軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

オールバンスの力(ルーク視点)

これだけの魔石に魔力を注いだら倒れるだろうか。

私は少しためらった。しかし、倒れたからどうだと言うのだ。これができなければ四侯がウェスターを訪れる意味などないのだから。それに私には十分に力がある。そのうえ十分に訓練してきてもいる。

私は魔石に手を伸ばした。

「おい、ルーク」

心配そうに声をかけてきたのはギルのお父様だ。大丈夫です。むしろ心配すべきはギルですよと、そう答えようとして顔を上げると、ギルのお父様は一瞬息をのんで、ふうっと吐き出した。

「いや、なんでもない。さすがディーンの息子だな」

何のことだろうとその時は思ったが、私はどうやら微笑んでいたらしいとは後からギルに聞いた。その胆力はたいしたものだと。

改めて魔石に手を伸ばすと、手のひらにずっしり来るほどの重さだった。長い間からっぽだったそれに少しずつ魔力を入れていく。乾いた砂が水を吸い込むように、魔石は私の魔力を呑み込んでいく。魔石に負けないよう、一定の速度で、ゆっくりと魔力を流す。

ふっと反発が来た時、どのくらいの時間がたっていたか。私は魔石を静かに箱に戻すと、隣を見た。少しだけ汗をかいて、ギルが魔石と格闘している。しかし私とそう変わらない時間で、ギルも魔石を箱に戻した。ギルのお父様がほっとしたように息を吐いた。

「さて、どうだった」

「そうですね」

静かなお父様の問いかけに、私は自分の中に残った魔力量を確かめた。

「三つ、すべての魔石に魔力を入れるのがギリギリ、といったところでしょうか」

「ふむ、11歳でそれはやはり破格の魔力量だな。もう少しいけるような気もするが。ギルはどうだ」

「俺はそうですね、三つ目の途中で倒れるような気がします」

「いい判断だ。自分の魔力量をギルは正確につかんでいるな」

お父様は満足そうに頷いた。そうしてまた別の棚に行くと、今度は小さめの箱を持ってきた。小さい結界箱だろうか。お父様の手元を覗き込んでいると、あっさりと箱を開けて見せてくれた。そこには魔石が三つ。さっきの結界箱の魔石とほぼ同じ大きさで、しかも魔力は入っていない。

「これも結界箱ですか」

「はは、いや、ちがう。これは予備の魔石と単にそれの入れ物だ」

「予備とかあっさり言うけどお前、これだけの大きさの魔石、俺は見たことないぞ」

ギルのお父様があきれたように言った。お父様はにやりとした。最も親しいもの以外には、ほんの少し口の端を上げたくらいにしか見えないかもしれない。

「これを持たせてやろう。これがつまり、リアを探し出したことに対する、ウェスターへの褒賞だ」

「やりすぎだろう! これがどれだけの価値があることか!」

今度こそギルのお父様は大声を上げた。

「うるさいな、お前は」

「だが」

「だが、ではない。たかだか三つの魔石に魔力を充填できない王族に、これだけの魔石を渡してもどうせ宝の持ち腐れだ」

「それならなおさら」

「ギル、ルーク」

お父様はいろいろ言っているギルのお父様を無視して私たちのほうを向いた。

「「はい」」

「いいか、この空の魔石を、ウェスターの王家の前で充填して見せるんだ。やるのはルークがいいだろうな。幼いほうがより効果的だろう。これだけの力がないものが、結界箱を維持し続けるのがどれだけ大変なことか、それでわかるだろう。わからないようなら」

お父様は魔石の入った箱をかちりとしめた。

「ウェスターの王家は、これからずっと結界箱の奴隷となるだけだ」

そしてその箱をギルに手渡した。

「一回目は魔石ごと無料。しかし二回目以降は無償で魔力を充填するなどあり得ぬこと。そもそもどうやって毎回我らを呼び出すというのだ。もっとも、どちらに転んでも、オールバンスは痛くもかゆくもない」

つまり、礼として魔石とその一回分の魔力の充填はしてやってもいい。しかし、二回目以降、その力が欲しければ金を払えと、そう言っているのだ、お父様は。

「辺境は今までも何とかうまくやってきたはずだ。自ら進んで結界の奴隷になりたいものに加担するいわれはない。ルーク、ギル、ガツンとやってこい」

私はウェスターを少し気の毒に思った。魔道具部屋での出来事は、結局お父様は、リアを利用しようとしたウェスターを許してはいないのだと、改めて確認することになったといえる。

しかし、ギルは少し引っかかりがあるようだった。私のお父様に、考えながらゆっくり話している。

「オールバンスについては、リアは必ずキングダムに連れ帰るから問題はないと思う。でも、父様の弟、つまり俺の叔父上にあたる人は、キングダムから逃げるように辺境に行った。つまり、帰ってくる気がないんじゃないかと思うんです」

「そう聞いている」

「父様も、無理に連れ帰らなくていいと言っています。けれど、11歳だというその子供に、俺たちと同じくらいの魔力があったら?」

ギルは真剣な顔をしていた。

「それをウェスターに利用されるのではないでしょうか。18まで待つというキングダムの決まりが、辺境で尊重されるかどうか。そして、18になって、完全にウェスターにしばりつけられたらと思うと」

まだ見ぬ身内にそれだけの思いを抱いているとは知らなかった。だが、仲の良いものにはとことん甘いギルのことだから、子どもだというその身内が気になるのは当然のことかもしれなかった。

しかし私はもっと自分勝手な気持ちでそのものについて気になっていた。

「私は、そのものが、リアにとってなくてはならない存在になっていたらと思うと考えると、どうしたらよいのかと苦しいです」

そう素直に気持ちを打ち明けた。

「つらい時に引き取って一緒にいてくれたという。それも半年間もです。離れたくないとリアが言い出したら……」

私もギルも思わず下を向いてしまった。ウェスターの王家とのやりとりなどなんとでもなる。でも、人の気持ちをどうしたらいいのか、それはとても難しいことなのだ。

「好きなようにしたらいい」

お父様の答えはこれだった。ちょっと冷たいと思ってしまったのは甘えだろうか。

「心配でウェスターに置いておきたくなかったら引っ張ってくればいい。リアが離れたくないというのであれば連れてくればいい。そして望んでウェスターの奴隷となるというなら、そうさせればいい」

お父様が言うと答えは本当に簡単だ。

「要はリアさえ無事に帰ればいいのだ」

「本当に自分勝手な男だよ、ディーン、お前は」

ギルのお父様はあきれたように肩をすくめ、ギルを優しい目で見た。

「ギル、11歳といえばルークと同じ。そしてお前が11歳だった時、自分はどうだったか思いだしてごらん。周りの人に何か言われてその通りにしていたか?」

「していなかった」

「だよな、俺達はこんなもんだ」

ギルのお父様はおかしそうに笑った。

「ルークはリアを大切な気持ちで思うがままに、そしてギルも自分が思うがままに振舞ったらいい。きっとリスバーンのその子だって、思うがままに振る舞うだろうよ」

「それだけの事だ」

「おい、いい所をとっていくなよ!」

そうだ、悩んでも仕方がない。思うがままに、ガツンと行けばいい。明るくなったギルの目が私を向いた。どちらからともなく拳をとん、と当てる。思うがままにやろう。