軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

プレゼンする幼女

「そうか、俺はニコ殿下ともアルとも一緒の部屋でいいのか」

「いや、俺はいいだろ、別に」

速攻でアリスターに断られていて笑ってしまう。

「いや、お前は俺の叔父だし、同室でも」

「今はニコ殿下の話だろ」

兄さまもギルも動揺しているのか、珍しくすぐ脱線してしまう。

「そうだな。そうだ」

ギルは自分に言い聞かせるかのように繰り返した。

「ニコラス殿下。忙しかったとはいえ、先々の予定を話しもせず申し訳ありませんでした。俺も夜一人では寂しいので、一緒の部屋で過ごしてもらえませんか」

ニコと一緒ということは、ニコの護衛も一緒ということだ。正直なところ、一六歳のギルには窮屈なことだろう。それでもちゃんとニコのことを考えられて偉いと思う。

「ニコ殿下。私もです。たまにならリアとの同室を譲ってもかまいません」

「ギルはごうかく。にいさまはしっかく」

「そんな……」

私の判定にガクリとうなだれる兄さまと得意げなギルとを交互に見て、ニコはこくりと頷いた。

「わたしは一人でもだいじょうぶだ。だが、ギルやリアといっしょも、きっとたのしいだろう。へやわりはまかせる」

ということで、さっそくギルと同室ということになったニコである。

大人は今日の振り返りと明日の相談があるから食堂に残ったが、いわゆる小さい方々はニコの客室に集まった。

といっても地方の町では、せいぜい広めの部屋にベッドが二つ、小さいテーブルに椅子くらいなものである。だがそんな状況にもなれっこな私たちは、それぞれ思い思いの場所でくつろいだ。

小さい方々というのは、ニコに私、それから兄さまにジャスパー、それにアリスターである。

ヒューが言った小さい人とは私とニコのことだろうと思うのだが、お話要員として残りの三名も派遣されたものと思われる。

「じゃあ、俺から説明するぜ」

一人だけ大人も混じっている。キャロである。

「俺が小さいから選ばれたんじゃないからな」

「そんなことおもってないもん」

そう言えばキャロは背が低めなことを気にしていたのだったが、本当にそんなことは思っていなかった。

「まあ、実際のところ、俺の説明が一番わかりやすいから選ばれたんだけどな」

確かに、バートなら大雑把だし、クライドなら最低限のことしか話さないし、ミルならそもそもすべて話すとも限らない。キャロが適任である。

「さあて、じゃあこれを見てくれ」

キャロはテーブルではなく、ベッドに地図を広げた。

「ニコ殿下は地図は見たことあるかい?」

「ああ。ここがキングダムのおうと。そしてここがケアリー」

「ミルよりよっぽど頭がいいぜ」

そのつぶやきは聞かなかったことにする。

「その王都から見て、真西のここが、目的地のトレントフォース。こう」

キャロが王都を中心にしてぐるっと円を描いた。

「うまいことキングダムの結界の恩恵を受けている町なのさ」

「リアのいたところか」

「そうだ。いい町だぜ」

キャロの言葉には温かい気持ちがこもっていた。

「で、今がケアリーから出て最初の町。ここだな」

キャロの指が、ケアリーから南に下がる。

「そのまま海まで南下する。ここがニクス。カークが足を怪我した危ない島があるところだよ」

「あぶないしまか!」

ニコの目が輝いた。なぜ男の子は危ないことが好きなのか。

「それから海岸沿いに西側へぐるっと回って、最後がトレントフォースだな。ゆったり進んで一カ月ってとこだ」

「あいわかった」

よく考えると、更に旅が三か月もかかるというのは大変なことだが、ふと、そうまでしてニコを城に戻したくないのかなという気がしてなんだか嫌な気持ちになった。だが、城より旅のほうが安全なんてありえないことだと、首を横に振ってその考えを押しやった。

「海までは一週間はかからないと思うぞ。なにか質問は、つまり聞きたいことはないか?」

キャロはニコに丁寧に尋ねている。

「今はなにもおもいつかぬ。かんしゃする」

最終的な目的地と、今どこに向かってそれに何日かかるかわかれば、旅はだいぶ楽になる。

「さーてと、じゃあ何をして遊ぶ?」

地図をしまってキャロが腕まくりした。

「戻らなくていいのですか?」

「こっちの方がいいに決まってるだろ? 向こうにはあと三人いるんだから、一人くらいちゃんと話を聞いていると思うぜ」

とはいえ、とっさに出来る遊びなど思いつかなかったので、海の町に何があったのかをキャロ視点で話してもらって、その日はお開きになったのだった。

ギルがやってきたところで、ニコに手を振って別れると、私と兄さまは一緒の部屋に向かった。お風呂はご飯の前に入っているから、あとはもう寝るだけである。

「さて、にいさま」

「な、なんです? リア」

兄妹二人きりになってニコニコしていた兄さまは、私が改まって話を始めたことに少したじろいだ。

私は、何も言わずに自分用の荷物の中から、大きめのきんちゃく袋を引っ張り出した。

「ガチャガチャ音がしていますが、それはいったい何ですか?」

「はい」

床の上にざざーと袋の中身を空けると、出てきたのは小さくて長細い板である。

「マールライトですか……」

「ユベールがぜんぶおいていってくれたの」

「数枚でいいでしょうに。まさか律義に全部置いていくとは……」

私とニコがユベールにマールライトをねだった場に兄さまもいたはずだが、まさか私の全部欲しいという要求にこたえるとは思わなかったようだ。

「それで、リア。そのマールライトがどうかしましたか?」

はぐらかしたりからかったりせずに話を聞いてくれようとするのは助かる。

「これで、ちいさいけっかいばこをつくりたいの」

私はバートに、もっと小さい範囲の結界箱を作れないかと聞かれてから、ずっと考えていた。

その時、厳しいことを言ってバートを止めてくれた兄さまには感謝している。能力があるからと言って、それを安売りしてはならないし、そうすることは相手のためにもならないということを教えてくれた。

だが、小さい結界箱を作るという考え自体は、とても面白いと思うのだ。

自分一人を覆えるだけの結界は、実用的ではない。一番は、そんなに間近に虚族がいることに耐えられないからだ。

辺境に住む民は、虚族が身近だからこそ、虚族の被害に遭わないよう、様々な工夫をしている。それでも被害が出るのは、虚族が怖くてパニックを起こすからだ。冷静な判断ができず、安全地帯から出てしまう。

決して結界に入ってこられないとしたとしても、手を伸ばせば届くところに虚族がいることに耐えられる人は多くないと思う。

ということは、小さい結界箱を作ったとしても、ハンターか商人のお守りくらいにしか需要がないのではないか。だとしたら、今ある結界箱の商品価値を下げることもない。

それならば、お金も時間も、そして技術も資材もあるオールバンス家の娘である自分が、遊びで作ってもいいのではないかと思うのだ。

「バートのためですか?」

当然その質問が来ると思っていた。

「はんぶん、そう。はんぶん、ちがう」

きっかけはバートの提案だ。だけれども、作ってみたいと思ったのは私だ。

「その、違う半分の理由を教えてください」

兄さまの声は真剣だ。

「おもしろい、とおもったの。いままでのまどうぐと、ちがうものをつくることが」

「おもしろい、ですか」

「うん」

私は地面のマールライトを一枚、取り上げて部屋の明かりにかざした。

「ユベールはとてもゆうしゅうなひとだけど、きまったまどうぐをつくることしかゆるされないでしょ?」

「そうですね。魔道具は必需品ですが、職人は少ない。たくさん供給するためには、同じ道具を作り続けてもらわないと」

「そう。だけど、リアはちがう。ニコもちがう」

学校に行く年でもなければ、働く必要もない。

「せっかくへんきょうにきたのだから、いろいろやってみたいの」

「つまり、キングダムの結界の届かない、虚族のいるところに来たからということですね」

私の遠回しの表現が伝わったようで、大変助かる。

「バートは、十分な謝礼を払えないかもしれませんよ」

「これはバートからのおねがいじゃないの」

私は取り上げたマールライトをそっと下に置いた。

「これはリアからみんなへのおねがい。おかねもリアがだします。あとばらいだけど」

魔石に魔力を入れたお金や何かを、お父様が貯金してくれているはずなので、たくさんは払えないと思うが、それを使わせてもらうつもりだ。

「リアとニコ殿下でこっそりやるのではないのですか?」

兄さまはまず皆へのお願いの方が気になったようだ。

私は首を横に振った。

「みんなのきょうりょくがいるの」

「誰に、どんな?」

兄さまが丁寧に話を引き出してくれる。

「ニコとリアは、マールライトをへんしつさせるじっけん。にいさまには、せいかをかんりするおしごと。アリスターには、そとがわをつくってほしい。バートたちは、じっさいにつかってみるおしごと」

「なるほど」

兄さまは腕を組んだ後で、右手を顎に当ててじっくり考えている様子だ。

「こないだリアとニコ殿下が行った実験は、魔石とマールライト、それにローダライトを組み合わせただけでしたね。今度はそれを納める箱まで作りたいと、そういうことですか」

「うん。バートたちがつかえないと、いみがないから」

「実験だけでなく、実用まで考えての提案、ですね。うーん」

兄さまはあれこれ考えを巡らせているようで、壁の一点をじっと見つめたまま黙り込んだ。

「作るのはいいとして、例えばこれをサイラスのような悪人が手に入れる可能性も考えなければなりません。が、それはあくまで商品として売り場に並べた時の話です」

遊びで作るのだと言っても、魔道具の商売をしているオールバンスが、その成果を生かさなくてどうするということを兄さまは考えているのだと思う。

私はそこまでは考えていなくて、ただユベールが教えてくれた結界の変質を試したくて頭がいっぱいという感じだ。

「もう一つ考えなくてはならないのは、ファーランド一行にどう説明するかです。ヒューに関しては、バートたちの雇い主ですからね。私たちの力についてももう知っていますし、隠していても仕方がないのでいいのですが」

実験を一つやりたいというだけのことなのに、いろいろ考えなくてはならないことがある。ただ、兄さまの話はすべて、私のお願いをかなえるためにどうすればいいかということが前提になっている。つまり、私のお願いを聞いてくれたということなのだ。

「やっていい?」

「ええ。以前厳しいことを言ったのは、覚悟のないまま始めてほしくはなかったからだけですので」

「やった! あした、まず、ニコにそうだんしてみる!」

最初は自分たちの実験から始まり、そしてそれを見たバートの提案で具体化した小さい結界箱の構想だが、とりあえず話が進みそうである。もうこっそりやって叱られるのはごめんなので、兄さまも巻き込んで、ついでに管理してもらう作戦、大成功の夜であった。