軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

虚族のいないところ

難所を挟んだ町は大きなものだったので、自治機構のようなものもしっかりあったし、トレントフォースよりはずっと王族の影響力があった。王子は手配が残っていると言っていたが、私が起きた時には実質それは終わっていた。その結果待ちで二日ばかりその町に滞在することになったのだが。

「ケアリー方面に逃走したらしいだと……」

調査結果は敵がウェスターの者ではなさそうだという予想を裏付けるものではあった。しかし、その自治機構を利用し、あちこちに使者を出したとしてもそれほど大掛かりに調査できるものではなかった。また、ケアリーにしろ他の町にしろ、いったんキングダムに入られてしまえば追うことはできない。辺境の広さは犯罪の捜査には致命的なのである。

もっとも、辺境では得られる利益も小さい。犯罪を起こすメリットも少ない。

「だからトレントフォースのあたりより、ケアリーや領都のほうがよっぽど悪いやつらが多いのさ」

これはキャロが教えてくれたことだ。

「これが領都であれば、軍を動かせたのだが、機動力を優先して少人数で行動したのが裏目に出たか……」

そんな風に王子がつぶやいていたのが聞こえたので、

「たくしゃん、なんちょ、とおれにゃい」

私は一応気になったことを言ってみた。

「こや、いちゅちゅ。たくしゃん、むり」

だって小屋が五つしかなかったら、いずれにせよ50人しか泊れないではないか。王子は痛い所を突かれたようだ。

「うっ。それはそうだが、この町に待機させておくとか、時間差で通すとか、いろいろあるだろう」

「おかね、かかりゅ」

「ううっ。リーリア、お前なあ」

まあ、私は言いたいことは言ったので積み木でもやりに行こう。それにしても、ファーランドが攻めてきたらウェスターの西部はひとたまりもないと言うことはわかった。

もっとも、どこの国に所属していようと、辺境ではその町その町で暮らしていくしかないのだし、愛国心などないのかもしれなかった。

「なんで幼児がお金の心配まで、まったく」

確かにそうだ。うかつにしゃべらないようにしよう。

そんな風に王子は悩みながらも、領都だけではなく国境の町ケアリーにも使者を出し、経過報告と事件の捜査の依頼を行うなど、精力的に動いた。もちろん、この町でも調査を行い、敵と思われるものが数日前まで堂々と宿屋に泊まっていたことが判明した。

「まさにこの宿屋に泊まっていたそうだ、あいつら」

そのことが分かった時はさすがに王子もかなり怒っていた。泊っていたのは5人ほどらしいが、泊まっていた二週間ほどの間、毎日のように使者が行き来していたという。

「食事も部屋に運んだし、暑いのにいつもフードを深くかぶって顔立ちもわからなくて。怪しくないとは思いませんでしたが、客は客ですから」

宿の親父も困ったようにそう言うだけだったが、どうもやはりウェスターの住人ではないような気がしたという。

手配をすべて終わると、私たちはほんの少しのんびりできたその町をたつことになった。

「ここからは領都まで最短で行けるように旅程を組んである。海も山もないが、町は大きめのものが多いぞ。さあ、出発だ!」

王子の掛け声で私たちはいよいよ領都に向かう。掛け声が長かったのは、私に聞かせるためだと思う。案外親切である。

いつの間にかすっかり秋になっていた草原だが、ウェリントン山脈からも遠ざかり、海の気配もない、どこまでも続くその景色は、まるで金色の海のようだった。

数日そんな中を旅していたら、バートたちが落ち着かないようすだ。

「どうしたのだ。ハンターたち」

この王子様はなかなか名前を呼ばないのだ。

「いや、襲撃のあった後から追手の気配が消えたんだが」

「それは報告を受けているぞ」

王子はバートの言葉に不思議そうだ。

「俺たちケアリーまでは行ったことはあるんだが、この草原地帯は初めてでな」

「だからどうした」

珍しくはっきりしないバートだった。

「虚族の気配がほとんどないんだ」

「虚族の気配だと」

それは私も感じていた。トレントフォースに行くまでも、トレントフォースで暮らしていても虚族は当たり前に存在するものだった。それが難所を過ぎて数日で、肌をちりちりとかすめるようなその気配がどんどん薄れてきていたのだ。

「いいことではないか」

「いいことなんだろう。うん、町にもほとんど虚族は出ないんだろうなあ」

バートたちは新しい町に来るたび、自分たちだけで、余裕があれば私も連れて町をあちこち見回っていた。

「信じられるか。町の新しくできた部分や、貧しい者たちのいるところでは、ローダライトが建材に使われてないところがあるんだぜ」

「そうなのか」

「確かにローダライトはウェリントン山脈に沿ったところでないと採掘はされないが、それにしてもこれは油断しすぎではないのか」

キャロとクライドは大工だから、そう言ったところも気になるのだろう。

「辺境でもこんな場所があるなんてな」

虚族の心配があまりないから、農地も広い。住民は不満なくゆったりと暮らしているように見えた。でも私はバートに抱っこされながら、町にはスラムがあることも見たし、貧富の差はトレントフォースより激しいように感じた。

「まじゅしいひとも、いりゅ」

「それは俺も感じた。ハンターやってて、ケアリーなんかも行って、いっぱしのハンターのつもりだったが、ウェスターだけでもこんなに違うとは思わなかったぜ」

そして難所から領都の中間地点の町に来た時、バートはこう言いだした。

「王子さん、今日、俺たち、町の外に泊ってもいいか」

「何を言い出す。危険だろう」

「いや、追手の気配はこの一週間まったくなかった。それより、虚族がどうなっているのかが気になるんだ」

「俺も行く!」

「りあも!」

アリスターも私も声を上げた。だって、山脈からこんなに離れたところで虚族がどうなっているか気になるではないか。

「お前は! さらわれかけた身で!」

王子は私のほっぺを両手でぎゅっと挟んだ。

「あにをひゅるー」

「王子さんも来ればいいだろ。護衛ごと」

道中あんなに警戒していたバートが軽くそう言った。ハンターの勘が不安はないと言っているのだろうか。

「アリスターもハンターになると言っているのだから連れていく。リアも結界箱を持つ仕事があるから連れていく」

「やった!」

「あい!」

バートも本来ならこんなわがままを言う人ではないのだが、何かが気になるようだった。

バートのこの希望を叶えるため、その日は町の近辺に誰か潜んでいないか大規模な捜索が行われ、やっと狩りの許可が下りたのだった。

「私も参加する」

「王子さんがほんとに来るとは思わなかった」

迷惑な参加者と共に。