軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

新しい同行者

「まさか、キングダムの王族と四侯が国境を越えただけではなく、ここハルフォード、そしてグレイソンまで訪れることになるとは思いもしませんでしたが」

領主が落ち着いた声で見送りの言葉を述べている。

「それはそれとして、グレイソンの災害を放置しておけば、いずれ隣の領であるここハルフォードにも影響がある。なにより、友の困窮を見捨てることなどできはしません。特に、カルロス殿下が動いたとなれば」

今回、私たちは、大人の話にまったく交じることなく、子どもとして過ごしていたため、ハルフォードとマークの間で、どんな話し合いがもたれたのかは知らない。

だが、この領主の言葉で、ハルフォードがこの災害についてどう考えているのかだけでなく、グレイソンとの関係や、カルロス王子派に立っていることもはっきりと伝わってきた。

「我が国のことでありながら、キングダムの方々のほうが心を砕いている現象に忸怩たるものはあります。せめて、この者をハルフォードの気持ちとしてお連れください」

領主の言葉と共に前に出てきたのは、旅装に身を固めたシエナだったのには驚いた。

「非力ながら、グレイソンのために精一杯、働く所存です。よろしくお願いいたします」

髪もきりっと高いところで結っていて、やる気十分である。

「いや、ですが、長旅ゆえ、レディには少々荷が重いのでは……」

「五歳と三歳の子どもが耐えている旅路です。大人である私に耐えられぬわけがありません」

断ろうとするマークもたじたじである。

「シエナはこう見えて、ヘイリーと共に、領内の仕事をよくこなす活発な娘です。足手まといにはなりませんよ」

「足手まといになることを心配しているのではありません」

マークが強く言い返す。

「ここまではなんとか宿を確保してきましたが、進み方によっては野宿もないとは言えません。我らは経験があるゆえ虚族に対処はできますが、あなたは女性でしょう。万が一にも傷をつけるわけにはいきません」

正直、グレイソンに行く仲間の中で、キングダム一行で、虚族に一番対処できない人はだれかと問われたら、マークと答えざるを得ない。

結界をうまく作れるか作れないかではなく、虚族に対する経験がほとんどないからだ。

それなのに、堂々と対処できると言いきっていたのには噴き出しそうになってしまう。

もちろん、これまでの旅程の間に、マークには虚族と接する体験はさせてきた。

グレイソンで役に立つためには、虚族に対する経験が必要だということはマークもわかっていたので、いやいやではあったが、ちゃんと前向きに取り組んでいたのは確かだ。

だが、私は知っている。

たとえ辺境に住んでいたとしても、その大半は、虚族の実態をほとんど知らない。

当たり前だ。

安全なところから虚族を見られる環境がそもそもない。

キングダムの結界の端っこに入っているトレントフォースは例外として、結界箱を持っている狩人でなければ、夜に外に出ることはすなわち虚族に襲われることを意味するからだ。

つまり、狩人か特殊な訓練を積んだ人でなければ、辺境の人であっても、対処できないということになる。

シエナはどうだろうか。

「私はハルフォードの領主一族として、剣の訓練も積んでいますし、虚族を倒した経験もあります」

シエナは胸を張った。

「マーカス殿は、初めて辺境に出たと言っていたではありませんか。ここに来るまでに訓練を積んだとしても、その期間は短く、もともと辺境暮らしの我らと同じくらい虚族に対処できるとは思えません」

マークはぐっと口をつぐんだ。

シエナにやりこめられたのではない。

たとえ虚族に対処できなくても、マークには結界箱があるだけでなく、私が作った結界ラグ竜を所持しており、身一つで虚族の中に放り込まれたとしても、まったく問題がない。

しかも、自分一人で結界を作り出すことができるから、一晩くらいはそれで頑張れる。

だが、どれも機密事項なため、こんなにたくさんの人がいる前で、それを口に出すことはできないせいで、口をつぐむしかなかったのである。

まあまあという口調で、領主がとりなした。

「マーカス殿。キングダムのお子様方を守れる自信があるということであれば、それにシエナも加えてくださればよいだけのこと。道中はともかく、グレイソンに着いた時に、シエナの存在は必ずお役に立つことでしょう」

「賛成できません! シエナ殿には、安全でいていただきたいのです」

私はちょっと口を尖らせた。

私も小さいとはいえ、ご婦人である。

私にも、安全でいてもらいたいとは思わないのだろうか。

「リア様もご婦人ですけど」

シエナがぐっと顎をあげて私を指し示した。

「リアは! いざとなれば私が守ってもらおうと思えるほど強い子です。あなたとは!」

比べ物にならないと言いたかったのだろうが、さすがに言い過ぎたと思ったのがマークは口を閉じた。

だが、本当に言い過ぎである。

マークは子どもであっても女性であっても、その力を素直に認められるくらい偏見のない人だが、いざというとき私に守ってもらおうと思っていたとまでは思わなくてちょっとあきれた。

だが待ってほしい。

マークは、女性だからと言って偏見は持たない。アンジェでもフェリシアでも、仕事をしている女の人を、城の人たちみたいに、女性だからと侮ったりするのを見たことがない。

ならばなぜ、シエナが来ることに反対するのか。

にやり。

「リア、どうした。わるいかおをしているぞ」

「しつれいでしょ。いつもどおり、あいらしいかおでしょ」

さといニコは置いておいて、私はわかってしまった。

つまり、マークには季節より先に、春が来てしまったということなのだろう。

好意を持っている相手を、危険な目に合わせたくはない、わかります。

あれ、私は危険な目にあってもいいのかな、ということはともかく、他人のことなどたいして興味のないマークがこれほど必死になるのは珍しいとは思う。

「リア様に守ってもらう? そんな情けない方に、安全を語る資格はありません!」

「シエナ! 黙りなさい。お前は一行についていく身だぞ。立場をわきまえよ!」

シエナも言いすぎて、領主に叱られてしまった。

仕方がない、ここは私が一肌脱ぐしかない。

「マーク、リアはシエナにいっしょにきてほしい」

「リア! だが」

「マークはフェリシアがきたいっていったら、はんたいする?」

私はマークに冷静になってもらいたかった。

「それは、しない、だろう」

虚族への対処の経験がなかったとしても、誰かがやりたいと言ったことは尊重する。

たとえ女性であっても。

それがマークであるはずなのだ。

「シエナはきたいっていってる。だったら?」

「……。リア、わかったよ」

マークは、はあとため息をつき、シエナに向き直った。

「シエナ、感情的になりました。申し訳ありません」

「いえ、こちらこそ失礼なことを」

お互いに気まずそうだ。

「では、グレイソンまで、どうぞご一緒に」

マークが引いた。

「ご迷惑はおかけしません。よろしくお願いいたします」

こうして、シエナが一行に加わることになった。