軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

兄さまとギルからの申し出

「では、まず私が」

ユベールがマールライトに指先を触れ、ほんのりと魔力を流したのが見えた。周りからはただ触れているだけのように思うだろうが、私にはユベールの指先から魔力が流れていったのがわかる。そうして変質がどのようなものか確認するのだ。

「ふむ。次はリア様、よろしいですか」

「うん」

私もマールライトにそっと魔力を流してみた。魔力が素直に結界に変換される。つまり、魔石に入った魔力に応じて結界が展開される、アリスターの結界箱に近いものを感じた。

「はい、こうたい」

「うむ」

ニコもふくふくとした指を伸ばして、そうっとマールライトに触れてみている。

「ふむ。なるほど、べんきょうになるな」

マールライトに触った後は、私もニコも床に下ろしてもらった。

ユベールはその後もマールライトの段を持ち上げ、その下やつなぎ目を確認し、最後にはきちんと結界箱を元に戻した。

かと思うと私たちの横で急にしゃがみこんだ。いつものように三人で頭を寄せ合う。

「リア様、ニコ殿下、どう思います?」

聞かれたからには答えねばなるまい。

「アリスターのけっかいばことおなじ。おおきいだけ」

これが私の見解である。

「とくだんかわったかんじはなかったな。ふつうのけっかいだった」

そしてこれがニコの意見だ。

「そうですよねえ。ただ、だいぶ古いものなのでしょう。今すぐどうなるということはないでしょうが、マールライトの力が弱っているような気がしますね。ローダライトもできれば新しいものと交換したいところですが」

しゃがみこんだまま悩むように腕を組んだユベールは、顔を上げると周りの人の視線に驚いて後ろにお尻を付いてしまった。

「うわっ」

「驚いている場合ではありませんよ、ユベール」

あきれたような兄さまをはじめ、部屋の全員が自分たちに注目していたことに気づいたユベールは、急に慌てだした。

「す、すみません。つい夢中になって」

普段三人であれこれ研究成果を話しあっているから、こんな感じになってしまったのだろう。

「それでどう思いますか」

「は、はい」

ユベールは慌てて立ち上がると、二、三度深呼吸をした。

「古いタイプの結界箱ですが、その分余計な手が入っておらず、手入れは比較的簡単な印象です。マールライト、ローダライトを定期的に点検、交換しさえすれば、後は魔石次第で長く使えるよいものだと思います」

ギルバート王子はヒューと顔を見合わせて、ほっとしたように微笑んだ。

「ただし、逆にいえば、今までほとんど手入れはしてこなかったのではないでしょうか。ローダライトは古いものですし、マールライトについても若干効果が弱まっている印象です。数年で壊れるものではありませんが、できればお手入れが望ましいかと」

キングダムの魔道具の技師らしい提案ができたユベールは、責任を果たした面持ちで少し緊張が解けたように見えた。

「とはいえ、ウェスターには結界箱を扱える技術者などおらぬ。本来なら箱ごとオールバンスに預ければいいのだろうが、既に明後日には結界箱を発動する。その後も定期的に使うとなれば、10日以内にキングダムの王都まで往復するのは厳しいものがあるな」

ギルバート王子が難しい顔で眉根を寄せる。

「そこでわがオールバンス家から提案が二つあります」

兄さまがゆったりと両手を広げてみせた。ウェスターの王子二人はその話を聞こうという真剣な表情に変わった。

「ひとつ。シーベルに滞在している間、このユベールを貸し出しましょう」

「この者をか。先ほどオールバンスの専属技術者と言っていたが、つまり」

「はい。結界箱を扱える技術者になります」

おおというどよめきが起こり、ユベールはその声にびくっとした。私は安心させるようにユベールの腿をぽんぽんと叩いてあげた。

「いや、待ってくれ。今まで絶対にキングダムを離れなかった王族と四侯が、幼き者たちとはいえここウェスターにいる現状が現実離れしていることはわかる。しかし、結界の技術者を外に出すのも本来は駄目だろう。これはさすがにいかがなものか」

ウェスターの王族に苦言を呈されている現状こそがちょっと笑える私である。

「はい。だから内緒です」

兄さまはにっこり微笑んだ。

見渡してみると、部屋にいるのはウェスターの王族が二人。兄さまとギルとアリスター。そしてニコと私とユベール。あとは護衛だけだ。今回はファーランド一行には席を外してもらっている。

「ここにいる者が口外しなければ、ウェスターでは秘密は漏れることはありません」

キングダムでは漏れたとしても問題はないということなのだろう。ニコがいても大丈夫ということは、おそらくここに来る前に王家にも許可は取っているはずだ。

「ユベール、できますね」

「はい。ローダライトの交換はすぐですし、マールライトは今回は交換せず、今ある物の寿命を延ばす調整をしたいと思います。今日一日やるだけでもだいぶ安定するはずです」

「おお、それはありがたい」

こんな時のユベールは頼もしい。

「そしてもう一つの提案はこれです」

兄さまがギルに合図すると、ギルは最初から持っていた大きい布包みを慎重にほどいた。

「それは、いったい」

中から出てきたのは、何の変哲もない木の箱だった。

この部屋にある結界箱が一抱えくらいあるとすると、その箱はその半分もない。

なんの模様も入っていないが、高級感はある。

ギルと兄さまは、そのままウェスターの二人の王子の前まで進むと、中身が見やすいようにとギルが跪いてから膝にのせ、パカリと蓋を開けた。私とニコとアリスターも、それを見たくて近くに寄っていた。

「三か所のくぼみ。まさかこれは」

兄さまはにこりと頷いた。

「この間は妹を保護していただいた感謝の気持ちとして、三つの魔石を。そして今回はお招きにあずかった土産として、それをはめる結界箱を。前回はオールバンスからですが、今回はリスバーンからの感謝の気持ちです」

それで兄さまではなく、ギルが結界箱を持っていたのかと納得した。ギルが結界箱を持ったまま、恭しく口を開いた。

「もちろん、オールバンス製の魔道具ですが、リスバーンが発注して作ってもらいました」

ちらりとアリスターにやった視線で、リスバーンの、四侯の夏青を一人預けている礼であるということが伝わったと思う。それと同時に、アリスターはウェスターにいてもリスバーンの一族であることを念を押したとも言える。

「目立たぬようにあえて装飾は省いていますが、箱はウェリントン山脈の硬くゆがみのない栗の木を用い、耐久性を重視しました。そして」

ギルは言葉を止めると兄さまのほうに目をやった。

「中はオールバンスの最新技術で作らせてもらいました。魔石は今ある結界箱と共有できますが、一番の特徴は、魔石が今までの1.5倍もつということです」

「それはつまり、魔石を充填しさえすれば、それが今までよりも長くもつということか。魔石の充填の間隔が今までよりあけられると」

「その通りです」

誇らしそうに胸を張った兄さまだが、その兄さまこそが私は誇らしい。

「しかし、しかしそれでは、私たちウェスターに利が大きすぎるのではないか」

「確かにそのように思われるかもしれません。ですが、私たちも完全に無償でこの結界箱を提供するわけではありません」

兄さまの言葉にむしろ安心したように、前のめりだったギルバート王子は椅子の背に寄りかかった。

「そうでなくてはな。ではその条件を聞こうではないか」

兄さまはまっすぐにギルバート王子を見た。

「実はこの結界箱は、最新の試作品なのです」

「試作品」

最新ということは、まだ性能が安定していないということなのだろうか。

「試作品と言っても、結界箱を長年作っていたうちの技術からすれば、性能に不安があるわけではありません。ただ、正直なところ、作ったばかりで、まだ長期的な耐久実験ができていない状況なのです」

私がバートに話したことと同じだ。

「だからこそ、万が一結界箱が動かなくなった場合でも、もう一つの結界箱がある状況で、どのくらいの性能がどのくらいの期間発揮できるか確かめるよい機会ととらえました」

「つまり、我らはこちらの新しい結界箱を使う。そして元からある結界箱は予備とする。予備として十分な機能を発揮するために、整備もオールバンスが受け持ってくれると、そういうことでいいのだろうか」

ヒューが要点を確認した。

「はい。とりあえず10年は経過を見たいと、当主が申しておりました。それ以降の整備には費用はいただきたいとも」

「10年、無料で使えてそれ以降も整備代だけで済むのか。しかも万が一のための予備まである状態でとは……」

ウェスター側にとって有利な条件であるということは私にでもわかる。

「この結界箱の事業は我ら王子二人に任されているゆえ、この場ですぐに返事をしたいところだが、あまりに重大な案件だ。陛下に相談して決めたいが、待ってもらえるか」

「もちろんです。ただ、かまわなければ時間がもったいないので、ユベールにこの結界箱の整備だけは始めさせたいのですが」

「それはこちらからお願いしたいくらいだ。重ね重ねの配慮に感謝する」

ファーランド一行を排除したこの結界の部屋の中で、ウェスターとキングダムの結びつきが一段と深まる瞬間を、私は見たのだと思う。