軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

外交開始?

町までの短い間、私たちは改めて竜車に乗った。

本当は久しぶりのシエナと一緒にラグ竜に乗りたかったが、幼児を竜に乗せるのに慣れている人はそうはいない。

オールバンスのお父様と兄さま、それにリスバーンのギルくらいだろう。

竜車の窓から見える町並みは、ネヴィルよりはトレントフォースに似た作りで、列に連なる私たちの竜車を目にして、立ち止まって眺める人々の顔は明るかった。

「まどが小さい。やっぱり、きょぞくのいるまちなんだな」

私のつぶやきにニコが頷く。

「だが、町の人のかおをみるがいい。めずらしいりゅうしゃを見て、たのしそうにながめているぞ。民がげんきなのはいいことだ」

「うん」

ウェスターでもいろいろな町に行ったが、どの町にもいろいろな特徴があって、それでも人々の顔は明るかった。

「意外だったよね。夜に出歩けないということは、一日の半分しか使えないということだからね。情けないことだが、辺境では、家に閉じ込められた、陰鬱な空気が漂っているに違いないと思っていたんだよ」

四侯の役割とはすなわち、夜を虚族から取り返すことだとも言える。

その取り返した夜がなくても、人々は明るく生きることができる。

「四侯が必要ない国もあるんだね。私にとって、不思議なことだよ」

マークの感想に、私はとっさに頷くことができなかった。

だって、レミントンの当主、アンジェは、必要とされたからイースターに加担したのではなかったか。

ファーランドだって、ウェスターだって、四侯が存在したとしたら、それを利用しようとするだろう。四侯が必要ない国なのではなく、四侯がいないから仕方なく、いないなりの暮らしをしているのだ。

ふと、背筋が寒くなるような気がして、プルっと震えが走る。

「あったかラグりゅうをせなかに回したらどうだ」

「そうする」

気遣いできる幼児のアドバイスに従って、上着の下のあったかラグ竜をもそもそと移動させた頃、竜車がゆっくりになり、止まった。

どうやら領主館についたようだ。

「さあ、外交のスタートだ。まずはいかに滞在を短くしてグレイソンに向かうか」

すっと立ち上がったマークが頼もしい。

そのマークは、見上げる私たちに首を傾げて見せた。

「その代わり、帰りに少しゆっくり滞在できるといいね」

正直、帰りのことなんて考えもしていなかったが、帰りはきっと、余裕があることだろう。

張り切って一番最初に竜車を出たマークの後に、私たちは竜車から外に出た。

マークが出た時に息をのんだ観衆は、ニコと私が姿を現した途端、ほうっと大きく息を吐きだした。

そして私たちの目の色が見えた途端、おおっというどよめきが走る。

目の前には領主夫婦らしき二人の中年の男女、使用人、取り囲む町の人たちがいる。

注目されるのには慣れている。

だが、私の目を引いたのは、シエナと同じ、小麦色の髪と緑の目をした、二人の子どもたちだった。キングダムでは、同世代の子どもとはほとんど触れ合うことがないからだ。

しかも、兄妹で、上の子はニコくらい、下の子は私くらい。

少し警戒心が混じっている気がするが、好奇心が隠せない目がキラキラしている。

そして、私たちの目が同じようにキラキラしているのがわかったのか、パッとお日様が差すような笑顔を浮かべたのが見えた。

「父上、こちらが……」

「父上!」

ヘイリーが領主に、私たちを紹介しようとするのをさえぎったのは、上の子だった。

とても失礼なことだし、すぐに叱責の言葉が飛びそうな雰囲気も飛び越えて、その子はニコニコとヘイリーに許可を求めた。

「子どもはわたしたちがおあいてしますね!」

「だが、まず」

「さあ、行こう!」

許可を求めたようでいて、求めていなかった。

その子は私たちのもとにぴゅっと走って来て、ニコの手を握り、走り出した。

私もつられて、ニコの後を追って走り出してしまった。

これはラグ竜の暴走に巻き込まれるより難儀なことだと思いつつ、状況に付いてこられない下の子を拾うのは私の役目だろうと、走っている途中で手を差し出した。

「行こう」

「うん!」

ニコと男の子、私と女の子。視線の高さは一緒。走るとぴょこぴょこ跳ねる髪の毛も一緒。

ちらりと後ろを見ると、少し距離を取ってハンスが付いてきているので、危険はないと判断されたのだと安心する。

ニコと男の子が、領主館の家の角を曲がると、こじんまりとした庭園に出た。

敷地内だけれど、表からは見えず、人目を気にせずに済む場所だ。

そこには何人もの子どもが待ちかまえていた。

もう少し大きかったら、私も警戒したかもしれない。

だが、大きい子も小さい子もキラキラとした目をしているのを見てしまっては、無駄に警戒するのも馬鹿らしく思われた。

「とらわれの王子さまとおひめさま、つれてきたぜ!」

「つれてきたわ!」

私は困った顔のニコと目を合わせると、人差し指を口に当てた。

わかっている。

ニコも私も、とらわれの王子様とお姫様ではないし、連れられてきたのでもない。

むしろニコは付いてきてあげたのだし、私に至っては、女の子を連れてきてあげたのだ。

「まだ子どもなのに、せいじのために、とおくからつれられてきたんだろ! おれ、きいたもん!」

ニコと手をつないだ男の子がそう言うと、リアと手をつないだ女の子ももっともらしく頷いた。

「りゅうしゃで、なんにちも、なんにちもかかるんだって。そのあいだ、おとうさまともおかあさまともあえないんでしょ」

私は途中まではお父様と兄さまと一緒だったけれど、確かにニコは、ずっとお父様とお母様と離れているなと気がついたところで、その子の目に涙が浮かんだ。

「おとうさま、おかあさまがいないの、さみしいでしょ。ぐすっ」

「だいじょうぶ、だいじょうぶだから」

私は慌ててその子の両手を握って、ぶんぶんと上下に振った。

「もともとおかあさまはいないし、お父さまとはなれるのは、なれてるし」

「おかあさま、いないの? うわーん!」

「しまった! よけいなことを! どうする、わたし」

正直、自分と同じか自分より小さい子には慣れていない。

私は、何かないかと自分の体をパタパタと探ってはっと気がついた。肩掛けラグ竜は大事すぎて貸したくないが、上着の下のあったかラグ竜ならなんとかなる。

「よし、えいっ!」

急いで上着を脱ぐと、皆にびっくりした顔をされたが、仕方がない。

「はい、これ」

背中に回していたあったかラグ竜は、まだほかほかである。

「なあに? ぐすっ」

「ラグりゅうのぬいぐるみだよ。ほら、大きさはちがうけど、リアとおそろいだよ」

女の子は袖で目をぐしぐしとこすると、おそるおそる小さなラグ竜のぬいぐるみを手に取った。

「あったかい……」

「あったかいし、かわいいし、おそろいだよ」

いいことが三つそろったら、泣き虫さんもにっこりのはずだ。

「リア、うわぎをきなさい」

慌てて脱ぎ捨てた上着を、ニコが拾って着せかけてくれた。

安定の紳士である。

「やっぱり王子さまだ……」

「やさしいお姫さまだ……」

わあっと集まってきた子どもたちにに驚きながらも、女の子を見ると、すっかり涙は乾いていた。

「なんだかよくわからないが、あいさつはあとでいいか」

「いいとおもう」

この子たちは、どうやら大人の話を聞いて、私たちの境遇に憤ってくれていたらしい。

なんだか嬉しくなったニコと私は、この嵐のような状況に巻き込まれることにした。

「わたしはとらわれてなどいないが」

これだけは言いたかったのだろう。

「りゅうしゃはせまくてたいへんだった。体をうごかしたいものだなあ」

ニコのへたくそな演技に笑い出しそうになる。

「じゃあ、鬼ごっこをしようぜ!」

「しようぜ!」

誰が鬼になるかひとしきりもめた後、子どもたちはいっせいに走りだした。

もちろん、ニコも私もである。

庭の木の陰に隠れ、時には木にも登り、小さい子を鬼にしないよう、気を使ってくれる大きい子どもたちと一緒に走り回った時間は、とても楽しいものだった。

ネヴィルにいるときも、時には町に通い、時には国境際に出かけたりはしていたが、それはあくまで公務のようなもの。

歩いて行ける距離をしずしずと、あるいは竜車で移動し、残りの時間はじっと座ってマールライトを変質していただけ。

自分でも気がつかないうちに、運動不足になっていたようだ。

思いっきり体を動かすということは、これほど気持ちのいいものだっただろうか。

いや、たとえ話はしなくても、同じくらいの年の子が回りにたくさんいるというだけで、こんなに心が浮き立つものだっただろうか。

息切れがするほど走り、大きな声で笑っているところに、静かな声がかかった。

「そろそろ、客人を返してもらえないか」

それは困ったような顔で微笑んでいるヘイリーだった。

後ろにマークや、領主館の人たちも控えている。

子どもたちを叱る様子がなくて、ちょっと安心した私である。