軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

草原の虚族

ラグ竜で走れば町まですぐのところに、拠点を置く。これは私のためだ。普段の狩りは結界箱を使わないので、ラグ竜をすぐそばに置き、見張りと移動を繰り返しながら交代で虚族を狩る。

私たちの結界と接するように、王子たちも隣に拠点を作ってある。

「今回は効率よく狩るためじゃねえ。ここら辺に虚族がどう現れるのか、どのくらい現れるのかを見ておきたいんだ」

バートは日が暮れるのを横目で眺めながらそう言う。

「ほんとにこんな薄い防御の町でやっていけるのか。それが知りたい」

そうつぶやくバートに答えられるものは誰もいない。正確には、「大丈夫だ」と町の者は言うが、直接見るまでバートは信じないということだ。

完全に日が沈んだ。トレントフォースなら、もうこの時間は活発に虚族が現れているが、ここではまだ現れない。

「山脈から離れるとここまで違うのか……」

ぽつりとキャロがつぶやいたのは、何も出ないまま時間もだいぶ過ぎたころだった。いや、どうやらまったく出ないわけではないらしい。

私がハッと顔を上げると同時に、アリスターの体も動いた。

「海側からだ!」

その声にバートたちも海側に目をやった。

ヴン、とかすかな音と共にずいぶん遠くに虚族が姿を現した。

「遠い、が、どこから出てきた。普段奴らは、山脈のそばから湧き出るように姿を現すのに……」

その虚族はまるで地面から湧いて出るように姿を現した。

「あとで出現部分を確認してみないと……」

キャロが出てきたと思われるあたりを凝視している。ヴン、ヴン、と、虚族は数を増していく。

「おかしい、普段はこんなに虚族が出たことはないのに」

こうつぶやいているのは、町の代表の一人だ。王子だけを町の外に出すわけにはいかないので渋々ついてきた中年の人だった。

「ふむ、虚族の被害は」

「年に数人と言ったところです。旅人まではわかりませんが」

「じゃあさあ」

そんな町の人と王子に、ミルがのんきな声をかけた。

「この町のそばで狩られた虚族はどのくらいいるんだ?」

「そんなもの。ハンターがいないのに狩るわけがない」

その町の人に反応したのはキャロだ。

「町の人がやられたのに虚族を狩らなかったのか?」

「町の人といっても働きもしないスラムの住人だ。ここは辺境だぞ。町の外縁に住みついている奴らの面倒までは町は見られないよ」

その町の人の一言は私にとっては衝撃だったが、王子たちにとってはそうでもなかったようだし、バートたちも視線を虚族に戻しただけだった。アリスターはただ手をぐっと握りしめていた。

でも、

「そんなことだろうと思ったぜ」

とキャロが小さな声でつぶやいた。虚族は次第に近付いてきて、ついに結界のそばまでやってきた。

「なんて生々しい」

町の人の言うように、それは今まで見たどの虚族より姿がはっきりしていた。大人だけでなく、子どももおり、そのどれもがやつれて、くたびれた服を着ていた。

「はんな」

「リア?」

私は思い出していた。初めて虚族を見た時、ハンナは表情こそなかったが、なくなる前のそのままの姿で私の前に姿を現したことを。

ということは。私はちらりとバートを見た。

「まじゅしいひと、やられた」

「そのとおりだろうな。胸糞悪い」

被害は少ないのだろう。だが、少ない虚族は確実に獲物を手に入れていたことになる。観察している私たちにじれたのか、虚族が一体町に向かい始めた。

「ああ、虚族が町に!」

悲鳴のような声が町の代表者から漏れる。

「しかたねえ、やるか。ミル!」

「はいよー」

キャロ、クライド、アリスターがしっかりと結界の外を見張る中、バートとミルの二人で少ない虚族をあっさりと倒してしまった。周りにはもう一体も虚族はいない。

倒した虚族の魔石を拾うと、バートは一瞬目を見開いたが、すぐに何気ないようすで戻ってきた。

「王子さん、今日はこれでもうおしまいだ。なあ、町の代表さん」

バートは王子に撤収の意思を示すと、そこにいた町の人に話しかけた。

「今見ていてわかったろ、人がいるとわかれば、近くの虚族は寄ってくるんだよ。これで大きい虚族は一通り狩れたと思うが」

「あ、ああ」

町の人は虚族を見た怯えが去らないようだ。

「あんたたちがどうでもいいと思ってる人を適当に扱っていると、町に虚族が寄ってくるってことだぞ」

ピンと来ていない町の人にバートはため息をついた。

「あとは王子さんの仕事だ」

「わかっている」

ずっと無表情だった王子が周りに合図すると、一斉に片付けが始まった。ヴン、と遠くでかすかに虚族の気配がする。遠くを透かすように眺める私とアリスターを、町の人は気味悪そうに見ていた。

「ウェスターでも、こんな地域があるとはな」

「少なくとも俺たちの仕事はないわな」

バートとキャロは話しながらラグ竜に乗った。私は当然最初にかごに入れられている。

次の日、王子は非公式で町長と会見を持ったらしいが、何を話したのかは知らない。ただ、新たな虚族が出てくる前に、町の人全員が守られるといいなと思ったことは確かである。

次の町に入った時、バートは私とアリスターに虚族の魔石を見せてくれた。私とアリスターはそれを見て思わず息を吸い込んだ。

「おおきい」

「なんだこれ」

私がいままで見た中で一番大きい魔石は、町長の家で見た結界箱の魔石だ。アリスターの結界箱の魔石より一回り大きかった。しかし、バートが手に持っている魔石はそれよりさらに大きい。

「俺もハンターをやっていて、こんなに大きい魔石は初めてだ。正直なところ、虚族の少ないこんな土地で、でかい魔石が取れるとは思いもしなかったよ」

バートは大きい魔石を手に入れたのに浮かない顔だ。

「これをどうすべきか、悩んでるんだ」

「売ればいいのに」

素直なアリスターにバートは肩をすくめた。

「どこで狩ったって話になるだろ? 秘密だって言っても、俺たちが通ってきた経路は知られてる。ハンターがここら辺に押し寄せるのは構わねえ。けど、いや、考えすぎだな」

バートはちょっと上を見上げた。

「こんだけの大きさ、結界箱以外に使い道がねえ。売れるかどうか、逆にわからないしな」

そう言って握りしめた魔石は、手のひらに収まりきらなくて、指の間からきらめきが漏れていた。

「ひゅーに、あじゅける」

「リアはそう思うか」

「めんどうなこと、いりゃない」

「王子に押し付けろってか、はは、そりゃいいや。ついでに金ももらってくるか」

そうは言ったが、バートは魔石を預けなかった。その代わり、7個あった大きな魔石を仲間一人ずつに持たせた。私の分は、ミルがラグ竜の綿を少し抜いて、ポシェットの中に詰めてくれた。案外器用な人なのだ。

ちょっとコロンとしたポシェットになり、重くなったが、いずれにしろ私がラグ竜に何かを詰め込んでいることはみんな知っているから、またリア様が何かやっているくらいにしか思われずに済んだ。

その後バートはどんなに請われても、途中の町では一切虚族は狩らなかった。