軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

子ども部屋なんかでごまかされない

気がついたらいつものように朝だった。

「おはよう! いいあさ!」

本当はいい朝かどうかはまだわからないのだが、私は元気に飛び起きた。

「おはようございます、リア。旅の間は一緒にいられて、毎日いい朝ですね」

「にいさま、いいこという。さすが!」

既に着替えて何かの書類を読んでいた兄さまが爽やかな笑顔を向けてくれた。やっぱりいい朝だ。

ナタリーもハンスも控えめながらいい笑顔で、部屋の外に出れば朝食の席にはアリスターやバートがいる。そして視界の端にはいつもセバスが控えている。

ただ、お父様がいないことだけが残念だった。

「さて、リア、今日、私はユベールと共に魔道具の調整の仕事をしなければなりません。その間、お城でニコラス殿下と一緒に過ごしてもらっていてもいいですか。ニコ殿下も公務ばかりではなんですから、どうやら子ども部屋を開放してくださるそうですよ」

私は兄さまのほうを横目でちらりと見た。

子ども部屋と言いさえすれば、私がすぐに飛びつくと思っているのだ。ならば返事はこれ一択である。

「いや」

「り、リア?」

よい子の私はめったに嫌とは言わない。だが、今回は別である。ユベールが一緒で、魔道具の調整をするということはつまり、今回のメインイベント、シーベルを覆う結界箱の調整をするということではないか。それならば、私だって見てみたい。

「リアも、にいさまといく」

「それはいけません」

「いく」

「リア」

兄さまの静かな声は怖い。だが、私はキングダムの結界箱の中でさえ見た幼児だ。シーベルの結界箱だって見てみたいではないか。

「あの、ルーク様」

この緊迫した空気の中、割り込めるユベールは案外心臓が強い。

「この件ですが、ご当主がいれば、だめとは言わないと思うんです。それに」

確かに、危険がないのであればお父様は意外となんでも言うことを聞いてくれるような気がする。

「それに? なんだというのですか」

「ええと、その」

厳しい兄さまの言い方にたじろぐくらいなら、最初から会話に割り込まなければいいのにと思うが、助かったのは確かだから、私は胸の前で手をギュッと握ってユベールを応援した。

「あの、リーリア様がいてくれると心強いというか」

これはあまりに意外だったのか、部屋には居心地の悪い沈黙が落ちた。成人男子がいったい何を言っているのかというあきれと、リアならそう言われても仕方がないというあきらめと、理由は二つあったと思う。

しかし、へっぽこなユベールがせっかく勇気を振り絞って後押ししてくれたのだ。私はすかさず畳み込んだ。

「そう! リアがいたら、けっかい、あんしん。それに、あんぜん」

結界になにかがあっても、私がいたらなんらかの対応ができることを推しておく。

「そうですね。確かに、リアは目に入るところにいたほうが安心、安全か」

兄さまがぽつりとつぶやいたが、私は首を横に振った。そういう、私が危険物のような言い方は止めてほしい。

「リアがいると、やくにたつでしょ」

そういうことである。

「俺も行くし、いいんじゃないか」

「アリスターまでなんですか。いくらリアと一緒にいたいからって、皆甘やかしすぎではありませんか。まあ、いいでしょう。しかし、リアだけが参加するのを、ニコ殿下が納得するかどうか……」

もちろん、納得するわけがなかった。

「わたしはリアといっしょにけっかいばこの中を見たおとこだぞ。リアが行くなら、わたしも行く」

兄さまが困ってウェスターの第一王子であるギルバート王子のほうを見ると、苦笑して許可を出してくれた。

「リーリアは相変わらずやんちゃだな。それに、ニコラス殿も頼もしいことだ。結界箱がおもちゃがわりとはな」

それはおもちゃのたくさんある子ども部屋より、結界箱の部屋のほうがいいんだねという、優しいからかいに過ぎなかったが、ニコの言う結界箱が、キングダムの結界を維持しているものを指すということは気づいていないだろう。それに、結界箱が本当におもちゃになっていると知っている兄さまが、一瞬こめかみに手をやってギルバート王子から目をそらすのを私は見てしまった。

変わった幼児で申し訳ない。

許可も出たので、皆でぞろぞろと結界箱の置いてある一室に向かうと、その部屋の真ん中の台の上に、大人がやっと抱えられそうな大きさの精緻な模様の入った結界箱が置いてあった。

キングダムの結界箱は動かせないように土台が固定してあり、しかももっと大きかったが、やはり町一つ分で魔石を三つしか遣わない箱だと、このくらいなのだろう。アリスターの持っていた結界箱よりはだいぶ大きいが、それでもやはり。

「ちいさい……」

「リア」

ニコに叱られたが、遅かった。全員が振り返ってこちらを見ているではないか。なんとかごまかすことができないかと思ったが、何も思いつかなかった。

「ゴホン、ゴホン」

と兄さまが13歳らしからぬ咳をして代わりにごまかしてくれたので、ほっとする。少し言葉には気をつけなくてはならない。

「この間ルーク殿が来てくれてから、魔力訓練のやり方を見直してみてな。三つある魔石のうち、前までは二つが限度だったが、今では王族だけで三つ全部魔石を満たすことができるようになったのだよ」

ギルバート殿下が自慢そうに成果を話してくれた。

「ただ、うちはヒューが私の代わりに視察で、国のあちこちに出歩くことが多いのでな。やはり、アリスターが成長した暁には、手伝ってくれるといいと思っているよ」

アリスターはそれに対してしっかりと頷いた。

「俺は大人になってもウェスターで暮らすつもりです。何らかの形でウェスターの民のために力を尽くせるなら、やります」

シーベルで暮らし慣れてきたアリスターにとって、シーベルの王家はもう敵ではないのだろう。もちろん、それには、身近にバートたち家族同然の人がいる安心感もあるはずだ。

アリスターが迷いなく暮らしているのを見て私はとても嬉しくなった。

「であるから、もうこれ以上何かをする必要があるとはおもえないのだが。オールバンスには、前回来た時に、予備の魔石という過分な礼を、既にいただいているではないか。今回、結界箱を改めて見たいと言われて驚いたのだよ。それに、していただく理由もない」

ギルバート王子の言う過分な礼とは、オールバンスの娘を保護してくれた礼ということなのだろうなと私はすぐに理解した。

「はい。しかし、今回は、魔石そのものや、魔石を満たすということ以外に、少し試してみたいことがあるのです」

兄さまはウェスターの第一王子相手にも堂々たるものだ。もっとも、ファーランドの第一王子相手でも堂々としていたから、いまさら驚くことではないのかもしれない。

「まず、この者に、そこの結界箱を見せてもよいでしょうか。一族の者で、ユベール・オールバンスと言います。魔力量はさほどでもありませんが、若くても優秀な、オールバンスの専属技術者です」

兄さまがユベールを指し示した。こういう時、力がなくてもオールバンスの名がついているのは役に立つと初めて知った私である。

ユベールは相変わらず気弱そうにおどおどした雰囲気だが、技術者らしく初めて見る結界箱に目を輝かせている。

「かまわぬ。要は大きな結界箱というだけで、ハンターが携帯している小さい結界箱と仕組みは何も変わらぬからな」

ギルバート王子は鷹揚に頷いたので、ユベールは兄さまを確認して結界箱の前に進んだ。もちろん、私とニコもちょこちょこと後ろをついていく。

「おやおや、小さい技術者殿も一緒だな」

兄さまが一瞬無表情になったが、おそらく冗談ではなくその通りですと心の中でつぶやいたのだと思う。ユベールが箱を恭しく開く前に、中が見えるようにハンスが私を持ち上げたのでニコの護衛も慌ててニコを持ち上げた。

「なるほど。まずはこの箱の造りやデザインが素晴らしいのは別として、魔道具としての造りは単純なものですね。中を見てもよろしいですか?」

一番上には大きな魔石が三つ配置されているだけだ。ちなみに、キングダムの結界箱の魔石は五つ。魔石自体もかなり大きい。

ユベールが箱にそっと手を入れると、一番上の魔石の載った台を持ち上げる。その下を思わず首を伸ばすように見つめると、魔石の下の部分三か所に赤みがかったローダライトが配置されている。ローダライトの載った台を持ち上げると次にあるのは薄青いマールライトになる。

そしてそれを上下に動かすスイッチが一番下。

確かに単純なつくりだが、持ち運びする小さい結界箱はもっと単純なつくりだから、やはり箱が大きくなるとそれなりに複雑ではある。

それにしても、今までに見た中で一番大きいマールライトだ。

私は思わずそのマールライトに手を伸ばしていた。

「「「あっ」」」

声が重なったのは、ユベールもニコも手を伸ばしていたからだ。

三人共慌てて手を引っ込めると、ユベールがゴホンと咳払いしてから、ギルバート王子のほうに体を向け、許可を求めた。

「マールライトをはじめ、中の機構に手を触れてもいいでしょうか。私はもちろん、ニコラス殿下が触れてもリーリア様が触れても、なんの害も及ぼさないと誓えます」

私たちの分もお願いしてくれて嬉しい。持つべきものは研究仲間である。

「かまわぬ、かまわぬ」

すぐ許可が出たが、隣のヒュー王子は苦い顔である。兄が鷹揚な分、弟として自分が厳しくあらねばならぬと思っている人だからだろう。