軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

どうせなら

「キーエ!」

「キーエ!」

小さい子。

いらっしゃい。

竜舎に入ると人は誰もおらず、その代わり、つながれていた竜が数頭いてとても歓迎された。私たちは手前の乗り降りするところを乗り越え、かごをのせられている竜のところに行って、その顔を抱えるようにぽんぽんとし、ラグ竜の匂いを吸い込んだ。猫は見つけられなかったけれど、ラグ竜の乾いた温かい匂いを嗅いでいるとなんとなくほっとする。しばらくすると、ラグ竜がまた鳴き出した。

「キーエ」

「キーエ」

小さい子、群れに戻りなさい。

私たちは、これからお仕事なの。

「お仕事?」

既にかごが付いているところを見ると、この荷物をどこかに運ぶのだろう。

その時、がやがやと人がやってくる気配がした。

「まずいな」

ニコがきょろきょろと周りを見渡している。その目が隅の荷物の影をとらえた。

「あそこのすみにかくれよう」

「キーエ!」

だめよ。

久しぶりに竜に止められてしまった。

「りゅう、リアたち、みつかりたくないの」

「キーエ……」

それならね。つかまって。

「え?」

いきなり、私とニコの前に別の竜の頭がにゅっと突き出された。

「つかまる?」

「キーエ」

仕方がないので竜の頭にギュッとしがみつくと竜は私を持ち上げて、小さくキーエと鳴いた。

降りて。

思い切って竜の頭から手を放すと、私はぽすりと何かの上に落ちた。

それは竜につけられているかごだった。中にはいろいろな物が詰まっているが、一番上はシーツか何かのようだ。

私たちは竜舎の部屋の隅は心配だが、自分たちの荷物の中なら大丈夫ということなのだろう。

どうしようかと考えている間に、ニコが反対側のかごにぽすりと落とされてしまった。

「さあて、久しぶりに下屋敷だな」

「ああ、客人がいたおかげで面倒な仕事をしないで済んだのにな」

その時いきなり竜舎の入口に人が現れたので、私は思わず頭を引っ込め、できる限りシーツの間に潜り込んでじっとしていた。なるべく端の方に寄るのも忘れない。ニコは大丈夫だろうか。

「今回はかご二つか。ま、主役はこっちだがな」

声はどんどんと近くなり、主役ってなんだと思う間もなく私の上に荷物がどさっと落とされた。

端っこに寄っていてよかった。

「ファーランドからの貴重な土産だとさ。何かの宝石らしいぜ。あとはキングダムの魔道具」

「アデル様に渡すのが待ちきれないんだろうよ。せめて客人が帰るまで待てばいいのに、奥様もおかわいそうになあ」

私はシーツの中で頭を抱えた。

話をつなぎ合わせるに、どうやら下屋敷というところには、ケアリーの町長がお土産の宝石を渡したい、アデルという人がいる。奥様がかわいそうということは、おそらくその人は、町長の特別な人なんだろう。つまり、浮気だ。

そんな話は聞きたくなかった。

「さあ、じゃあ出発だ」

「おう」

だが話を聞きたくないとか言っている場合ではない。もしかしたらと思っていたが、やはり竜が動き出したではないか。

「どうしよう。にいさまがしんぱいする……」

ラグ竜は意外と上下に揺れず、乗り心地はいい。しかも、シーツと荷物に挟まれ、なんとなくいい感じにおさまっている。いつもならお昼寝する時間だが、頑張って起きていた私は、竜の揺れに負けて、いつの間にかすやすやと眠ってしまっていた。

「キーエ」

起きて。

「リア、おきるのだ」

「うあー」

私は自分の体温でぬくぬくの布の中で目が覚めた。挟まる感じがなくなっているので、上に置かれた荷物はどかされたようだ。振動もないことから、竜からかごが外されているんだろうなということがわかった。

私はおそるおそるシーツの間から顔を出した。竜の左右に振り分けられるかごは二個セットになっている。もう一つのかごから、ニコがぴょこりと顔を出していた。

「ニコ」

「しーっ。リアがねているあいだに、どうやらもくてきちについたようだ。しもやしきといっていたか」

私はあたりを見渡してみた。竜がいて、乗り降りする台のある造りは、町長の屋敷の竜舎と同じだ。ただし規模はだいぶ小さい。下屋敷がどこにあるかはわからないが、ずいぶんお金をかけているということはわかった。

私の周りには同じような竜のかごがいくつも置かれているから、ここは荷物の一時置き場だとわかる。

「どうしよう」

「うむ。こまったことになったな」

竜車の外からは、にぎやかな気配がするから、ここはきっと町のどこかなのだろう。

「かごにいたら、もどれるかな」

「むりだな。にもつをいれかえるだろうからな。おっと」

ニコは頭だけ出していたかごからにょろりと抜け出した。

「かごにいてもしかたがない。リアも出てこい」

「うん」

出てこいだけでなく、手も差し出してくれるニコ、紳士である。

よっこらせと抜け出した私を、ニコは別のかごのところに引っ張ってきた。そしておもむろにかごに手を伸ばすと、リンゴを二つ、取り出した。

「ほら。おやつだ」

「でも」

これでは泥棒になってしまう。

「なに、あとでしはらえばいい。ひるねのあとは、リアはおなかがすくだろう」

私はニコの思いやりに感謝すると、なるべく陰になるところに座り込んで、しゃりしゃりとリンゴを食べ始めた。

リンゴを食べ始めたら、元気が出てきて頭が働き始めた気がする。どうしようなどと甘えたことをいっていたのは、おなかがすいていたせいだとわかった。

「もどれないなら、みつけてもらおう」

「ルークにか。ということは、あれをやるのか?」

「うん」

あれとは何か。結界である。私一人でも届くとは思うが、隣にはニコがいる。下屋敷がどんなに町長の屋敷と離れていても、必ず届くはずだ。

「でも」

私はしょんぼりと下を向いた。

「ぜったい、しかられる」

「うむ」

旅に出てから、兄さまに叱られてばかりのような気がする。

「だが、しらせないと、ルークがしんぱいするぞ」

「うん。わかってる」

あきらめて顔を上げたとたん、人の気配を感じ、さっとかごの陰に身を隠した。

竜に乗って来た人が台のところで降りて、そのまま右手のほうに歩いて行った。

「りゅうしゃといえ、つながってる?」

「それなら、わたしがみてこよう」

待ってという間もなく、ニコがするりとかごの隙間を抜けていったかと思うと、すぐに戻ってきた。

「どうやらとなりのいえとつながっているようだ。あいだにはせまいみちがあって、そこからまちのとおりがみえたが、まちにぬけだすか? じっとしているのもつまらないし」

私は、ニコと二人で町に出ることを考えてみた。大騒ぎになって、町長の家に連絡が行くだろうが、そのほうが早く帰れる気もする。

「うん。そうしよう」

「では、そのまえに。小さいけっかいでいいな」

「うん」

同じケアリーの町なら、それで十分届くだろう。

「けっかい」

「けっかい」

二人で向き合って作った結界は、ふわんと広がって消えた。そして、数秒もしないうちに、ふわんと別の結界の気配がした。

「にいさまと」

「ギルのけっかいだな。このはやさは……」

「ぜったいしんぱいしてる……」

そんなに時間が経っていないことだし、気づかれていない可能性もあると考えていたのだ。そして催促するようにもう一度結界が来た。

「うう」

「けっかいをかえすぞ」

これでおそらく、兄さまが助けてくれることはわかった。だからここでじっとしていればいい。

いいのだが。

「どうせしかられるのなら」

「リア……」

ニコがあきれたようにため息をついた。

「わかっている。どうせめいわくもかけるのだ。まちにでてみるか。なに、おつかいしているふりをすればよい」

「それ! さいよう!」