースターにも行ってみたいものだ。

「最後の一つに魔力を充填しますか」

ギルの言葉に王子は首を横に振った。

「本来はそうしていただこうと思っていたが、こうして予備三つ分の魔力をいただいたのだ。この一つは、ウェスター内で何とかするつもりだ」

「殿下!」

副宰相が何か言いたげだ。この際だから充填していってもらえということなのだろう。あきれたものだ。

結局、結界箱は発動させるのか、させないのか。

その答えは、意外にもリアによってもたらされることになった。