軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

予想外の出会い(ルーク視点)

ゆっくり休めと言われても、その日の夜にはさっそく食事会があり、その後はパーティとなった。あれだけ集まった貴族の面々を、四侯に会わせずに帰らせるわけにはいかないということなのだろう。

私もギルもまだ社交に出る年ではないので、ダンスなどにさそわれることはなかったが、飲み物を片手に、次から次へとやってくるウェスターの有力者の相手をするのはかなり面倒ではあった。タッカー伯がそばについて面倒なものはさばいてくれたが、お父様がいもしないのに娘をどうかと言われても何の興味もなく、困るばかりだ。

ギルは私よりも年が上なのでさらにそういった話も多くうんざりしているのが見て取れた。

その食事会では驚いたことがもう一つあった。イースターの王族が来ていたことだ。

私もギルも、自分の国の王族とですらそれほど顔を合わせたことはない。ウェスターの王族とも顔を合わせるのが今回が初めてで、ましてファーランドやイースターの王族とは顔を合わせたことなどない。

「ギルバート殿、ルーク殿、こちらがイースターの第三王子、サイラス殿だ」

そう紹介された私は軽く息を飲んだ。話に聞いていたとはいえ、その金髪と黄色い瞳は我が国の王族と近しい色だったからだ。

よく見ると、その色合いが珍しいとはいえ髪の色はむしろウェスターの王族に近い濃い色だし、目の色はと言えば金色というよりパンケーキのような濃い色合いで、違いははっきりしている。それはオールバンスとウェスターほどの違いであり、おそらくキングダムの王族とイースターの王族は元をたどれば同じということになるのだろう。

その色の特徴を除けば、精悍な、つまり男ならこう育ちたいと思うような、武人の雰囲気の漂う青年だった。キングダムの貴族にはあまりいないタイプだ。

「私の弟と同じ、成人して二年ほどになる頼もしい若者だ。商用でケアリーを訪れていたらしいが、たまたま観光でシーベルにも立ち寄ったところ、四侯の訪れの噂を聞いたとのこと。めったにない機会だからと、身分を明かしてこちらに滞在している」

そう紹介したウェスターの第一王子自身は25歳だという。もちろん結婚もしていて、子どもも二人いる。自分の弟と同じ年頃のせいか、サイラス王子には好意を持って接しているのがよくわかる。

私はギルと一瞬目を合わせた。

予定外の事態だ。

そして昨日から薄々感じていたことではあったが、ウェスターの王族は少し、いやかなり、素朴なのではないか。いきなり訪れた他国の王子を信用しすぎのような気がする。お忍び、しかも商用だという。要は勝手にウェスターに入って商売をしていたということである。

現在、国家間のもめごとはない。それにしても、うかつ過ぎはしないか。

ギルも同じように考えていることは伝わってくるが、ここは事を荒立てるべきではない。それにしても、先ほどから、ギルではなく私を見ているような気がするが、なぜだろうか。

私はしぶしぶ目を合わせた。切れ長のやや吊り上がった目は何か面白いものでも見つけたようにわずかばかり見開かれ、同時に薄い唇の端が少し上がった。正直に言おう。気持ち悪い。精悍というより酷薄。そんな印象だ。

「これは、初めてお目にかかる。たまたま来ていたウェスターの地で四侯にまみえるとは私はなんと運がいい」

そのサイラス王子の視線を遮るようにギルが一歩前に出た。

「ギルバート・リスバーンです。こちらこそウェスターでイースターの王族にお目にかかれるとは思いもしませんでした。若輩者ですがよろしくお願いします」

「おなじく、ルーク・オールバンスです」

ギルに続いて私も控えめに挨拶する。軽く頭を下げ、落としていた目線を上げると、目の前に大きな手が伸ばされていた。それが頬に触れようとした瞬間、私は目立たないように一歩下がった。

サイラス王子は伸ばしていた手を自分でも不思議そうな顔で見ると、

「一度手放してしまったものに似ている気がした」

とつぶやいた。気持ち悪い。ギルは私をそっと後ろにかばうと、

「喉が渇いたな。少し飲み物でも飲もうか。それではこれにて」

と、失礼にならない程度に急いでその場を離れてくれた。飲み物をもらって壁際にしばし引っ込む。

「なんだあれは! イースターの王子とか、ちょっと想定外すぎる!」

「まさか結界箱についてのウェスターの依頼を知って来たのでしょうか」

「一応成功するまでは民には秘密にしているはずだ。俺たちが来たのは今回は家族を迎えにということになっているからな。他国の王族が知っているはずはないんだが、ウェスターの王族のこのゆるゆる具合ではな……」

「ちがいありません。サイラス王子が知らずに興味本位で来ただけだとしても、『せっかく来たのだから貴殿も』などと自ら情報を出してしまっている可能性もあります。王族だからというだけであの警戒感のなさはありえないでしょう」

「どう見ても油断のならない相手だぞ」

私達子どもでさえわかる危険性がなぜウェスターの王族にはわからないのか。ちらりと見ると、太った副宰相がにこやかに話しかけていた。

「あれを信頼して迎えに寄こすような王家だからな」

「確かに」

思わず苦笑してしまったのは仕方ないことだろう。

その夜の食事会はそれから特に何もなく終わったのだった。

使者として発つ前、お父様は私に、

「ガツンとやってこい」

と言った。私とギルはお父様に屋敷の一室に連れていかれた。もちろん、ギルの父親も一緒だ。

「これは、俺も初めて見る部屋だな」

「ふん、わざわざ見せるようなものでもあるまい」

そこは魔道具がいろいろと置いてある部屋だった。私も初めて訪れる部屋だ。現在オールバンスの商会で扱っている新しいものもあれば、いつの時代の物かもわからない朽ちかけた魔道具も置いてある。時間があればゆっくり見て回りたいところではあったが、それは後でもできる。

「お父様?」

「うむ、このあたりか」

お父様が棚から下ろしてきたのは、一抱えほどもある大きな箱だった。大人一人いれば十分抱えられるほどではあったが。それをテーブルの上に置くと、かちりと音を立てて蓋を開けた。

「おお、これはまた」

ギルのお父様の声が響く。大きな魔石が三つ、きれいな三角になるように配置された魔道具だった。

「これがおそらく、ウェスターが起動しようとしている結界箱と同じものだ」

私とギルは思わずごくりと唾を呑み込んだ。その横でギルのお父様が肩をすくめて苦笑している。

「それを個人で所有してるってお前、さすがオールバンスというべきか」

お父様はちらりと棚を見上げた。

「まさかまだあるのか」

ギルのお父様の言葉に今度はお父様が肩をすくめた。あるものをつべこべ言っても仕方ないと、お父様の声がしたような気がした。

「どうだ、これほど大きい魔石はあまり見たことがないだろう」

「「はい」」

私とギルは声を揃えた。魔石の訓練もだいぶ進み、個人もちの結界箱の魔石くらいなら軽く魔力を入れられるようになってはいたが、これほど大きい魔石は見たことはない。

「では、今は空のこの魔石に、それぞれ魔力を注いでみろ」

いきなり難題が来た。お父様らしい。