軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

遊ぶ

「父上。この子たちをかえしたら、またつらいりゅうしゃのたびに行かせるのですか」

守るように前に出たのは、私たちを連れてきた男の子だった。

そういえば、遊ぶのに夢中で、名前すら聞いていなかった。

「わたしは、りょうしゅの子として、みなをみちびかねばならないと、五才のたんじょうびに父上におそわりました。それでも、父上や母上とはなされて、ずっとりゅうしゃにとじこめられるような、つらいことをしたことはありません。どうして、この子たちだけが行かなければならないのですか」

「それは……」

ヘイリーは困った顔のまま、言葉に詰まる。

そのまま、ニコとわたしに交互に目をやり、大きく目を見開いた。

自分の息子にだけでなく、私たちにもなんと説明したものかと悩んだのだろう。

だが、彼が見た私たちは、つらい公務に嘆く幼児ではない。

寒風の中走り回って赤らんだ頬に、笑みを浮かべているキングダムの王子様とお姫様である。

「ヘイリーどの。気にせずともよい」

ニコは一歩二歩と足を前に進めると、ヘイリーの横に立ち、私を手招きした。

「リア、こちらへ」

「はい」

私もニコの隣に足を進め、一緒に遊んだ子どもたちの向かいに立ち、にこりと微笑んで見せた。

「みんな、あそんでくれてありがとう。こんなにたのしかったことはひさしぶりだ」

そう話したニコの顔には笑顔がうかんでいる。

「だが、わたしはとらわれの王子ではない」

私は思わず噴き出しそうになった。

ニコにとって、ここは外せない大事なポイントなのだろう。

「父上や母上とはなれるのはさみしいが、わたしはみずからのぞんで、ここファーランドのちにおとずれている。りゅうしゃでは、たしかにたいくつなじかんもある」

一人でマールライトを変質している時だよね、と心の中で突っ込みを入れる私である。

「だが、行くときめたのも、わたしじしんだ。気にすることはない」

男の子は、今度は私のほうを見た。

「わたしがりょうしゅの子なように、きみは王子だから、やらなければいけないこともあるだろう。けど、いもうとはそうじゃない。だったら、その子にはむりをさせているんじゃないの?」

私のことも心配してもらってちょっと嬉しい気持ちである。

「リアは、カルロスでんかのおともだちなの。おともだちのいるファーランドにくるのはとてもたのしいから、だいじょうぶなの」

そうしてにっこりと微笑んだ。

「でも!」

まだ心配そうな男の子に、ニコは静かに話しかけた。

「マークがな。マークとはそこにいる、四こうの一人、マーカス・モールゼイのことなのだが」

いきなりの話に、男の子が黙り込んだ。

「かえりもここによれたらいいね、というのだ。そして、ゆっくりできたらいいとな」

「かえりに、ゆっくり? また来るの?」

「そうだ」

男の子の顔がぱあっと明るくなった。

「そのときのために、たがいの名をしろうではないか。わたしはキングダムのだいいち王子がちょうし、ニコラス・キングダムだ。ニコとよんでくれ」

「ニコか! わたしは」

男の子はかしこまって胸に手を当てた。

「ヘイリー・ハルフォードがちょうし、ダニエル・ハルフォードだ。ダンでいい」

「そしてこちらのレディが」

ニコが私のほうに体の向きを変える。

「リーリア・オールバンス。四こうがひとつ、オールバンスけのちょうじょで、わたしの学友でもある」

「リアってよんでね」

私はまたまたにっこりと笑顔を振りまいた。

「ジェシカは、ジェシカなの!」

「ダンとジェシカ。おぼえたよ」

それからは次々と子どもたちが自己紹介してくれた。

鍛冶屋の子、宿屋の子、屋敷に勤めている使用人の子、覚えていられないくらいたくさんの子どもたち。

「またあそぼうな!」

自己紹介が終わると、ダンとジェシカ以外は、さっと潮が引くようにいなくなってしまった。

叱られなくてほっとした私である。

「さて、マーク。はなしはすんだだろうか」

年相応だったニコの顔に、大人びた雰囲気が戻ってきた。

「ああ。明後日にはグレイソンへ向かうことになったよ」

「それはよかった」

行くならば、なるべく早い方がいい。

ハルフォードは第一王子派と聞いていたが、グレイソンに行くのを素直に認めてくれて助かった。

ニコの持っていく大きな結界箱で、少なくとも虚族におびえる暮らしからは解放されるからだ。

「ませきのことはきいてくれた?」

「ああ。手持ちを必要な数だけ譲ってくれるそうだ」

「よかった」

これで小さい結界箱に足りなかった魔石がなんとかなる。

マークと言葉を交わす私たちを見て、領主がほうっと大きな息を吐いた。

「シエナからは、雲間から差す光のようにまばゆく、賢い子どもたちだと聞いていたが、どうやら本当のようだな。たったこれだけで話が通じるとは」

そもそも、マークがやるべきことは、そんなに多くなかった。

領都ではなく、グレイソンへ向かうことを認めさせ、できるだけ早く出発すること。

ネヴィルで足りなかった、小さい結界箱用の魔石を手に入れること。

最低限、その二つがかなえばよくて、グレイソンに対してさらなる支援を得られればなおよいというくらいだった。

「ちょうど二回目の支援を送ろうとしていたところらしくて、予定を少し早めて、私たちと一緒に行ってくれることになったよ」

さらなる、とはいえないかもしれないが、支援も早めることができたのなら、いうことはない。

「その準備と、それから、さすがに丸一日は君たちを休ませた方がいいってことになったのさ。もちろん、私もね」

「じゃあ、あしたもあそべるね!」

私はぴょんぴょんと飛び跳ねた。

「おいおい、ちゃんと聞いていたかい? 休む日だっていったよね」

「うん。だから、あそぶ。だって、あそんだほうがこころもからだもげんきになるもの」

大人になったら、お休みの日はゆっくり休んだほうがいいのかもしれない。

だが、子どもは遊んだほうがリフレッシュできる。

現に、今の私は、遊んだせいで心の底から元気が沸き上がってくるような気がする。

ニコが私の隣で、胸に右手を当ててみている。

「ふむ。なるほど、あんなに走り回ったのに、あさよりも、ずっとここがわくわくするし、体もげんきだ。あそぶのはだいじなんだな」

「だいじ。ねえ」

私はダンとジェシカのほうに振り向いた。

「あした、おひるごはんをたべたら、またあそんでくれる?」

「もちろん!」

「あそぶ!」

二人からいい返事が返ってきた。

「でも、なんでおひるごはんのあとなんだ? あさからあそんでもいいのに」

ダンの質問はもっともだが、私はちょっと困って首を傾げてしまった。

結界箱用の魔石の変質をしなければならないのだが、仕事があると言ったら、心配させてしまうかもしれない。

だが、マークが代わりに優しい嘘をついてくれた。

「お昼の前に、ゆっくり体を休めるようにだよ」

「そうか。それじゃあ、あしたはみんなといっしょだけど、きょうのよるは、いえの中でわたしのおもちゃをかしてやる」

「ジェシカのぬいぐるみもかしてあげる!」

「ううん……。ニコとリアには相談したいことがあったんだが……。まあ、なんとかなるか」

マークの許可が出たので、その夜も次の日も、そして出発の日の朝まで、私たちはたくさん遊ぶことができた。

積み木をしたり、おままごとをしたり、ぬいぐるみやお人形に着せ替えをしたり。

もっと小さい頃、トレントフォースでエイミーと遊んだことを懐かしく思い出す。

その頃よりだいぶ成長しているはずなのに、なんなら中身は大人だったはずなのに、ただ友だちが隣にいて、小さい手で人形に服を着せるだけのことが、今でもこんなに楽しいのはいったいどういうことか。

カルロス王子と再会してからは、常にそれを考え続ける毎日で、自分が思うより疲れていたのかもしれない。

これから先、どうしようか、何をしたらどう誰の役に立つのか。

そんなことをかけらも考えずに遊ぶことが、心をだいぶ緩めてくれた気がする。