軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

旅は時間がかかるもの

カークとも別れを惜しみ、ついに出発した私たちだが、予想外に護衛もお付きの人の人数も少なかった。正確には、ケアリーまで来た時とほとんど同じということだ。ほとんど同じというのは、ユベールがいなくなったから。だが、確かお父様は、ニコ用にキングダムから余分に護衛を連れてきていたと思う。

「どうしてにんずう、すくないの?」

疑問に思った私は素直にヒューに聞いてみた。

「そうだな」

私とニコは、身軽にラグ竜の振り分け籠に乗っている。

この先の行程では、専用の竜がたくさんいると通りにくいところがあるためだ。連れてきた私のミニーはお父様と一緒にキングダムに返してしまったから、普通の竜に乗っているのだ。

普通の竜だから、小さいミニーとは違い、隣の竜に乗っている人と顔の高さの段差があまりなく、話しやすいのである。

「アルバート殿下は手練れだという護衛を連れてきてくれたが、お断りした。虚族の出る夜の挙動に慣れていない護衛は足を引っ張るだけだ。キングダムの中で優秀な兵と、辺境で優秀な兵はだいぶ違うのでな」

「なるほど」

私はもっともらしく頷いた。

「でも、にんずう、おおいほうがよくない?」

「リアよ。今回は珍しくいろいろ考えているな」

ヒューが驚いたという顔をしたので、なんだかちょっとイラっと来た。

「リア、いつもよくかんがえてるけど?」

いつもよく考えてはいるけど、口に出さないだけだ。

「その尖った口が憎たらしいな」

「べつにとがってませんー」

危うく頬をつままれるところだった私はさっとかわした。二年前よりだいぶ身体能力は上がっているのである。

「チッ。まあいい」

何がいいのだ。

「サイラスは従者と二人で逃げているらしい。竜の売買もいつも二人で行っていたらしく、何かしらの集団を率いていた気配はないそうだ」

「ふたりで」

竜の群れとしての性質からいえば、リーダーとなる竜を操ることができれば、その群れはすべて言いなりになる。そういう意味で言えば、二人で竜の売買をしてもおかしくはない。だが、それでもどこかに拠点は必要なのではないか。

私は腕を組んで考えた。

が、それも込みで調査をしているはずなので、私が考えても仕方がないのかもしれない。

「もし西部に逃げ込んだとしても、前回のように、人を集めて我らを襲う危険性は低いと判断した。だから使えない兵が多くいるより、私の意がすぐに伝わる兵が少数いるほうがいい。そのほうが機動力もあり、すぐに動ける」

機動力という言葉を聞いて私は、トレントフォースから領都に向かった時、襲われたことを思い出してブルっとした。

その様子を見ていたのだろう、バートが声をかけてくれた。

「リア、あの時は、トレントフォースからずっと複数の視線を感じてたんだ。ずっと警戒して大変だったが、今はそんな様子は全くない。道中少しでも危険を感じたら、ケアリーか領都に方向を変えるように言われているから、あんまり心配しなくていいぞ」

勘の鋭いバートが言うのならそうなのだろう。私は安心してポスンとかごに落ち着いた。

「バート」

「なんだい、ニコ殿下」

私の代わりに、今度はニコがバートに声をかけている。

「トレントフォースはまだか」

「ハハハ。トレントフォースな。まだまだだぞ」

私は誰もニコに行程を説明していなかったのかとびっくりした。そういえば、お父様たちが来てから私たちが出発するまで、慌ただしくてゆっくり話もできなかった。テーブルの下でピクニックなどしている場合ではなかった。

「だいたいあと一か月後だな」

「いっかげつ……」

遠回りして帰るとしか思っていなかったとしたら、それはびっくりするだろう。

「行きに一か月、帰りに一か月。途中にどのくらい滞在するかで、もう少し長くなるぞ」

「ということは、およそみつきか」

「ニコ、ごさいになっちゃうかも」

三か月なら間に合うが、五か月たてばニコの誕生日が来てしまう。

「そんなにか……」

確かにあの会議の時、ニコは事情は理解したと言っていたが、本当に理解していたわけはない。大人の言うことには従うしかないというあきらめの言葉だということに私が気が付かなければいけなかった。しかも、今私は余計なことを言ってしまった。お誕生日と言えば家族で祝うもの。しょんぼりした声は、家族が恋しくなってしまったからに違いない。

こうなったら楽しい話でごまかそう。

「ニコ、トレントフォースいくまえに、うみがあるよ」

「うみか」

ニコの声に少し元気が戻った。

「ミルスこよりずーっとおおきくて、なみがいっぱいある」

「ミルスこより大きいのか」

「おおきいよ!」

時折、バートたちや兄さまも加わりながら、海の話をし続けたら、しょんぼりしたことなどなかったように元気になった。だがこれではその場しのぎにしかならない。

私は強く心に決めた。

ケアリーを早くに出発したので、宿には早く到着し、夕食も早めになった。

「ここらあたりは農業地帯で、芋がおいしいんですよ。庶民の味かもしれませんが」

と宿のおじさんが言っていたが、大歓迎である。

「芋……」

と遠い目をしたアリスターを見ていると、どうやら未だに好き嫌いを克服していないようだ。

「アリスター、リアのとなりにすわる?」

「いや、遠慮しとく。今日は絶対に座らない」

食べさせてあげようと思ったのに、残念である。

しかし貴族に出す食事だからか、お芋をシンプルにつぶしたものは出ず、その代わりたっぷりのクリームと一緒にオーブンで焼いたものや、細切りにしてベーコンと一緒にこんがり焼いたものなどが出たので、私は満足である。

「この食感なら、俺でもいける」

と、アリスターもいくらか食が進んでいたようなのでなによりである。

「さて、そろそろ小さい方々は部屋に戻るように」

デザートまでしっかり食べた後なので、普段ならヒューの言う通りにするところだが、今日の私は違う。

「いやだ」

これである。当然、腕もしっかり組んでいる。

「な、なに?」

普段素直な私が反抗しているので、ヒューが動揺していて笑える。

「リア、へやわりのへんこうをようきゅうする」

「部屋割りの、変更だと?」

私はうんと大きく頷き、次のように宣言した。

「きょうから、ニコはリアとおなじへやにする」

「え、では私はどうなるのですか?」

兄さまは今は黙っていてほしい。

「きょうからそうなるのか?」

ほら、ニコが目をキラキラさせているではないか。

しかし、ヒューはふうっと大きくため息をついた。

「リーリア。お前には前にも言っただろう。貴族なのだから、幼くても男女同室はならぬと」

「それは聞き捨てなりませんね。いったい前にどのようなことがあったのですか」

だから兄さまは今は黙っていてほしい。

「いいんじゃないか。前は俺と同じ部屋だったんだし。なんならまた一緒の部屋にするか?」

お芋を克服して元気いっぱいのアリスターも口を挟む。

「いまはアリスターのはなしじゃないの」

「お、おう。ごめん?」

アリスターは素直に引いてくれた。

「リアにはにいさまがいて、なんでもせつめいしてくれるけど、ニコにはだれもいないでしょ」

私は丁寧に説明してあげた。

「だから、トレントフォースまでどういくか、ニコがしらなかったでしょ」

これにはギルと兄さまが青い顔をした。

「ニコ殿下、すまない。それは本来俺がやるべきことなのに。だから今日、海の話を初めて聞いたみたいな顔をしていたんだな」

「私もです。慌ただしかったとは言え、旅程をきちんと話していなかったなんて、私としたことが申し訳ありません」

「かまわぬ。どうせいずれはたどりつくのだ」

それでいいわけがない。

「これからさき、まだながいから。よるにひとりはいけません」

私はしっかりと説明してあげた。護衛がいても、心を割って話すわけにはいかないのだから。今までは一人で大丈夫と言っていたが、これから数ヶ月もかかるのなら一人はよくない。

「だが、いくら仲がいいとはいえ、お前たちは微妙な立場なのを忘れてはならぬ。以前にも言っただろう。その、あれだ」

ヒューが気まずそうな顔をして、バートに助けを求めた。

バートもミルもキャロもクライドも、何のことかわからないという顔をしている。それを見てアリスターが肩をすくめた。

「リアがニコ殿下のお妃候補かもしれなくて、それでリアをさらおうとしている奴がいるかもしれないって話だろ」

じれったくなったのか、ヒューがごまかした部分を、アリスターがはっきりと口にしてしまった。

二年近く前の話をよく覚えているものだ。

「そんなはなしがあるのか」

ニコが面白そうな顔をしているが、そんな話などない。

「ありません」

兄さまがちょっと厳しい声音でニコに返事をしている、

「その、同室だったということでまるで既成事実だというように噂されかねないということを私は心配しているのだ」

「にゃい」

私はきっぱりと言い切った。この間のケアリーの下屋敷の件と言い、幼児には大人の男女関係ははっきり言ってどうでもいいのである。

「それなら、そもそもいっしょにウェスターにきたことじたい、そういわれるでしょ」

「ううう、そうなんだが」

ヒューは頭が固いし、兄さまは私と同室を譲りたくないしで、話が進まない。

「要はさ、リアはさ」

アリスターが気軽そうに間に入ってくれた。

「ニコ殿下にちゃんと話が伝わって、寂しくないようにすればいいんだろ」

「そう」

私はさすがアリスターと思い、にっこりと笑った。

「だったら、寝るまではできるだけ皆で集まって話をして、ニコ殿下が寝る時はギルと一緒の部屋でいいんじゃないか? 俺と一緒でもいいしさ。リアで小さい子には慣れてるからな」

アリスターの提案は、よく考えてみると当たり前のことだけれども、ギルも自分が誰かと同室とは考えたこともなかったようで、ものすごく驚いた顔をしていた。