軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

難しいことじゃない

「は、はは、まさか」

「本当だ。多分今回も自分で結界を張って逃れた。そうだよな、リア」

やっぱり知らんぷりはできなかったか。

「あい」

私はおとなしく返事をした。積み木で遊ぶ手は止まってしまった。

「リア」

「ありしゅた」

「やる」

アリスターが自分の積み木を押してよこした。

「ありがと」

「うん」

王子は信じられないというように黙り込むと、すぐに、

「四侯だからか! 秘されていた力か! アリスターもできるのか!」

と矢継ぎ早に質問をした。

「俺はできない。まだ」

最後の質問に、まずアリスターが答えた。

「四侯だからかは知らない。けど、リアが言うには、アリスターの結界箱を見て、それで結界の作り方を覚えたらしい」

残りの質問にはバートが答えた。私も付け加えておこう。

「しゅぎょう、ちた」

「ブッフォ」

まじめな話なのに。笑ったのはキャロではなく、護衛だった。笑ったのが自分の護衛だったからか、王子も冷静さを取り戻した。熱くなりすぎたと思ったらしい。

「リアは山側にいた。リアの結界のことを知らないやつらは、きっと小屋までの道を探す。だから虚族の多い山側に逃げた、そうだよな」

「あい。きょぞく、ぶん、ちた。りあ、よあけ、まちゅ」

バートの確認に私はそう答えた。私の答えは、ゆっくり皆にしみとおった。その間、アリスターは静かに積み木を片付け始めた。私も、ラグ竜の小屋を崩して、片付けを手伝う。

「つまり」

王子がぽつりと言った。

「結界を張れる力はあくまで付属」

誰も何も答えない。

「夜明けが近く、結界箱を持っている利点を生かせなくなった時、敵が撤退せざるを得ないことを踏まえ」

少し声が震えているかもしれない。

「自分の力を最大限生かせるよう、敵を欺き、山側に逃げる判断力。そして、虚族の群れる中一人で耐える胆力」

そう聞くとかっこいいな。

「しかも、小屋にいる全員を守った決断力」

王子は私を得体のしれないようなものでも見るかのように見た。

「お前、何者だ」

思わず漏れた言葉なのだろう。確かに気持ち悪いよね。だけど、その力を発揮せずに済む幼児生活だったらどんなによかったかと、自分だって思ってる。

「ひゅー」

私が静かにそう呼ぶと王子ははっと目が覚めたような顔をした。

「りーりあでしゅ」

「リー、リア」

「あい」

その時、かちっと最後の積み木を箱にはめる音がした。その音で他のみんなもはっと我に返った。

「俺、今回さ、自分のことばかりで、子どもっぽくて」

アリスターは積み木の箱のふたを閉めながらそう話し出した。

「それじゃダメなんだ、やっぱり早く大人にならなくちゃいけない、そのためには嫌な大人からだって学ぶことはあるだろうって思ったんだよ」

アリスターはよっと立ち上がると、私に手を差し出した。私はアリスターの手を取って、立たせてもらった。

「でもやっぱりやめた。大人なんて、ぜんぜんわかってない。大人が守ってくれないなら、自分で自分を守るしかないんだ」

その言葉に、王子側の大人はばつの悪そうな顔になった。

「リーリアは、リーリアだ。俺も守れなかったが、大人だって守れなかった。でも少なくとも俺は、リアの心は守れるよ」

アリスターは優しい目で私を見た。気味の悪いものを見るような目ではなく。

「さあ、食堂に行って、みんなと遊ぼうか」

「あい」

「さあて、俺も行こうっと」

ミルがそう言うと、バートたちも立ち上がった。

「王子さん、護衛のみんな、さっきの誓いは守ってくれよな」

バートのその言葉と共に、クライドが黙って積み木を二箱ひょいっと持った。そのまま私たちは、王子の部屋を出たのだった。もっとも、アリスターと私の護衛はちゃんとついてきたが。

「リア、大丈夫か」

「あい、だいじょぶ」

バートがそう心配してくれるのに、ミルは、

「まあなあ、リアはちょっと変だもんなあ」

などと言っている。失礼な。キャロとクライドも仕方がないなあと言うように笑っている。

そう。正直に言おう。

「りあ、ちょっと、へん」

「ぐはっ」

「ありしゅた……」

思わず噴き出したのはアリスターだ。さっきはいいこと言ってたのに。なんだかわからないけど、おかしくなって、みんなで笑いながら階段を降りて、心配していた階下の人たちを安心させたのだった。

その後少ししてから王子たちも降りてきた。

私は別に王子の言ったことは気にはしていない。変な幼児なのには違いないし、自分が悪いのでなくても、迷惑をかけているのには違いないのだから。

「リーリア」

「あい」

「リーリア」

「あい」

「リーリ」

「ひゅー」

いい加減にしてほしい。一言ごめんなさいと言えばいいことだろうに。どうしていいかわからない顔で、名前だけ呼ばれても困る。仕方がない。

「ひゅー、りあ、おこってる」

本当は怒ってなどいないが、腰に手を当ててぷん、として見せた。女優だ。はい、そこ、笑わない。後ろでキャロがお腹を抱えている。

「そ、そうか」

そうかではない。まったく王子は手がかかる。この後何をしていいかさえわからないのだ。

「ごめん、ちて」

「あ、ああ」

「ひゅー」

王子はごくりと何かを呑み込んだ。

「リーリア」

「あい」

「すまなかった」

「あい。もういいでちゅ」

それだけのことだ。私はふん、と鼻息を吐いた。王子はそっとしゃがみこむと、私の頭をぽんぽんとした。

「リーリアは、こんなにかわいいのにな」

「……あい」

一応返事はしたが驚いた。王子も自分の言ったことにはっと気が付くと慌てて立ち上がった。

「いや、違う! 違わないが、そうではない!」

訳の分からないことを言って、

「さ、まだ捜索の手配が残っていた。行くぞ!」

とどこかに去っていった。

「結局落ちたな」

「落ちたな」

キャロとクライドだろうか。

「大人ってしょうがない」

アリスターが肩をすくめた。本当だよ、まったく。